宮中に侵入だ
京の東山近辺に位置する六波羅の一室。
少年は悔しさを噛み締めていた。
「畜生が・・・、なんで内親王は俺に靡かないッ!」
机に両手を叩きつけた音にそばに控えていた子どもの側近たちは身体をビクつかせた。
「御坊丸様、わがままを言いなさんな。」
ただ一人、伊藤景清を除いて。
「うるさい!なぜ栄えし我ら一族の御曹司たる私が無碍な扱いをされねばならん!」
御坊丸と呼ばれた少年はふくよかな体型を揺らし怒りを顕にした。
「相手は皇族ですぞ?頭を冷やせ。」
「ぐぬぬ、だとしてもここまで丁寧に素っ気ないのは・・・」
「まぁ、自分のだらしない体型を目ェ擦ってよく見ろってことだろ?がはははははは!」
「おい!お前仮にも仕え主に対してその態度はなんなんだッ!?気にしてるんだぞ!」
このような軽口を宗盛に叩けるのは景清ぐらいだろう。
「まぁ、お前が醜悪で腹黒そうな見た目の割に素直で一途なことは知ってるがな。諦めろって!わははは!」
「ぐぅ・・・、こいつが父上の重臣の子でなければ今すぐにでも殺してやりたい・・・。」
景清の豪胆さは今に始まったことじゃない。
もう手遅れなことは御坊丸ももちろん知っている。
「そもそも俺たちがどんな思いと苦労で内親王様への恋文を届けているかわかるか?」
「ええい!わかっておるわ!」
口酸っぱくからかう姿はまさにタチの悪い悪友そのものであった。
ーーーーーーーーーー
「ええ・・・入れないの?」
「おいおい、都に住んでるものなら常識だろ?」
「ま、マジか・・・。いや、そういえばそうだったか?」
朱若は一つの盲点にぶち当たっていた。
(まさか宮中には簡単に入れないなんてな・・・。)
彼にとっては京都御所を拝観するほどの気軽さだったがこの時代の天皇の扱いを考えればそんな事そこらの百姓でもわかる事だった。
(確かこの時代はまだ天皇が現人神として崇められてたっけか。当然神様には簡単にはお目にかかれないし、住んでる場所も尚更ってか・・・。)
朱若は皇族でもなければ上級貴族の子でもない。天皇の血筋とはいえ所詮は武士の子だ。そんな者が簡単に宮中に上がれるはずがない。
「だが・・・そんなの簡単に諦められるか!」
朱若にとってあの仙女の尻尾を是が非でも掴みたいのにこんなところで「はい、そうですか。」回れ右して帰れない。彼女は朱若の運命及び源氏の運命の何かを握っているのだ。
そして行き着いた選択は至って単純。
「よし!公文所に侵入・・・するか。」
(見つかったら反逆罪的なもので問答無用に斬首まっしぐらだがな・・・。)
まず目の前の門番を何とかしなくてはならない。
北面の武士だかなんだか知らないがここは見逃してもらおう。朱若の手には小石が握られていた。
(よぉし・・・)
コツン・・・
「ん?」
武士が石に視線を向ける。
(今だ!)
後ろからいかにもな姿勢の忍び足で門を潜った。
(ふひひひひひ、チョロいチョロい。)
思わず口で笑いを抑える。しかしここからが問題だ。
朱若に宮中の中のことは全くと言っていいほど分からない。そして何より・・・
「ひ、広いな。なかなかに・・・。」
(ぐぬぬぬ、とりあえず虱潰しに当たってみるか。絶対公文書の中にそいつのヒントがあるはずだ!)
見つかれば問答無用で首チョンパ。
朱若のサバイバルが唐突に幕を開けた。




