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プロローグ:新たな影の兆し

橘 樹は、自宅のベッドに横たわりながら天井を見つめていた。夜の静けさに包まれ、耳にはかすかな風の音だけが響いている。事件が終わり、奈々や神崎と共に平穏な日常を取り戻したはずだった。だが、橘の心の奥には、どうしても拭えない違和感が残っていた。


「本当にこれで終わったのか……?」


橘は小さく呟き、目を閉じた。犯人との激しい対決の末、奈々も無事で、彼らの周囲にあった「記憶操作」の脅威は消え去ったはずだ。だが、橘の心にはまだ何かが引っかかっている。それは、あの「影」の存在だった。


記憶の中で見た少女――彼女は、犯人の過去に深く関わる存在だった。そして、彼女は単なる過去の産物ではなく、何かもっと大きな「力」の一部であるように思えた。あの時、彼女が完全に消えたわけではなかった。橘の中で、彼女の影が静かに息づいている気がしてならなかった。


「影は……本当に消えたのか?」


不安な気持ちが橘の胸に広がる。事件の終息に安心感を覚える一方で、橘の中に生まれた疑念は、次第に大きくなっていった。事件が終わってからというもの、彼は何度も不思議な夢を見るようになった。それは現実と記憶が曖昧に交じり合う、まるで幻のような光景だった。




その夜、橘は再び夢を見た。暗闇の中、彼はひとり立っていた。周囲には誰もおらず、ただ冷たい風が吹き抜けていく。遠くの方に、ぼんやりとした人影が見えた。橘はその影に向かって歩み寄ろうとするが、足がまるで重りをつけられたかのように動かない。


「……誰だ?」


橘が声を出すと、影はゆっくりとこちらに近づいてきた。その姿はぼんやりとしており、顔も見えない。だが、橘の胸には奇妙な既視感がよぎった。


「また……お前なのか?」


橘が問いかけると、影は立ち止まり、無言のまま橘を見つめた。彼はその目を感じた。冷たく、何かに囚われているような瞳。それは、記憶の中で見たあの少女の目と同じだった。


「……なぜ、まだここにいるんだ?」


橘がそう問いかけた瞬間、影は突然かすかに微笑んだ。その微笑みは冷たく、どこか悲しみを帯びていた。そして、次の瞬間、影は急に消え去った。橘の目の前には、ただ冷たい風だけが吹き抜けていた。


「――橘! 目を覚ませ!」


突然の声に、橘は跳ね起きた。目の前に立っていたのは、神崎 零士だった。いつもの冷静な表情で、橘を見下ろしている。


「お前、また悪夢でも見ていたのか?」


橘は荒い息を整えながら、神崎の顔を見つめた。


「……ああ、まただよ。最近ずっとだ。夢の中に、影が出てくるんだ」


橘は神崎に夢のことを打ち明けた。彼は、記憶の中で見た影が夢に現れるたびに、何かが自分に警告を発しているような気がしていた。神崎はしばらく考え込んでから、静かに言った。


「やはり、事件はまだ終わっていない可能性がある。お前が感じていることが正しいとすれば、俺たちはまだ、何かに囚われているのかもしれない」


橘はその言葉に不安を覚えながらも、神崎の言葉に確かな重みを感じた。神崎は常に冷静で、感情に流されることはない。だが、今回ばかりは、彼も何かを感じ取っているようだった。


「そうだとしても、俺たちに何ができるんだ? 影の正体がまだわからないし、俺たちはどうすれば……」


橘が言いかけたその時、スマートフォンが鳴った。画面に表示された名前を見た瞬間、橘は息をのんだ。


「……奈々?」


奈々からのメッセージだった。それは短い一文だったが、橘の心臓が早鐘のように打ち始めた。


「……最近、変な夢を見てるの。樹も何か感じてる?」


奈々も、同じように「夢」を見ていたのだ。橘の中に不安が広がる。この夢が単なる悪夢ではなく、何か現実と結びついていることは間違いない。だが、その「何か」が何なのかは、まだはっきりとは分からなかった。


「奈々も……同じ夢を見ている。これは偶然じゃない」


橘はつぶやき、神崎の方を見た。神崎も黙って頷いた。


「影が再び現れる前兆かもしれない。これまでの事件とは違う、もっと大きな何かが動き始めているのかもしれない」


橘は胸の中で何かが警告を発しているのを感じた。これから、再び彼らは大きな試練に直面することになるのだろう。それは、かつて経験したどんな戦いよりも厳しいものになるかもしれない。


「でも、今回は……俺たちがしっかりと向き合うしかないんだ」


橘は覚悟を決めた。影が何であれ、それが彼らを脅かすものであるならば、立ち向かうしかない。奈々も、神崎も――彼らと共に、もう一度立ち上がる時が来た。




その翌朝、橘は学校の教室に向かい、奈々と神崎と共にこれからの話を始める準備をしていた。外は晴れているが、その光景がどこか現実感を失っているように感じられた。


「また始まるのかもしれない……今度こそ、終わらせるために」


橘は心の中でそう誓いながら、教室の扉を開けた。

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