たいけつ!メカクレ娘と渦ばけもの!
「ひゃっほ──ぅ! 行くぜ行くぜイクぜぇ──い!」
初夏の太陽照りつく、広い海原! 水面上を全裸で駆け抜けた幼な顔の女が、巨大な渦巻きへ向かって跳躍した!
女は空中で丸まると、片足を突き出して飛び蹴りの姿勢を作ってみせる。それから渦の深い中心へと、勢いを利用して飛び込んだ!
深いワイン色をした長い髪が、ほとんど宙へとなびきだす。しかし、その二手に分かれた髪先が、なぜだか風に逆らって女の背から控えめな胸へと、わき腹を通って腰周りと鼠径部へと巻きつき、過激めな水着のテイをなす。
女の目は閉じられたまま、ビーム鉄格子の仮面に覆われている。そして後頭部の後ろには、小さなビームの刃がズラリと並んでいる。
どちらのビームも、透明なピンクのボディに、キラキラとしたラメが沢山入っている。
「それが、この僕! メカクレ娘! じゃあ今週の螺旋、いきま~っす!」
突き出した足の指が眩いビームに薄く覆われ、足首までを白い細帯が巻きついた。
この帯は足を保護するだけでなく、キックの威力を無限に上げる。
──ドガァアアン! 隕石落下レベルの衝撃と共に、渦中心の床へ降り立つメカクレ娘。
ダイナミックなチャレンジャーの登場を感知して、周囲にそびえる渦の壁が、目を付けたゼリー水玉を次から次へと召喚する。
「来やがったな、バカ目隠れ女め! 野郎ども、今日こそ殺っちまえ!」
「えい、おうおう!」
「さあ、新技を試すぞ~! まずは普通に殴って、体を慣らすか!」
ぽよんぽよん、と床を跳ねて、鼻息荒く体当たりを仕掛ける水玉たち。
メカクレは拳を構えて突進すると、跳び上がった水玉を順番に殴った。
「ハウッ! ぎゃぶ!」
「うぐわ! ゲハァ~ッ!」
「ワン・ツー! ワン・ツー! あがってきたぞぉ、腹の底から!」
殴られた水玉は目をギュッと瞑り、なす術なく吹っ飛ばされる。
メカクレは片手を開いて後ろに引っ込め、指をカギ爪のように折り曲げた。
「"水玉"斬りだっ。擬闘術、"ネコ爪"!」
「ズバンッ! うわ~!?」
「また勝てなかっ、もう駄目バッシャァン!」
ビームの爪をまとった片手を思いっきりに振るうと、視界いっぱいを横切るほどに長デカい爪跡が発生する。
それらに触れた水玉たちは、皆いっぺんに裂かれて、弾けて消えて藻屑となった。
「おのれぇえええ~! クソバカ淫乱バカ目隠れが! 次の相手はコイツらだ~!」
怒りに赤く染まった渦の壁が、次なる強敵を召喚する。
巨体にびっしり、尖ったウロコ。痩せぎすの体に、トゲのウロコ。それぞれ棍棒と槍を手に持ち、2人の魚人が凶悪な顔で現れた。
「怨念魔怪魚オステウスガリス、オステウスレウシア! そのアバズレを裸どころか、骨まで剥けいっ」
「うお~! ロブリンめっ。あの時の復讐を果たしてやるぞ!」
「もはや不意打ちが通用すると思うな! くらえぃ、イダテン槍殺法!」
2体の魚人ガリスとレウシアが、それぞれのフルパワーで突撃した。
恐ろしいほど、パワフルに。見えなくなるほど、スピーディーに。
当然、対処が難しいように左右に分かれ、武器も縦横べつべつに振りかぶる。
しかし、なぜかメカクレは胸に両手を当てて、棒立ちのまま2人を待った。
「……!? おのれ、なぜ目を閉じているのか。こっちを見ろい!」
「フン、ヤケを起こしたか。だが、情けはかけん! 死ね~!」
「──"唯一性"斬り」
ザキン、と小さな斬響音。それとほぼ同時に2人の動きはガキンと止められ、それぞれの前に全く同じ姿のメカクレ娘が現れる。
「へへっ。捕まえた~!」
「ばあ~! 可愛い可愛いメカクレ娘ちゃんでえーっす」
「クッ。おのれっ! 分身の術か!」
「慌てるな、弟よ! 殺す敵の数が増えただけだ。落ち着いて対処すれば──グッ!?」
短気な弟を諭すガリスの背中に、熱く鋭いショックがはしる。そして彼は目の前のメカクレと掴み合ったまま、ゆっくりと自分の腹から突き出たビーム刃を見おろした。
ガリスは背後に目をやり、うめく。見られた新たなメカクレは、にやけ顔で額にピースをやった。
「……バカな!」
「あい! あたし自身の"唯一性"を斬った以上、分身は常に増え続けるんだいっ。イェイ☆」
「む、無念……!」
ペロ、と舌を出すメカクレに挟まれて、膝から崩れるオステウスガリス。彼の手放した棍棒も、今度は念入りに蹴られ、折られ、踏み砕かれる。
