1国目-1
カノンはテラスにこの世界のことを教えてもらいながら、1つ目の国に向かって歩いていた。
この世界の名前はテンガンという。その広大な土地はソルーヤ(神の領土)と呼ばれており、その中に点々と10の国が点在しているようだ。各国にはそれぞれ1人の王が存在し、統治している。
この世界はとある1柱の神様が創った、と信じられているが、その神様については如何なる文献も残っておらず、名前すら知られていない。テンガン人はその神様を名もしれぬ神、ナナシ様、と呼び、崇拝している。カノンの夢に現れたのはおそらくその名も知らぬ神であろう、というのがテラスの見解だった。
「さて、もうすぐ1つ目の国の領土に入るよ!」
「えっと、、、ガリアっていう国だったっけ?」
「そう!レヌスっていう王がいる国だね!ボクもガリアにいくのは久しぶりだなぁ。楽しみだ!」
「ガリアってどんな国なの?」
んー、そうだなぁ、と言いながらテラスはふわふわと空中に浮きながらあごに手を当て考えている。羽が生えているわけでもないしどういう原理で浮いているのだろう、などと考えていると不意に後ろから何かがぶつかってきた。
後ろを振り返るとそこには小さなイノシシがその黄金に輝く目でこちらを睨みつけて立ち尽くしている。
「あちゃあ、魔獣化しちゃったのか、かわいそうに。」
イノシシを見たテラスは言う。その刹那、再びイノシシがカノン目掛けて突進してくる。カノンは突進を華麗に避け、持っていた短刀をそのまま突き刺した。イノシシは少しの間悶えていたが、やがて生き絶えた。
「すごい!カノンってとっても強いんだね!」
その様子を見たテラスは興奮している。
「そうね。戦い方は体が覚えているみたい。ところで今のは?魔獣化って?」
「ソルーヤには野生の生き物たちがたくさん住んでいるんだ。今までは特に何の問題もなかったんだけど最近その生き物たちの中に人間を襲う子達が出てきちゃってさ。人間を襲うようになった生き物たちのことを魔獣って呼ぶんだ!」
「そうなんだ。」
「そして魔獣化した生き物は体のどこかが宝石みたいに輝くんだ!いろんな使い道があるから回収しといたらいいよ!」
カノンはイノシシの目を短刀でくり抜いた。親指くらいのサイズのそれは思った以上に軽く、まるで1本の綿毛のようだった。
そこからも魔獣に何度か絡まれながらも2人は歩き続けていると、遠くの方に大きな壁のようなものがカノンの視界にはいった。
「お、見えてきたね!あれがガリアの関所だよ!」
テラスにも同じものが見えたようで、相変わらず楽しそうに言う。
「関所、って私通れるの?身分証明するものとか持ってないけど、、」
「大丈夫だよ!ボクに任せて!さっきイノシシからとった宝石、貸してくれる?」
テラスはカノンから黄金に輝く宝石を受け取った。
「これはね、魔獣から取れるから魔石って呼ばれてるんだ!いい、よく見ててよ?“光れ“!」
テラスがそう唱えたと同時に魔石が元々持っていた輝きとは比べものにならないくらい、大きな光を放った。
「どう?すごいでしょ!」
「すごいけど、眩しいよ。いつまで光るの?それ」
ああ、ごめんごめん、と言いながらテラスが止め、と呟くとみるみる輝きは失われ、ただの石ころのようになった。
「魔石はね、色に応じていろんな力を持ってるんだよ!」
「魔法みたいね。」
「そうだね!」
「その魔石って誰でも使えるの?私には魔法が使えるっていう記憶はないみたいだけど。」
「誰でも使えるよ!そもそもこの世界に魔法が使える人はいないしね!」
魔獣化が始まったと同時にこの世界に現れた魔石。とある国の科学者たちがこぞって研究をし、魔石にはさまざまな力があることを発見した。黄金の魔石は光を放ち、紅蓮のものは燃え盛る。浅葱のものは水が湧き出るなど、元の輝きによっていろいろな結果を生み出す。黄金の魔石は光れ、というようなそれぞれに対応した言霊で魔石は効果を発揮する。魔石は大体の大きさで使用回数が決まっており、小さいものなら一度使うだけで輝きを失ってしまう。また、魔石の輝きの種類は100種類を超え、まだ効果が判明していないものも多くある。
「そしてこの魔石は今やテンガンの人々には欠かせないものになっててね、冒険者として魔石を集め、売ることで生計を立てている人がいるんだ!魔獣を倒して魔石を得られる人は貴重だから、これをたくさんもっていると簡単に入国できるってわけ!」
なるほどね、とカノンは関心し道中で集めた魔石を確認する。カバンの中には黄金の魔石が3つ、浅葱の魔石が1つ、萌葱の魔石が1つ入っていた。
「この萌黄色のはどんな効果があるの?」
「それはまだ効果が分かってないやつだね!科学者が買い取ってくれるよ!」
そうなんだ、といいながらカノンは萌葱の魔石を手に取り眺めていた。
『、、て』
「ん?テラス、何かいった?」
「いや?何もいってないよ?」
『育て』
「え?育て?」
カノンがそう口にした途端、手にもっていた萌葱の魔石がボロボロと崩れ、地面にこぼれ落ちていく。するとそこに生えていた植物がみるみる成長していった。
カノンが呆然としていると、テラスが興奮した様子で話しかけてくる。
「カノンすごい!なんでその魔石の言霊がわかったの?!」
「誰かが、私に、育てって、、、」
「神様のお告げみたいだね!」
「神様、、、そう言われると夢で聞いたのと同じ声だったかも、、」
その後、カノンは同じように黄金と浅葱の魔石を手に取ってみると、同じように光れ、と湧き出よ、の声が聞こえてきた。
「その力、科学者たちが知ったらカノン狙われちゃうんじゃない?」
「そうね。とりあえず隠しておくことにするわ。」
「うんうん!」