新米女房 智のつれづれ日記ーーー3
「あの〜、紙はどこにお持ちすればいいのでしょうか?鬼武者様の部屋が分からなくて・・・。」
携えた和紙を抱えてから気づいたのだが、私はここに勤めて二ヶ月は経つのに未だに鬼武者様の部屋が分からないのだ。
「あっと、そうだったね。僕が案内したげるよ。」
「え、そんないいですよ。場所さえ教えて頂けたらお持ちし・・・ひぅッ!?」
「やっぱ面白いね。何度見ても飽きない。」
「な、なななな・・・ッ!?」
いつの間にか後ろにまわられ首筋を指でなぞられ思わず逆毛立つ。
(な、なんだろう。朝長様はやっぱりからかうのが趣味なんじゃ・・・)
鬼武者様の部屋は離れ廊下の先にあり屋敷の中でも一際奥であった。
「着いたよ。」
「え?ここって確か書庫のはずじゃ・・・」
前来た時にはたくさんの本が積まれていて誰もいなかったはずなのだが朝長様はここだと確かに言った。
「おーい、鬼武者ー。言ってた紙を持ってきたよ。」
ガラガラと部屋を開ける。
ズザザザザザ・・・・・・
「うわッ!?」
「あちゃー、やっぱりか。」
その部屋はいきなり書物が雪崩を起こすほどに散らかっており足の踏み場もない。そして僅かな隙間の奥には、白い狩衣を纏った少年が机に向かっていた。
「ん?、兄者。来てたのですか。」
「言っていた紙を持ってきたよ。」
「おお!助かります。」
紙のことを聞いた瞬間に目を輝かせて私の携える紙に飛びついた。
(なんだか子犬みたい。かわいい・・・。)
「ん?はて、そなた、見ぬ顔だな。」
「あ、私は最近ここに務めています。智と申します!」
怪訝な顔をされてしまった。あまり鬼武者様が部屋や食事をとる間以外に出てこないのがりゆうではあるのだが、
(私これでも二ヶ月はここにいるのにな・・・。)
ほんの少しだけ悲しさに浸れればよかったもののそんな間は無かった。
「そして僕の許嫁だ。」
「・・・え?」
「え?」
「違いますッ!からかわないでください!」
爆弾発言を朝長様は躊躇なく投下した。
「むむむ・・・」
鬼武者様がこちらをじっと見ている。
「な、なんでしょうか?」
「いや、別に兄者の許嫁なら気にすることもないなと・・・」
「真に受けないでくださいよ!?」
ひと悶着あったが一旦落ち着きを見せたところで朝長様は紙を抱えた鬼武者様をご覧になった。
「鬼武者はなんで紙が必要なんだい?」
「まぁ、書物の写本とかかな。あとは朱若への手紙ですね。」
「朱若様?」
そう私が疑問口調で繰り返した時だ。
鬼武者様の目がキラーンと輝きが増したのは。
「ふふふ、そなた朱若を知らんと見える。」
「え?は、はい。申し訳ありません。無知なもので・・・。」
「よいよい。我が弟の魅力は今にこの日の本を席巻するからな!そなたにその魅力を伝授する名誉を与えよう!」
「えっと、あの〜」
戸惑っていると朝長様が傍らで呟く。
「あはは、朱若は僕達の弟でね。鬼武者からしたら同じ母ですぐ下に当たるんだけど、それはもうすごく溺愛しててね。素直じゃないから義平兄者みたいにあからさまでは無いんだけど。朱若がいない時は専ら誰かに語るんだよ。実際朱若も相当に優秀だから、言わずもがななんだけど。とにかくこうなったら鬼武者は止まらない。」
「ええ・・・。」
鬼武者様の方に顔を戻すとすごい速さで口が動いていた。
「それでな、朱若はあーでこーですごく・・・・・・・・・・・」
結局私たちが鬼武者様から解放されたのは一刻半後(三時間後)でした・・・。




