鳥籠の姫君
「ぐほぉぉぉぉぉぉ!?!?!?」
朱若は中でトリプルアクセルを噛まして頭から墜落した。
「あ・・・きゃぁ・・・ッ!?」
「すまん、いきなりで動転してくもしれないが落ち着いてくれ!」
口を少年の手で抑えられた。
よくよく考えると短刀すら帯びていない。
多分顔もよく見ると焦っている様子で危害を加えるような感じには見えなかった。
「ほら、これでも食って落ち着いてくれ。」
懐から包み紙を取り出して私の手のひらに握らせた。
それは私がよく見た事のあるものだった。
「これは・・・八ツ橋?」
「ええっと、これはだな、うちの知り合いが作ってくれてるお菓子なんだが・・・って知ってるのか?」
少年はあたかも意外そうに目を見開いた。
「ええ、最近献上されて貴族や皇族だけじゃなくて庶民にも専ら流行っているらしくて・・・かく言う私も好きなんだけど。」
「へぇ〜、まさか流行るとはなぁ。」
「あなたはこのお菓子の関係者なの?」
「まぁ、一応。」
少年は辺りを興味津々に見渡していた。
私は気になったことを彼に尋ねてみた。
「えっと、あなたがここに忍び込んだ侵入者?」
「ぎくぅぅぅぅぅッ!?」
「え、わかりやす。」
まるで自身だと暴露したような驚きようだ。
「た、頼む。俺まだ死にたくない!」
手を合わせて必死に涙を溜めて懇願してきた。
とてもその姿が人間らしくて少し自分の頬が緩んだ気がした。
「別にバラしたりしないわよ。あなたが悪い人には見えないし、それにその・・・八ツ橋くれたし・・・ってはッ!?」
さっき押し倒されたことを思い出して鼓動が加速していく。男の子を父親以外で初めて見たしあんな近くで押し倒されたのも当然初めてだった。
「?」
思わず赤面してしまった。恥ずかしくて彼の顔を見たがどうしたのか首を傾げている。
「まぁ、その嬉しかったというかなんというか、その、貴重な体験ができたというか・・・」
モジモジしていると少年は手を叩いてなにか思いついた。
「あぁ、そうか!お前八ツ橋食べたいんだな!こんなのでいいならいくらでも持ってきてやるぞ!」
「・・・」
私は思わず固まった。別に嬉しくないわけじゃない。八ツ橋は甘くて柔らかくて美味しい。
けど、言葉に説明できない何かが私の中でとても不服を示していた。
「むぅ・・・。」
「え、え〜と・・・。違うのか?」
「いや、あってるけど、あってるけど・・・。」
私は今どういう顔をしているだろうか。口をとんがらせて拗ねているだろうか。少年は困った顔をしてまた考え出してしまった。
「っと、そろそろ行かないとまずいな・・・。悪いな邪魔して。」
「え・・・、あ、ああ、そのもう行くの?」
「ん?だってそんな長居は悪いし、追っ手も遠くに行ったみたいだしな。あ、そういや公文所ってどこにあるか分かる?」
「公文所?もしかして朝廷の文書とかが置いてあるところのこと?」
「そうそう。名前がよく分からなくてこう読んでるだけなんだが」
「弁務局や外記局の文殿にそういうのはあるはずよ。だけど機関が衰退してほとんどが有力貴族たちの所有になっているから期待はしない方がいいわ。」
「ありがとう、じゃあ、もう行くわ。じゃあな。」
少年が御簾をあげて出ていく背中を見て寂しくなった。ここで言わないともう会えない気がしてーーーー
「待って!」
私は少年の裾を掴んだ。
「ん?どうした?」
「えっと・・・まだ聞いてないわ。」
「?」
緊張して喉に詰まりそうになるが、一思いに絞り出した。
「あなたの名前は?」
「ああ、そういえば言ってなかったってか?」
今まで忘れていたことに驚いていたような顔をして少年は告げた。
「俺は源朱若。まぁ、しがない武士の子だ。ここに来たことは内緒にしてくれよ?」
「え?そう、あなたが・・・」
今の今まで納得してしまった。私は彼を知っている。いや、正しくは聞いたことがあった。
「おーい、俺もう行くけどいいか?」
グイッとまた袖を引っ張って引き戻す。
「式子・・・私の名前。一応、皇族よ。けど気軽に接して欲しいわ。」
「え・・・おわッ!?」
私は少年の背中を押した。
「ほら、もう行きなさい。八ツ橋楽しみにしてるわ!」
「え・・・ええッ!?皇族ゥッ!?」
叫んだのがいけなかった。
「おい!いたぞぉぉぉぉぉ!!!」
「今度こそ殺せぇぇぇぇッ!!!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁッ!?!?!?」
風のように走り去ってしまった。
直後御簾が揺れて侍従が入ってきた。
「式子様。ただいま戻りました。ってなにかありました?」
突然不思議そうな顔で聞かれた。
「え?どうかしたの?」
「ええっと、いやどこか式子様が嬉しそうなご様子でいらっしゃったので。」
私は知らず知らずのうちにそういう顔をしていたらしい。私は不思議と晴れた心で返した。
「ふふ、なんでもないわ!」
そこから私と彼の縁は始まった。