離れた位置で別のメカクレと組み合っていたレウシアが、わなわなと震えて、それから激こうして叫んだ。
「おのれぇ──っ! 殺してやる、殺してやるぞっ。目隠れ女ァ!」
「なんと! それは困る。だから代わりに君が死ぬ、というのはどうかな!?」
「みんなー! 者ども、かかれいっ。それー!」
槍を突き上げ、怒りに吠えるオステウスレウシア。しかし彼の激怒むなしくメカクレ軍団は殺到し、
「──って! ぎにゃああああっ!?」
「うお~! アースロプレウラよっ。我が命を喰らえい! グッ!」
「グォオオオ──ッ!」
突然、発生した古生代恐竜ヤスデに吹き飛ばされた。
恐竜ヤスデは巨体をくゆらせ、さながら龍のように天空を舞う。その姿を見上げながら、倒れたレウシアが体を失い始める。
「そうだ……そのまま暴れ続けろ。そして、死と恐怖の世界を作るんだ……わたしを失望させるなよ……ぐっ」
「……死んだ」
「みたいだね。とにかく今は、あっちを何とかしないとだ」
吹き飛ばされたメカクレ達が、棒立ちの目隠れ娘オリジンに集まって森となる。その最中にも数を増しているので、今にも森は山へと変わりそうだ。
ただ、宙を舞う恐竜ヤスデの巨体に有効なのは、数の有利でなく巨大な威力だ。オリジンは集団の中心に立ち、控えめな胸に手を置いた。
「みんな……あたしに策があるわ」
「そうなんですか? 奇遇ですねぇ~」
「同じ僕だから、分かるとも。さあ、みんな手を繋ごう。気恥ずかしいから、恋人繋ぎではない方でね」
山と増えたメカクレ達が、次々次と手を繋ぐ。膨れ上がるビーム値を感知して、ヤスデが吠え立てて飛びかかった。
「グォオオオオーッ! グルルルル──!」
「待って! あたしを殺そうとするのは、やめて。もう遅いッ」
「既に必殺チャージは満タン。さらば、我が友。我が分け身」
隕石の勢いで迫り来るヤスデの目の前で、無数のメカクレ娘たちが、重なり合って消えていく。
その度に凄まじいビーム熱が、中心のメカクレ娘に集まって、激しくボルテージを上げていく。
「"他者との境界"斬り。すべての僕との融合を果たし、僕はさっきの100倍強い」
「グォオオオ~ッ! その前に殺してやるよっ。死ね~!」
鳴り響く連続斬撃音。ついにメカクレは1人に戻り、100人分のビーム威力は、頭上で重ねた両手に集まった。
「メカクレ娘とメカクレ娘が合体して……メカクレ娘ってとこかな」
「死ね、メカクレ! 恐竜絶滅、バイティングメテオ~!」
「女王は死なん! けして負けない女のために。今日の別れは、いつかの再会のために!」
メカクレの両手が、無数の鋭い熱線を放つ。飛びかかるヤスデは、牙を振りかざし、ものともせずに突撃する。
そしてビーム値が頂点に達し、メカクレの頭上から極太ビームが撃ち放たれた。
「これこそ、極限! スペースM!」
「!? グウウウウッ! ぎ、が、ぎがぎぐ! ……げっ!」
「メカクレのM、マスターのM、マキシマムのM! 殺せ! 我が最強の合体技よ!」
「グウッ──ギャァアアアアア……!」
ビゴォーッ! ボカァアアアン!
超絶威力極太即死ビームに貫かれた恐竜ヤスデは、もの凄い音を立てて爆発した。渦の内部にキラキラの消滅塵が降りかかり、渦の壁は悔しげにうなる。
「う~む、今週も負けちまったか。次こそ見てろよ、アバズレめ!」
「──えっ。あ……あばずれっ?」
「ホラよ、クリア報酬だ。さっさと拾え、露出狂が」
ペッ、と渦の壁から小包が投げ渡される。
しかし、それを受け取ったメカクレ娘は、引きつった笑みのまま、しばらく動けずにいた。
その夜、マクロフのおでん屋台にて。机に潰れたメカクレ娘が、ワザとらしく泣き声をあげた。
「お客さん、飲みすぎですよ。人体に多量の牛乳の投与は、お腹を下しやすいとデータにもあります」
「るっさ~い。あたしがインランに見えるってのかよ、ばっきゃろ~……」
「ええ、そりゃまあ……だって、ほとんど胸と脇腹と腰まわりしか隠してませんからね!」
「肩を出して何が悪いっ。背中を出して何が悪い、おヘソを晒すの可愛いじゃん。常にキレイな腋を晒すの、えろくて興奮して最高じゃんっ。あたしの姿は、あたし自身のためだっちゅーの! ばぁ~か!」
わぁ~ん、と泣き真似を続けるメカクレ娘。マクロフは黙って大根を取り出し、今晩のスリープモードを諦めた。