八の暗躍…曲者大宮司、熱田の港、弟との邂逅を前に
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白い源氏の旗はさながら一反木綿のようにたなびき、熱田神宮にて舞う。
「鬼武者様、朱若様、御到着ーー!!!!!」
尾張国(今の愛知県)の熱田神宮に着いた。一人の立派な顎髭を蓄えた老人が出迎える。
「よくぞお越しになられた、鬼武者殿、朱若殿!」
「お爺様!」
頼朝が老人に駆け寄る。
「父上、お久しゅうございます。息災でございましたか?」
後ろの籠から降りた蒼若を抱えた由良が軽く会釈している。老人もその姿を見て笑みを浮かべる。
「ふおっふおっ、わしは孫が結婚して曾孫を見せぬまでは死ねぬぞぉ。」
「あらあら、相変わらずですこと。」
由良もくすくすと笑っていて柔らかい場となっている。
(なるほど、この様子だとこの翁がこの熱田神宮の大宮司を勤める藤原季範か。)
由良の様なおおらかな性格が似ているように見えて、その中の滲み出る狡猾さが末恐ろしく感じる。
「朱若も挨拶なさい。心配なさられますよ。」
由良に促され朱若は会釈して大音声で話す。
「清和源氏の嫡流!河内源氏が棟梁の源義朝が四男!源朱若にござる!以後、お見知り置きを、、、」
季範翁がその様子に一瞬驚きはしたものの、すぐに平静を持ち直した。
「これはこれは、朱若殿。まるで三歳とは思えぬ立派な挨拶!この季範思わず肝を冷やしましたぞ。」
「勿論ですよ。朱若は天才ですから!」
(なぜ由良が得意げに胸を貼っていらっしゃる、、、)
さらに後ろで大叔父の義隆は泣いている。
はちきれんばかりの母性の塊を突き出して得意げにしているのは普段の様子から見てもなんだか滑稽である。
「この熱田神宮を我が家だと思っておくつろぎ下さい。」
とても無垢な老人にしか見えないが顔は笑ってないようにも見えるし、何よりその真意は見えてこない。
(季範翁、なかなかできるな。何気ない褒め言葉かと思わせて、「三歳とは思えぬ」だってよ。既に思いっきり疑って探りを入れてきてやがる。頼朝の性格が似たのはこの老人から来ているのかもな。頼朝はまさに顔は義朝と由良で性格は季範翁と由良のハイブリットって感じだよな。)
熱田神宮の近くの大きな屋敷に通されて侍従の武士たちや侍女がパタパタと積荷を降ろしたり、整理したりと駆け回っていて落ち着かない。
「母上、私しばらく外を散歩してきます!」
「行ってらっしゃい〜、半刻までに戻ってくるのよ〜。」
普通のこのぐらいの身分の子なら絶対ダメだと言われるがこの辺由良は自由過ぎる。
「待て!私も行くぞ。」
後ろから頼朝がついてきた。
「あれ?兄者も来るのですか?」
「ああ、朱若になにかあったら私が守ってやらないとな!」
「ありがとうございます、兄者。」
(やった!これで朱若と一緒に居れるぞ!)
「なんか、兄者言いましたか?」
「な、なんでもないぞ!?」
(ハイハイ、聞こえてますよ、兄貴。はぁ〜、あなたも義平と同じ道を辿りますか、そうですか!なぜ、こうなった、、、)
義平は、、、、、真っ白に燃え尽きていた。
熱田神宮で、結婚相手とのお見合いと祝言(今の結婚式)を行うからだ。
(いや、そこまで嫌がらなくても結婚できるならいいじゃねぇか!)
義平への呆れと頼朝の真意にかなりの絶望を、感じた朱若であったがそんなことは目の前の熱田の港町の活気がかき消してくれた。
「凄いな。まさかこんなにも栄えているとは。都にも引けを取らないぞ!」
頼朝も目を見開いている。
(織田信長の頃から南蛮との交易も盛んになりだし、その最初期から窓口としてこの熱田は尾張国の財布を潤す源泉だしな。にしてもここまでとはさすがに予想外だ。)
町の至る所に祭りの露店の様な木造の店が軒を連ね、魚や着物、首飾りなどのアクセサリーなど多種多様の様々な製品の生産、売り出しで客で常にごったがえしている。瀬戸焼かは分からないが、陶磁器なども売られている。
(武士もいれば、商人、僧侶、そして普通の百姓もいるじゃないか!?)
