黙示録のはじまり
短いです。どうかご容赦を・・・
静かな寝所に影は蠢く。
「小太郎か・・・。」
「はい。耳に入れておきたいことが。」
「うん、聞こう。」
「秩父党が・・・・・・・。」
「ッ!?」
胎動・・・。
平安京 某邸宅
「フザケルナァ〜、フザケルナァ〜!」
滑稽な音が木霊する。
「ほほほほほほほ!さてさて今日の日記は・・・」
その豪勢な狩衣には似つかわしくない細身。筆を手に都、いや、この日の本を統べる身分たる週間というのも毎日欠かすことなく綴られ続ける。
ある人から見れば、至って普通の日常。
ある者からすれば、悪夢を刻み込まれるブラックダイアリー。
この者にしてみればそれが後世にて皮肉にも貴重な資料となることは分かるはずもなく・・・。
「今日の童の味は・・・、『嗜好』と。」
いや、それすらも関係は無い。誰に知られようとも後ろめたいことはないも無いのだ。
「帯刀先生はよかったのう。抗いたくても抗いきれぬ家の事情故、顔を歪めて耐える様!いとおかしッ!ほほほほほほほほほ!」
筆を硯に休ませ、吊るされた籠の中。
最初はよく聴き取れなかったが、今では終生の友とも言える艶やかな色合いの人語をのたまう怪鳥。
「イトオカシッ!イトオカシィィィッ!」
「ほほほほほ!賢いのう。未だに私の笑い声は真似せんでおじゃるが。にしてと帯刀先生程の逸材は現れないでおじゃる。」
こういう人間はすぐに類たるものを見出す。
「ッ!そういえば、確か最近まことしやかに噂があるとある下錢な四男がおったのう。」
頬に手を当て息が荒くなる。
その目は虚ろだが確かな闇を宿す。
「鳴かせてみたいでおじゃるのう?源朱若・・・。」
悪左府 藤原頼長。
この男の無為から生まれる悪意は留まることを知らず。
いずれ降り掛かる火の粉はとは言い難い大炎であった。
その炎が何を焼くのかは誰にも分からない。
しかし、頼長は疑わない。
「どうせ頂点は私の物じゃ。」
自身が焼かれることさえも、隆盛の前にはどうでも良いことなのだから。
鎌倉 大庭御厨 師走 二十七日 明朝
「うううッ!?なんかすごい悪寒が・・・。」
「馬鹿は風邪をひかんと聞いたが!?」
「おいこら、どういうことだ!」
朝から辛辣過ぎる耆老の自然ぶったいびりが完全に朝の眠気を飛ばす。
「父上、どうか留守と今後の朱若様のことを・・・」
「わかっておる。初陣の時から実は忠誠を誓うことは決めておった。でも我が息子がここまで買った主をこの目で見たいという興味でな?」
義平婚礼の折の景義の変化には戸惑うものがあった。しかし、それは初陣に送り込んだ者たちがもたらした話によって懸念は払拭された。景宗にしてみれば強く、未来があり、それでいて民や部下への気配りを忘れない。それだけでもう満足以上であった。
「父上・・・。なんと回りくどい。」
「貴様の性分を心配した時期はあったが・・・」
景義は繊細な息子だった。故に周りに理解がされず、しかし、部下たちからはその厳しさと細やかさが畏敬の念を抱かせたのがまた彼を本質的には孤独にさせた。
不意に頭に手が置かれる。
しかし今はどうだ。いつになく笑う息子は何十年ぶりであろうか。何かが変わるそこまで大きな事件はなかっただろう。そうであっても景宗には一つだけ確信があった。それは・・・
「良き主に出会ったな。景義・・・。」
「・・・はい。」
(全く・・・)
よそから見た朱若にしては率直な感想がよぎる。
「いい家族じゃねぇか。」
今日、鎌倉を出る。わずかだが鎌倉党のことは・・・、見ての通りの結果だ。
「景宗。」
「はっ!」
側まで来た朱若に跪く。
「俺が留守の鎌倉と義平兄者、任せた。」
「はっ、命に代えましても。」
もうここでやるべき事は一段落した。
馬に振り返り、歩き出す。
「京に・・・、戻るぞ!」
「「「「「オオオオオオオッ!!!!!」」」」」
戦乱の灯火はこの坂東に燻ったまま。
しかし、立ち止まってはいられない。
(勿論、大蔵合戦は起こる!そして秩父党は絶対に来年の一番戦が始まりやすい時期に動くはずだ。)
今京に行く理由は今さっき充分なものとなった。
朱若はあくまで影。一度消えねばならない。
「長居するかな。せいぜい京観光でもするか・・・。」
さてさて、戦の盤上から突然危険な駒が消えたら相手はどう思うであろうか。
(ああ見えて義平兄者は苛烈だ。あの穏やかさは俺や兄弟の前でしか出ない素でもあり、取り繕った姿でもある。さあ、どう転ぶかな。)
含み笑いは晴天の寒空に消える。
「あとは時がその味を熟成させるだけ・・・、深みある暗躍は今、成った!」
第一次坂東編(初陣、雪ノ下領地経営、房総編)はこれでお終い。
次から移動を経て一度平安京へ戻ります。
恐らく思ったより早く関東に戻ってくると感じるかもしれませんが、実は京でやることが沢山あるので今まで展開の起伏が少なかった当作品ですが、ここから怒涛のラッシュなると思います。
実は話の起伏がすくなかった原因はちょっと史実の時系列に忠実であったからです。
(ちょっとフィクション話が増えるかも?)
何はともあれこれからも温かく見守ってくれるとありがたいです!
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