人恋ひさせしふらぐなり
(ぐあぁぁぁぁぁぁぁ・・・!やっちまったぁぁぁ。)
押し倒したのが宮中でよりにもよって相手は内親王ときた。これが知れれば朝敵まっしぐらだ。
「あー、頭が痛てー。」
現実が次から次へと朱若に襲いかかる。
既に朝敵になりかねないところに皇族とかいう変なフラグしか立たないような一族に関わってしまった。
「ていうか式子ってめちゃくちゃ聞いたことある気が済んだけどなぁ〜?まぁ、皇族だし、別に俺の源氏救済の邪魔にはならないだろうし、問題は後白河法皇だな・・・。」
とはいえさすがに彼はまだ即位していないぐらいはわかる。何しろ急に平治の乱辺りから歴史の表舞台に躍り出るのだ。
(親王の時の名前さえわかってたらなぁ。こんなに苦労もしねぇのによ。)
「ていうか、文殿に行かないといけねぇな。」
朱若は内裏の奥へ消えていった。
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「で?まだ見つからんのか・・・」
「は・・・。」
胸板に届くほどの顎髭を蓄えた武者は跪く武士の報告を受けた。
「こんな時にお主の兄がいたらのう・・・。」
「申し訳ございませぬ。」
「いや、お主が思い詰めるな、仲清。義清の失踪は仕方の無いことだ・・・。都に聞こえた弓の名手だったが、やつほどの風流人ならな・・・。」
「・・・。」
暗い過去を回帰して二人の顔は霞んだ。
「仕方ない、私が出よう。」
「さ、左様でございますか!?まだ、尚早では・・・。」
「いや、本来御所は簡単に立ち入ってはならぬ。それをむざむざ破られた我ら北面の武士始め警固番役は面目を既に潰されておる。わし自ら引導を渡す必要があるほどのものかもしれぬ。」
「矢をお持ち致します。」
隣に控えていた華美な鎧の凛々しい若武者が進み出た。
「うむ!ついてこい、重!」
「渡辺重、お供仕り申す。」
仲清と呼ばれた武士はその場で畏まったままその場から動かなかった。
目にもの見せよ、そう言った武者の威厳はまさに荘厳。朱若に降りかかる火の粉は大炎となる。
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深々と被った笠を風が揺らす。
一人の行脚が御所を見下ろしていた。
「気まぐれに戻ってきては見たが・・・、何やら大変なことになっておるな。」
行者は目を細めて御所内を凝らした。
「ほう、少年とな・・・。」
行者はまるで昔の自分のような無鉄砲さを見ているようで思わず陶酔した。
「いやはや、恋に破れこの身を俗世から殺したが、未来ある少年の恋路を私と同じ道を辿らせはせまいよ。ちと、手を貸すか。」
かっこよく決めてはいるがこの行者、盛大な勘違いをしていることには気づいてはいなかった。




