天狗の聖地
「はっはっはっ・・・」
平安京は広い。何せそのものが京都市内のようなものだ。やはりこの幼体では往復で日暮れまでに帰るには小走りよりも少しピッチをあげなければ間に合わない。
いや、単純に平坦ならここまで行きも上がらない。
それもそのはずだ。
「階段が・・・数百段、、とか、聞いて、、、ない・・・。」
北の山深き山林の奥に鎮座するまさに修行場所と言う言葉が一番的をいた表現だろう。
「はぁ・・・はぁ・・・、着いたぞ・・・『鞍馬寺』。」
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朱若は仙女の足跡を探るにあたってある程度の目星を仮説としてつけることにした。明らかに異常な『まやかし』であったり、あまり正史としての枠組みで語られづらい特異性を感じた。
まず数百年を生きたと自身が吐露していたこと。
間違いなく人間としての寿命を超越していた。
そして朱若を出会いざまに触れることなく昏倒、予知夢を意図的に見せたという奇術を使うということ。
数少ない特徴からこの二つが顕著な手がかりとしてそれを中心に探ることにした。
伝承の域を出ず、人間とは非なる存在であると仮定するとやはりここで一つの推測に朱若は行き着いた。
『妖怪』である。
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「へくちッ・・・!」
ーあら?あなたという人が風邪でも引くと言うの?ー
「いやいや、そんなはずは無いんだけどな・・・。どっかで凄く失礼なことをされてるような気がして・・・なんか得体のしれない化け物みたいな扱いをされてる気がするんだけど。」
ーまぁ、そんなに生きてたらあながち間違いでもなぐぼぉッ!?ー
「あーら?何か言ったかしら?」
ーおねぐほぉッ!がいだからぼぶっ、私をぬかるんだ地面に押し付けないでくださるッ!?ー
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朱若はこれを踏まえたからこそこの鞍馬寺にやってきた。
「天狗・・・、『鞍馬天狗』かぁ。いるかぁ?さすがに。」
最も人と人外の境界線に近い天狗だとあの仙女の力も合点がいく。何せ人の体と顔を持ち合わせていたから。
(故に鞍馬天狗ってのは安直だったかもなぁ・・・。)
「はて、お主は誰かな。」
「ッ!」
誰もいなかった境内とは反対からよく通る声がした。
主は袈裟をつけた若々しい僧であった。
「も、申し訳ありません。ちょ〜ッと野暮用で裏の山に行きたいのですが・・・」
朱若はついつい、いきなり話しかけられるとキョドって敬語になるという鏡にまで描いた陰キャと化した。
「裏山に?すまない、そなたは何者か?」
「えと、源朱若です。」
「源、はて私もさすがに沢山の源氏がいて誰かすぐにはわからんがとりあえず父は何と言う名か?」
それもそうだ。源氏と言っても朱若が属する清和天皇系の清和源氏でさえ沢山の派生系統があるというのに、そこに村上源氏や文徳源氏などの貴族系統の源氏を含めると大変な数になる。僧侶が確認で尋ねるのも無理は無い。
「父?源義朝だけど・・・」
「ほう、あの義朝の・・・、たまたま知り合いの子であるようだ。取り敢えず茶ぐらいだそう。ついてきなさい。」
そう言うと若い僧は傍を足早に通り講堂に向かおうとする。
「あの・・・、あんたの名前は・・・?」
「蓮忍じゃ。」
(DA・RE?)
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「へぇ〜、親父の祈祷師をやってたのか〜。」
「まぁ、少しの間だかな。」
朱若は案内された講堂の一角で茶を啜っていた。




