横島恋歌は〇ッチである──①
横島恋歌には、ある黒い噂が付きまとっていた。
曰く、男遊びが激しい。
曰く、男を取っかえ引っ変えにしている。
曰く、朝帰りが基本。
曰く、曰く、曰く……。
曰く、横島恋歌はビッチである。
「ねぇ、聞いた? 横島さん、昨日ちょいワル系のオヤジと一緒にいたんだって」
「聞いた聞いた。車の助手席に乗ってたんでしょ?」
「うわぁ……」
女子たちが噂話をしているのを横目に、俺は足速に教室を出た。
今日も今日とて、横島恋歌にまつわる黒い噂が流れている。
それもそうだ。まず彼女の見た目からして、結構際どい。
前の方を歩く彼女は、長い金髪を揺らして堂々としていた。
女子にしては高身長。確か168センチと聞いたことがある。
活発そうな褐色の肌。
短いスカートから見える、ハリのある太もも。
胸に関してもなかなかの大きさだ。
確かに、こんな派手な格好なんてしてたら、男遊びが激しいと言われても仕方ないだろう。
昔はそんなことはなかったのにな……。
何を隠そう、俺こと常澄十夜と横島恋歌は幼馴染だ。
昔はよく遊んでいたけど、中学のある日を境に疎遠になってしまった。
「どうしてこうなったのやら……」
「何が?」
「ひゃぁ……!?」
びびびびびっくりした……心臓が口かられろんれろんするかと思った……!
慌てて振り返ると、後ろから俺の耳元で囁いた女の子が、くすくすと笑っていた。
「……九鬼、それやめろって言ってるだろ」
「ごめんごめん。常澄くんの反応が可愛くて」
可愛いって言われて喜ぶ男はおらん。
彼女は九鬼円香。1年の頃からの腐れ縁で、何かと一緒にいることが多い。
恋歌とは別の意味で人目を引く漆黒の髪に、清楚然とした見た目。
恋歌と九鬼は完全に対極の存在として、我らが北山高校に知れ渡っていた。
楽しそうに笑う九鬼。と、俺の背後に目を向けた。
「あれ? 恋歌ちゃんだ」
「……本当だ、気付かなかった」
「いや、あの綺麗な金髪が前を歩いてるのに、気付かないわけないじゃん。もしかして常澄くんの目、節穴?」
「唐突なディスやめろ」
こいつと一緒にいればわかるが、性格はぜんっぜん清楚じゃない。
むしろ俺のことをディスってからかって楽しんでいる、サディストだ。
「で、九鬼。何の用だ?」
「用もなければ話しかけちゃダメかね?」
「ダメ」
「食い気味に言うな」
九鬼の蹴りが俺のケツを叩く。
痛くはないけど、女の子が脚をあげるな。特にスカートで。
「一緒に帰ろ」
「またか……お前友達いねーの?」
「いるに決まってんじゃん。どっかの常澄くんと一緒にしないで」
「へぇ、俺と同じ苗字だなんて奇遇だな」
「鏡見たら?」
「……可愛くねぇ」
「私ほどの美少女、なかなかいないと思うけど」
自己肯定感の化け物か。
仕方なく、九鬼と並んで学校を出る。
すでに恋歌の姿はなかった。
「それにしても、恋歌ちゃんってすごい派手な格好だよね」
俺が恋歌のことを考えてるのを察してか、九鬼が恋歌の話をする。
「高2とは思えないよな。そのせいで、黒い噂が絶えないんだし」
「あれ? 常澄くんはあの噂信じてないの?」
「所詮、噂だしな」
あと、恋歌の性格上そんなものはありえない。
……と、思う。あいつと疎遠になって1年だから、その間に変わってたら何も言えないけど。
「私も、あの噂は酷いと思うんだよね。自分が言われてると思ったら、人にそんな酷いこと言えないもん」
「……九鬼って、実はいい女?」
「ふふん。これでも、噂では学年1の美少女ですから」
「噂じゃねーか」
「何をう!」
いでっ、バッグで背中殴るな。
◆
十字路に差し掛かって九鬼と別れると、真っ直ぐに帰路についた。
俺の実家である常澄家。
向かって右横には、横島家。
こんなところは幼馴染らしく、お隣さんという間柄だ。
おばさんとおじさんとは話したりするが、恋歌とはもう1年以上も交流はない。
高校生だから、寂しいなんて思わないが……あんな噂を聞くと、少し心配ではある。
「……ん?」
ふと視線を感じ、横島家の2階を見上げる。
あ、恋歌。
恋歌は見られたことに慌てたのか、急いでカーテンの奥に隠れた。
こうして恋歌から何かアクションがあるなんて、久しぶりだな……。
「……ま、関係ないか」
そっとため息をつき、俺は自分の家の扉を開けた。
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