ある親子の営み
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「・・・。」
粗末な町外れのあばら家に隆々とした男が一人。
「・・・ッ!」
分からない。漁師との話も魚屋の営みも熱田の人々の騒がしさも、自分は何のためにその場にいたのかも。
(結局何がしたいんだ、俺は。)
神官の家、ましてや院との繋がりが深い一族に生まれ落ちたにも関わらず、家業がいまいち身に入らなかった。別に神を信じてないとかそんな極端な現実主義じゃない。むしろいてくれても悪くはないと思う。ただ、自分によく馴染んだのは払い清められた祭祀で使う御幣ではなく、刀や包丁など血濡れが連想できる忌むものばかりだった。魚屋の営みも包丁やらで捌くときによく馴染んだのであって、喧嘩する時にも刀で斬りかかってくる相手には当然刀を叩き落として戦うがその時に手に触れた途端妙に違和感を感じなかった。無論、峰打ちではあるが。
「俺は神官に向いていない。それはわかってる。」
父もそんな自分を憐れむあまり遠ざけるようになった。兄との折り合いも悪い父はどこか幼く感じるが実に強かなのは間違いない。血濡れた物を好む兄より、家業をひたむきにこなす弟達が可愛く思うに決まっている。
「許せないわけじゃない。けど・・・」
口から先に言いたいことはすんででいつも喉をふるわせることはない。結局のところ藤原範信という人間にとってそれはただ、『寂しい』だけだった。
「親父はどうして俺を外に出そうとしたんだ・・・。」
でも心のどこかでは引っかかることがいくつかあった。まだ元服するはるか前に戯れ混じりに願うような顔だった。
「・・・、そういえば、なんであの時・・・」
ふと、昔に父からおもむろに言われたことが回帰した。
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「親父ィ!なんで俺たちの家はこんなカサカサの紙がついた棒をずっと降ってなきゃいけないんだよ!」
「はは、この熱田で神剣様にお祈りすることが私やお前の母上の一族達が脈々と繋いできた大事な祭祀だからね。分からなくてもいつかはどのような形であれ、それを慈しめる時が来るよ。」
「え〜、そんなことするよりも刀を振ったり、町のヤツらと海の話をする方が楽しいって!」
そんなことを言っただろうか。まだ鼻水を垂らすような幼子だった自分に父は笑ってそういったはずだ。
『なら、お前はこんなところだけで祭祀だけを知るよりも広い天下をみて自由に生きる方が向いているのかもな。』
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「親父は、そうして欲しいのか・・・?」
背丈が大きくなるにつれ父との会話は自ずと減っていった。母も「素直じゃない人だから」と自分を慰めることはいつもだった。あの態度と勘当は何を思っての至りなのか。
(確か・・・小僧が今日、都に登るんだったか。)
その時あばら家に光がさした。




