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エートス 風の住む丘  作者: 萩尾雅縁
第三章 Ⅸ いつか来た町
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65.道標は誰のため?

 店を出たところでそれ以上足は進まず、ショーンと顔を見合わせた。

 さて、これからどうしよう。

 ショーンの頭上の二重螺旋は相も変わらず、ふわふわくるくる漂っているだけで、頼りになりそうにない。道標のくせに。こういうところ、シルフィーに似ている。


 ――え、ということは、ここへ飛ばされたのは、シルフィーも一枚嚙んでいるってこと? 


 ドラコ主体ならきっと時間軸もいじるだろう。もっと問題点を煮詰めて、凝縮させて。彼は短気だから、こんな回りくどいことはしないと思うし――


「それなら、ゲールの何が問題なんだ?」

 つい声に出した疑念に、ショーンが怪訝な顔を返してきた。

「問題なのは彼じゃないだろ? ベランダからドアを開けて室内に戻るようにはいかない、てのは俺たちも同じだからな。それって、俺たちの問題(せい)か?」


 ショーンの言う通りだ。僕だって、ゲールは巻き込まれただけだと思っている。だけど僕らのように、ゲール自らの意思で巻き込まれにいったのなら話は別。

 けれど、ここで言いたかったのはそんなことではない。


「そういう意味じゃなくてね、ドラコが――それか、他の誰かかもしれないけれど、ともかく()()が、逢ったばかりのゲールを惑わせるなんてことを、ただの悪戯でしたとは思えないんだ。()()には彼らなりの、巻き込まなければならない理由があったと思うんだよ」

「つまり、あいつらにゲールの何かがひっかかったから、こんなおかしなことになってる、ってことかい?」

 こくりと頷いた。

「僕らには理解しがたい理由かもしれないけどね」

「分った。整理しよう」

 記憶を手繰るためにか、ショーンは目を細めて言った。

「俺たちはマークスの部屋へ行くつもりで螺旋階段を下っていった。だけど着いたのはグラストンベリーのゲールの実家の前で、今はこうしてあてどなく困惑してる。この町のどこかにゲールはいると考えていいんだろ? それでドラコは、あるいはマーカスかもしれないよな、彼らが俺たちに何かをさせたい、ってことだな、きみが言いたいのは」


 ショーンの周りで、二重螺旋の道標(みちしるべ)がふわりと膨らんだ。鱗粉をきらきら振りまきながら舞っている。そのまま風に乗って道を示してくれるなら――


 だめだ。戻ってきた。


「僕たちは、いったい何を見つけなければいけないって?」

 がっかりして小さく息を吐いた。

 今度こそ道標は方向を指しそうだったのに。おそらく僕たちはいまだ、どこへ行って何をすべきかという基本的なことを判っていないってことだ。

 ゲールを見つける、それから、ショーンの妹の真実を探す。なすべきことは、こんなにもはっきりしているのに。

 いや、そうか、順番が違うんだ。まずは、ショーンの妹からなのか! ショーンの視た記憶の断片から、手がかりを見つけなければいけないのだ。


「何をって、あいつらが俺たちにゲールに関わる何かをさせたいとしたら、」   言葉を切って、ショーンはじっと空を見上げた。それから、そこに書かれている答えを読み上げるようにゆっくりと、彼の見解を教えてくれた。それは、僕からすっかり抜け落ちてしまっていたゲール自身の問題だった。


「彼の呪いを解いてやれってことじゃないのか? ほら、サウィンのさ」

 くいと小首を傾げたショーンは、至極真面目な視線を僕に向けた。

「悪霊につき(まと)われて困っているっていう、()()

「そう、()()だよ」


 思わず眉をひそめてしまった。

 このことを僕はドラコと話したはず――

 確かに、僕は彼の手助けを断ったはずだ。

 どういうこと? 断ったから、僕自身がゲールを助けるための道筋を作ったっていうこと? それも、ショーンを通して!


 もう、ドラコのやることに開いた口がふさがらない。ドラコはゲールに大した興味も示さなかったくせに。――あるいは、シルフィーが依り代になりえるゲールを助けたいのかもしれない。


「そうだ! まず、きみの妹さんが消えたっていう店の前まで行ってみよう! 妖精の環(フェアリーリング)のような仕掛けがそこにあるのかもしれない」

 え? と、意表を突かれた顔をしたショーンだったが、すぐに「神隠し的なところが似てるといえば似てるな」と独り言ちた。


 ゲールを(さら)ったのが誰にしろ、道標はショーンに道を示そうとしている。この道標はショーンが見つけ、生じさせ、(たずさ)えているのだ。つまり、道を拓くヒントは彼からしか得られないってことだ。彼が見たもの。聞こえたもの。感じたこと。おそらく、ショーン自身の奥底から浮かんでくるもの全てがヒントになる。


 そう納得して、石畳の同じ道をもう一度辿ってみた。と、いっても朝のように遠回りしたのではなく、ショーンが鮮明な記憶を重ねたハイストリートの道なりだけだ。朝食を食べたカフェからチャリティショップのあるここまでのわずか数分、それよりも更に短い距離でしかない。


「たったこれだけだなんてな。朝はもっと長い区間に感じてたのにな。考え込んでたからかな」

 ショーンは立ち止まり不思議そうに首を傾げた。おぼつかない眼差しできょろきょろ辺りを見回すと、「俺はここにいて、」と、すっと腕を上げ一点を指さした。「そうだ、あの店だよ。あそこでジニーは消えたんだ」



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