「お、おい朱若、あの店に入らぬか?なんだか美味しそうだ。」
見てみるとそこには串焼きが、売られていた。
ヤマメの様な川魚を木串に刺して塩を振った普通の塩焼きだが、格式高い武士の子の頼朝はこの経験がないのか目を輝かせていた。
(かく言う俺も源氏の子どもだけど前世でバーベキューとかキャンプでそういう簡単なご飯作って食べなくもないからそれほど驚かんな〜。)
「どうした?あまり驚いていないようだが、、、」
「いえ!ちょっと考え事してただけですからぁ!」
(危ない危ない、思わず心配されてしまった。以後気をつけないと。)
「兄者が気に入ったようなら買いに行きましょう。」
店に駆け寄り、店主に声をかける。
「親父!この塩焼きを二つ頼むぜ!」
朱若の砕けように頼朝はポカンとしている。
「あいよ!お使いか?こんなちいせぇのに立派なもんだ!オマケにこいつもつけといてやるぜ!」
塩焼きのほか気前のいい店主からもう二串別のものを渡される。
「親父、これは何を刺してんだ?」
店主はニヤニヤしながら、耳元で囁くように言った。
「こいつぁ今朝三河(今の愛知県東部)で取れたあさりを干して刺したものだ。噛む度に上手い汁が溢れてくるぞ!」
「ありがとう!親父!」
店を後にして近くの砂浜で頼朝と、一緒に串焼きを噛じる。
「ちょっと多いくらいの塩加減も最高だな、兄者!」
「ああ!美味だな!にしても、、、なんかああいう場所行きなれてるのか?とても初めてとは思えない手馴れた感じであったが、、、」
「まあ、かしこまって喋ったら民草とも打ち解けて喋れませんよ。兄者。」
(これも魚屋のおじさんがこんな感じに喋ってたのがつい移ってしまったからなのだがな、、、)
「そうか、私もこれからは善処してみよう。」
「見つけたぞぉ!!!」
何かと思ってみたら、義平だった、、、。
「おお〜う、鬼武者、朱若〜。この悲しき兄をなぐさべでぐでぇ〜」
大泣きして半ば語彙を失った義平は抱きつこうと迫ってきた。
「に、逃げましょう!兄者!」
「ああ!同感だ!あれはしばらく泣きついて慰みおもちゃにされる気がするぞ!!!!」
一目散に逃げ出した。
しばらく、必死に逃げる男児二人とそれを追いかける不審者の様な絵図が出来上がった。
「はぁ〜、はぁ〜、ま、撒いたか?」
「ど、どうやらぁ〜、そのようです。」
商店街の通りの多さや、人混みによる混雑、小柄を活かしてどうにか慰めを要求する困った兄を撒いたようであったが、義平は源氏一の武士として異次元の体力で諦めが悪かった。よってこのように行き絶え絶えなのである。
「む、気づけば他人の屋敷に紛れ込んでしまったか、、、。」
「知らない庭ですし、そのようです。」
その時背後の屋敷の障子が開いた。
「あら、こんなところに子供達が、、、」
そこにはさすがに乳児ではないが、それなりに幼い子どもを抱いている女性がいた。
「申し訳ない!道に迷ってしまいまして、、、どうか帰り道を教えて頂きたく。私の名はおにむ、、、むぐッ!?」
慌てて朱若が頼朝の口を抑える。
「我ら、兄弟でして、、、こっちは兄の鬼丸です!そして私は朱丸です!」
(なっ、何をする!)
(兄者、我々の名は源氏の棟梁の子どもとしてかなり売れています。それは同時に命を狙わねかねません。ここは偽名を名乗るべきかと。)
(そ、そうだな。良い考えだ。よくぞ申した。)
女性は優しい目でこちらに合わせてくれている。
「そうでしたか。では下の者にお願いしてご自宅までお送り致しますのでしばらくここでおくつろぎなさってください。お茶とお菓子を持ってきますので。」
女性は暖かく迎えてくれ、お茶菓子を用意してくれた。
頼朝は近くに居る幼児にずっと目を向けている。
「あの、この子が気になりますか?よかったら抱いてみます?」
気づいた女性が笑顔で提案してくる。
「いやいや、かたじけない。そんな大事なお子に恐れ多い。」
(全くうちの兄は素直じゃないなあ。)
「ならば、私がよいですか?」
「うふふ、嬉しいですがあなたにはまだこの子が重いかもしれません。」
「というわけです、兄者。どうか私の代わりに抱いてはくれませぬか?」
「ぐぬぬ、朱若の頼みとあらば仕方あるまい。」
朱若は、女性は目配せで感謝を伝え女性はそれに応じた。
頼朝は恐る恐る幼児を抱え上げる。
「なんか、温かい、、。」
「赤子は体温が常に高いので温かく感じられるでしょう。」
頼朝は安心したような顔で幼児を見ていた。
「私の弟もこのように抱き上げることができるのだろうか、、、」
「そのように考えられるのなら兄者は大丈夫ですよ。」
頼朝の腕の中の幼児は頼朝の顔を見るとキャッキャッと嬉しそうに笑って懐いていた。




