悪役と友
「どうだった?小太郎。」
「はい。」
小太郎は懐から地図になっている巻物を広げて指さす。
「こちらに幽閉されております。」
「やっぱり・・・か。」
茄子汁から始まる源氏館の異変。侍女が果たして体調が悪いから一旦実家に帰るといって、自ら幽閉されるなんて話があるだろうか。
(やはり、黒・・・。)
この智なる侍女が由良の一件に関わっているのは間違いない。
「いかが致しましょうか。」
「取り敢えず、智っていう侍女には俺の名を伏せて接触してくれ。助けてやるから情報を売れとでも言うのが塩梅だな。」
「やはり、名を明かさないのですか?」
小太郎は名乗って当然と怪訝な様子。
「あんま恩着せがましいのは好きじゃないしな。それにこっちの方が・・・ぽいだろ?」
「ふふふ、そうですな。」
「「ふふふふふふふふ・・・」」
傍から見れば共謀する不審者二人である。
ーーーーーーーーーー
(由良様、大丈夫かしら・・・。)
智は未だにあの倉庫に囚われていた。
恐らく二日や三日は日を越したはずだ。
自分がこうして思考を巡らせることが出来るのは皮肉にも自身をここに閉じ込めた者の施しによるものだった。
「ほら、ご飯持ってきたわよ。しっかり食べなさい。」
「ほんと、なんであなたはこんなことをするのかと思えるのよね。」
ふしぎの皮肉混じりではあったものの、彼女にも自覚はあるように合点した。
「別にあなただからってこんな施ししないわよ。」
しばらく屋敷とは違う彼女を見て智は感じた。
智でなくても彼女は施しを行うだろうと。
「そういうところ。」
「何よ。」
「なんでもなーい。」
「はぁ、しっかり食べてよ。」
言うなり、再び去りゆく。
(彼女、やっぱり悪人に見えない。)
彼女に純然たる悪意は存在しない。
(一番救われるべきなのは沙羅さんだ。確か裏にいる『左府』っていう人がどうだとか言ってたけど・・・)
世情に疎い彼女でも黒幕が『左府』なる人物というのは尚早の結論ではなかった。
「誰かに知らせなきゃ・・・」
由良が助かるには
彼女が生きて誰かに伝えること。
(〜ッ!やっぱり自力で扉を開くのは難しい。)
外から板がかけられているのか。
ビクともしない。
「ここから出たいか?」
「え?」
パシッ・・・!
乗り込めるはずのない倉庫の中に不意に黒ずくめの低い声。
「・・・!えっと、どなたですか。」
「我らに敵意はない。」
「答えになってないです・・・。」
「警戒しているのか。なら、等価交換だ。貴様の持っている情報を出せ。さすればそなたをここから出そう。」
「!?」
見ず知らずの黒づくめからいきなり投げかけられた提案はまさに甘い蜜。
激しく揺らいだ。
ここで話せば出て源氏館に伝えられる。
(だけど、この人に先に話したら私はちゃんと出して貰えるの?それに沙羅さんだって危ない。本当はあんなことしたくないはずなのに!妹さんだって助からない!それで、彼女の救いにはならない!)
「・・・せません。」
「なんだ。」
智にとっては部外者なのかもしれない。
しかし、いつ彼女を守れるのか。人に売るぐらいなら自分で切り開いてみせろ。
救いのなかったはずの世界線に自身で蹴りをつけにいくのだ。
「言えませんッ!!!私は守りたい人たちのことを絶対に売りません!」
「・・・。」
黒ずくめは溜息をはき太刀をかまえた。
「ならば致し方あるまい。」
無情にも振り下ろされた。
ブンッ・・・!
「〜ッ!?」
はずだった。
「あ、あれ?私、死んで・・・」
見上げると黒ずくめは刀を智の寸前で見たりと静止させて智が持たれかけていた倉庫の扉を見つめている。
「主、なぜここに?」
(主・・・?この黒ずくめの?)
「バレてた?いや〜、俺も予想外の展開だった。まさか、『売らない』とはね。」
「申し訳ありません。私のふがいないばかりに・・・。」
扉の向こうの主とやらの言葉に瞬時に平伏を示した。
「仕方ないさ。思いの外彼女に信頼が置けるってことだろ?」
ギギギギギ・・・
扉が開かれた。
(こ、子ども!?)
「智って言ってたよな。折り入って頼みたい。俺とともに源氏に巣食う闇から救ってくれ。」
紛うことなき、源朱若であった。




