表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

第2章:繰り返される悲劇

奈々の家族に隠された「過去の実験」が、橘たちにとって予想以上に大きな影響を及ぼしていることが明らかになってきた。記憶操作の技術が何十年も前から存在し、それが奈々の家族を巻き込みながら繰り返されてきたことは、橘たちに重くのしかかった。


神崎は、その実験に関するさらに深い情報を得るため、独自に調査を進めていた。彼は、奈々の家族が巻き込まれた事件が単なる研究ではなく、もっと大きな目的を持っていたことを突き止めた。


「これはただの実験じゃない……」


神崎はそう呟き、古びた書類を見つめた。そこに記されていたのは、記憶操作を用いた人間の「再教育」プログラムだった。それは、人々の記憶を改ざんし、特定の目的に従わせるための技術であり、奈々の家族もその対象になっていた可能性があった。




橘は、学校の中庭で奈々と二人で話していた。彼女は、自分の家族が記憶操作に関与していた事実を受け入れられずにいた。彼女にとって、家族は大切な存在であり、その家族が彼女に隠していた秘密があまりにも重いものだったからだ。


「本当に……私の家族がそんなことに関わっていたの?」


奈々の声は震えていた。彼女は必死に家族の笑顔を思い出そうとするが、その記憶もまたどこか曖昧で、不安定だった。彼女の中には、家族と共に過ごした幸せな時間が確かにあったはずだ。だが、その記憶が本当に「彼女自身のもの」なのか、それとも操作された偽りの記憶なのか、彼女にはもう分からなくなっていた。


「奈々……」


橘は彼女の手をそっと握った。奈々の不安が手の震えを通して伝わってくる。橘は、彼女がこれまでどれほどの孤独と不安を抱えてきたかを痛感していた。


「俺たちが真実を見つけ出すよ。君の家族が何を隠していたのか、その全てを」


橘の言葉に、奈々は目を閉じて頷いた。彼女は橘を信じるしかなかった。そして、彼が真実を見つけてくれることを心から願っていた。




その夜、橘は自宅で眠りにつこうとしたが、いつものように深く眠ることはできなかった。彼の心には、奈々の家族にまつわる謎が絡み合っていた。さらに、彼の頭の中にはまたしても「影」の存在がちらついていた。


再び夢の中で、橘は暗闇の中に立っていた。そこには、遠くにぼんやりと見える影があった。前回と同じように、その影は橘に向かって何かを伝えようとしているかのように見える。


「また……お前なのか?」


橘はその影に向かって歩み寄ろうとしたが、足がまるで重りをつけられたかのように動かない。影はゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。橘は胸が締め付けられるような感覚に襲われ、汗がにじんできた。


「……お前は、誰なんだ……?」


橘が問いかけた瞬間、影は一瞬だけ微笑んだ。その笑みは冷たく、どこか哀しみを帯びていた。次の瞬間、橘の周囲が急に明るくなり、目の前に現れたのは――奈々だった。


「奈々……?」


橘は驚いて目を見開いた。夢の中の奈々は、彼が知っている奈々とは少し違っていた。彼女の目は、どこか遠くを見つめているようで、その瞳には深い悲しみと絶望が浮かんでいた。


「私の記憶……どうしても思い出せないの。私が誰だったのか、私の家族が何をしていたのか……」


奈々の言葉は途切れ途切れに響いた。橘はその声に応えようとしたが、何も言葉が出てこなかった。彼はただ、目の前の奈々の悲しげな顔を見つめることしかできなかった。


そして次の瞬間、夢は急に暗転し、橘は目を覚ました。胸の鼓動が激しくなり、冷や汗が背中に流れている。


「今の夢は……」


橘は自分の心の中で何かが警告を発していることを感じていた。奈々の記憶に潜む「影」――それが次第に現実のものとなりつつある気がしてならなかった。




翌朝、橘と神崎は再び集まり、奈々の家族に関する情報を共有した。神崎は奈々の父親がかつて研究していた記憶操作の技術が、政府の秘密計画に利用されていた可能性があることを指摘した。


「奈々の家族が関わっていた実験は、単に記憶操作の研究ではない。彼らは政府の計画の一環として、記憶を改ざんし、人々を再教育するプログラムに組み込まれていたんだ」


神崎の冷静な言葉に、橘と奈々は息を呑んだ。その計画の詳細はまだ不明だが、奈々の記憶には、そのプログラムに関わる重要な情報が隠されている可能性があった。


「奈々の記憶には、もっと重要なものがあるはずだ。彼女自身がその計画の鍵を握っている」


橘は神崎の言葉に真剣な表情で頷いた。奈々が記憶の中で何か大切なものを封じ込められている。それを解き明かさなければ、彼女の家族が経験した悲劇が再び繰り返されるかもしれない。


「奈々を守るためには、俺たちがその真実を解き明かすしかない」


橘の心は決まっていた。彼は奈々を守るため、そして彼女自身が抱える記憶の中の悲劇を終わらせるために、さらに深く調査を進める決意を固めた。




その夜、橘たちは再び奈々の家族に関する手がかりを追い求め、かつての研究施設へと向かうことを決めた。奈々がその場所で何を経験したのか、彼女の記憶に隠された真実が、いよいよ明らかになろうとしていた。


だが、その真実を追い求める中で、彼らは新たな「影」との対決に直面することになる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