真意と本音
昨夜は酷い雨が降り注ぎ、今朝を迎えた熱田は青一色の空で太陽の指す光が雫をもって銀世界を演出する。
(さて・・・)
「朱若よ。支度は済んだ。そろそろ行くぞ。」
「あ、ああ。わかってるよ、大叔父。」
(範信の件は・・・)
諦めることしか出来ないのだろうか。
「不甲斐ない・・・。」
結局のところあれから範信とまみえることは無かった。
当然のことだが、やはり熱田の街でも見なかった。
「私も院での勤めがある故、すぐに都に登るでしょう。」
「へぇ〜、翁ってやっぱ都勤めが多いんだ?」
「そうですな。普段は息子達に熱田を任せてほとんどは都の院庁に詰めております。」
確かに成長した子どもに地方任地を任せる話が無い訳でもない。自身は都から情報を仕入れ必要に応じて物や人の行き来などを行ったりすることで有利な立ち位置にできるだけ立ち続けることが出来やすい。理にかなった例である。
「俺はその辺詳しくないし、細かくは知らなくていいや。」
「そうですか・・・。」
翁の表情が少しもの寂しそうに見えた。
「いけませんなぁ、この歳になると別れが惜しくなってくるものですね・・・。」
はらはらと涙するところを見せられると流石にだ。
「あんたは腹黒いが、何かを得たい、守りたいって意志で動いてるところは嫌いじゃねぇよ。それなりに尊敬はしてる。」
一応、本音ではある。
「ほう・・・、!」
「お前が俺の周りに神官や禰宜達を近づけて嗅ぎつけさせようって魂胆さえなければな!」
「ふぉっふぉっふぉっ!これは見破られてしまいましたか。」
まさに嬉しさ半分の笑みで瞳を拭う。
「朱若〜?そろそろ行くわよ!」
由良が籠からおっとりした声で促した。ここまでらしい。
「じゃ、そろそろ行くわ。もし縁があったら京でな。簡単にくたばんなよ。爺さん。」
「父上〜、またね〜!」
自身の子と父がきな臭い話をしているとも知らずに由良は快活に遠くから笑ってみせる。
(全く呑気なものだな、由良母さんは・・・。でもまぁ、いつも見てて悪い気はしないからな。)
景義の手を借りて栗毛の馬に跨った。
「はいやっ!」
景義の発破って行列は進み出す。
(そうだな、気がかりは残るけど今はこれで・・・)
翁は見送られる行列に頭を垂れている。その伺うことの出来ないところから途切れ途切れのシグナルが足元に至る。
(翁、その涙の真意・・・聞かないことにしてやる。)




