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第3章:家族の記憶

橘 樹と神崎 零士は、奈々の家族に関する手がかりを追い、ついにかつての研究施設の跡地にたどり着いた。場所は、都市部から少し外れた廃墟のような建物。記憶操作の実験が行われていたと思われる場所は、今や朽ち果て、静寂だけが広がっていた。


「ここが……奈々の家族が巻き込まれた場所か」


橘は、静かにその廃墟を見上げながら、胸の中に込み上げてくる不安感を感じていた。神崎は無言のまま、建物の内部へと足を踏み入れる。橘もそれに続いた。


内部は薄暗く、荒れ果てていたが、かつてここで何かが行われていた痕跡がわずかに残っていた。橘は辺りを見渡しながら、かつてここで奈々の家族が何を経験したのか、想像を巡らせた。


「この場所で、一体何が行われていたんだ……?」


橘が呟くと、神崎が静かに言葉を返した。


「記憶を操作する実験だ。おそらく奈々の家族は、この施設でその技術を研究していた。そして、その実験が引き金となり、彼女の記憶に影響を与えた可能性が高い」


神崎の冷静な声が、廃墟の中に響いた。橘は息を呑んだ。奈々の記憶が操作されているという事実はすでに受け入れていたが、彼女の家族がその実験の中心にいたという可能性が、二人の心をさらに重くした。


「でも、なんで奈々が……」


橘は疑問を抱きつつ、さらに廃墟の奥へと進んだ。その時、ふと目に留まったのは、壁に張り付いた古びた写真だった。それは、かつての研究者たちが撮影した集合写真のようだった。橘はその中に、幼い頃の奈々の姿を見つけた。


「これ……奈々だ」


橘は写真を指差し、神崎に見せた。写真の中には、若かりし頃の奈々の父親と母親も写っていた。彼らは穏やかな表情を浮かべていたが、その背後には何か重いものが隠されているように思えた。


「奈々の家族は、この実験の中心にいたということか」


神崎は冷静に写真を眺めながら、言葉を続けた。


「だが、写真にはもっと重要なものが写っている。見ろ、この人物だ」


神崎が指差したのは、写真の右端に立っている一人の男だった。彼の顔は、どこかで見覚えがあるような気がした。橘はその男をじっと見つめた。


「この男……確か、奈々の夢に出てきた影と似ている……」


橘は思い出した。夢の中で奈々が見ていた「影」。その姿と、この写真の男の姿が重なった。橘の心臓は早鐘のように打ち始めた。


「こいつが、全ての鍵を握っているのかもしれない」


神崎の言葉に、橘は強く頷いた。写真の中に写るその男は、ただの研究者ではなく、この記憶操作の技術を陰で操っていた存在なのかもしれない。そして、奈々の記憶に隠された真実に深く関わっていることは間違いなかった。




その日の夜、橘は再び奈々の家を訪れた。彼女にこの写真を見せ、過去の記憶を呼び起こそうとするためだった。奈々は、橘が手にした写真を見つめながら、震える手でそれを受け取った。


「……これは、私が小さい頃の写真……」


奈々は静かに呟いた。彼女の目に、幼い頃の自分と家族の姿が写っている。しかし、その記憶はどこか断片的で、まるで自分自身の記憶ではないかのように感じられる。


「奈々、この写真に写っている人……君の両親の隣にいる男を覚えているか?」


橘は慎重に尋ねた。奈々はしばらく黙り込み、写真の男をじっと見つめた。彼女の瞳には、不安と迷いが浮かんでいた。


「この人……見覚えがあるけど、誰だったのか……思い出せない。でも……すごく怖かった記憶がある。この人が私に何かをしたのかもしれない……」


奈々の言葉に、橘は息をのんだ。彼女が抱えている「恐怖」の記憶――それは、おそらくこの男に関わるものだった。そして、その恐怖が彼女の記憶を操作し、過去を隠しているのだろう。


「奈々……この写真を見て、何か他にも思い出せることはないか?」


橘が優しく問いかけると、奈々は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。彼女は必死に記憶の中にある断片を拾い集めようとした。そして、彼女が静かに口を開いた。


「……思い出した。私が小さい頃、父と母が何かを隠そうとしていた。それは……私に関する何かだった。でも、何を隠していたのかは、まだはっきりと思い出せない。でも、この男がその秘密を知っている」


奈々は震える声でそう言い、写真を橘に返した。彼女の目には、恐怖と決意が交錯していた。彼女は自分自身の記憶に隠された真実に向き合う準備ができているように見えたが、その真実がどれほど深い傷を残すのかは、まだ誰にもわからなかった。




その翌日、橘と神崎は奈々と共に、再び写真に写る男の手がかりを探し始めた。彼らはその男が記憶操作の実験の中心にいた可能性が高いと睨んでいた。そして、その男が現在もなお、奈々の記憶に影響を及ぼし続けているという可能性が浮上していた。


「この男が、今も奈々に影響を与えているとしたら、どうやって彼を止めるんだ?」


橘は神崎に問いかけた。神崎はしばらく考え込んだ後、静かに答えた。


「まずは、彼がどこにいるのかを突き止めることだ。そして、奈々の記憶を解き放つための方法を見つけなければならない。彼女自身が自分の記憶と向き合い、その真実を受け入れるためには、私たちがその道筋を作らなければならない」


橘は神崎の言葉に深く頷いた。奈々の家族に隠された真実――それを解き明かすために、彼らは全力でその男の手がかりを追う決意を固めた。そして、その男が繰り返し起こしてきた「悲劇」を止めるため、再び戦いが始まろうとしていた。

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