怒り心頭、逆襲開始の門出
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「おい!?これは、、、どうなっているんだ!」
朱若達が信太荘付近まで近づいた時に前まで活気に溢れていた周辺の村々がことごとく荒らされ家屋を焼き討ちにされていた。
農民たちの笑い声は今や泣き叫ぶ悲鳴へと変わり血を流し倒れ込み、既に息絶えている者、瀕死のまま、苦しむ者、親族だろうか無惨に打ち捨てられた者の傍で号泣する者もいた。おそらく、心も身体も無傷な者はいないだろう。
「ッ!?師胤殿!あそこに馬を近付けてくれ!」
「は、はい!わかりました!」
師胤の馬から飛び降りて傷だらけで血を滲ませた子どもを抱き上げる。
「あ、、この、、、まえ、の、、だらしのない顔の、、、」
野いちごを分けてくれたあの元気な少女だった。
「大丈夫か!誰にやられたんだ!」
「いきなり、、この、村、、、を襲ってきて、、何も分からず、に、私とおっ母、、きられ、、、ちゃっ、た、、」
息絶え絶えの中で話す少女に何かが込み上げてきそうにになる。
「安心しろ!絶対に助けてやる!お前も、、お前の母親も!」
そこで静かに少女は笑った。あの時の溌剌とした笑顔とは真逆の静かな微笑みだった。
「おっ母ね、、もう、冷たいの、、、、私も、、もうダメみたい、、。」
「あ、あ、諦めるなッ!まだ、間に合う!」
「あはは、、もう、身体の動かないし、、、感覚もほとんど無いの、、、。で、、も、つい最近会ったばかりなのに、、あなたを見ると、安心したの、、。だ、から、、、」
「もう、そんな風に、、、泣かない、で?」
気づいた頃には顔の全てから滝が落ちるように袖を濡らしていた。
「ぐ、ぐううッ!いぐな!いぐんじゃねぇ!」
動かないはずの少女の手が朱若の頬に添えられる。
「な、ら、、、や、、く、そく、。わたし、の、ように、、困ってる、、子がいたら、、、助けてあげて、、、。」
「うう、ううう。」
言葉にならない。ゆっくりと首を縦に振る。少女はそれを見て安心した顔で今は荒れ果てた村を見渡す。
「ああ、おっ母と、、、食べた、、野いちご、、、おいし、、かっ、た、、なぁ、、、、、、。」
頬に添えられ縦が地面に落ちた。
「・・・。」
許されていいのか。関係ない人間がただの私利私欲の為だけに踏み潰される不条理が。
「師胤殿ッ!!!」
「はッ!?ははーッ!」
不意に迸る雷鳴のような怒号に師胤思わず馬から飛び降りて畏まった。
「あの男児と合流するぞ、、、今すぐにッ!」
常陸国、国衙
「親政様!信太師国を討ち取り、信太荘を陥落させた模様です!」
「ふははは!逆賊ごときにこの親政が負けることなど万に一つも有り得ぬわ!」
丸々と太った大柄の狩衣の男。常陸国領家、藤原親政。かつては義朝と手を組み坂東を握ろうとしたが今は袂を分かっている。
「にしても、清盛殿も話が分かるのう。まさか下総に進出しようとしたら沢山の金品を送ってきおったわ。お陰で大規模な軍を動かすことができたしのう。義朝を裏切って正解だったわ!」
「誠に、、、笑いが止まりませぬなぁ!」
「そうよのう、このまま源氏もふむつぶしてくれようか?ひゃはははは!」
(ほう?この男、、、頭が良いのではなく清盛、平氏の入れ知恵であったか。にしても、とんだ屑であるな。予め若様の言いつけ通り忍び込んでこちらも正解であったわ。早く戻って朱若様に知らせるか、、、)
屋根裏から一つの気配が音もなく消えた。
愚鈍な男の笑いを残して、、、。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
「若様ぁ!どうか堪えてくだされ!」
郎党の励ましの声も全く励みにならない。
(父上ッ!)
「「「「うおおおおぉッ!!!」」」」
突如後方から歓声が上がる。
「何事だ!」
郎党の一人が後ろを振り向く。
「信太師国、討ち取ったりィッ!!!」
「・・・。」
無常に響く怒声に父の最期を知る。
「う、ううっ、師国様ァッ!!!」
「くそゥ!」
郎党達も嗚咽を漏らす。小次郎は空を見上げていた。
(父の好きだった信太から見た青空、、、。もう一緒に見ることもできない。)
「うおおおおぉ!見つけたゾォ!」
「あいつだ!あれが信太の神童だ!討ち取れぇ!」
「なぁ!?もう追撃が来たのか!若様!ここは我々に任せて逃げられよ!」
(もう、どうでもいい、、、。)
小次郎の虚ろな目には諦めだけが現出する。武士たちはそれを分かっていたとしても馬を止めず駆け続ける。
(守れなかった、、、)
次々と郎党達が射られて落馬して一人、また一人と傍から消えていく。
とうとう、小次郎を乗せた郎党の一騎だけになった。
「あれが子倅だ!討ち取れ!」
「ぐうっ!追いつかれる!」
「その首!戴いたァ!!!」
背後から刃が届いた。
「ぐ、ぐあああああぁぁッ!?!?!?」
小次郎の左肩に直撃した。
「小次郎様ッ!?貴様ァ!よくもおおォ!ぐはぁッ!」
同乗していた郎党も振り向いた途端に眉間に矢を受け落馬した。
「今度こそ終わりだァ!」
ザンッ!!!
「ぐああああぁッ!?」
鮮血が泉が湧くように吹きこぼれる。
「あ、あなたは、、、」
倒れ込んだのは切ろうとしていた武士の方だった。
「朱若殿、、、。」
手に持った小太刀には血が滴り首の頸動脈を一閃していた。
「・・・。」
背中を見せたまま小次郎の前に立ち尽くす。
「なぜ、あなたが、、、」
「俺さ、」
小次郎が言い終わる前に朱若は遮った。
「好きだったんだよ、お前の、信太の村が。」
顔が見えない。だか、その寂しい背中と震える声が雄弁に語っていた。
「あとッ!大ッ嫌いなんだよッ!、自分に笑顔を向けてくれた、優しくしてくれた人間が知らない誰かの私利私欲の為だけに殺されるのが!」
今目の前にいる満足に鎧も着けずに敵の追っ手の武士達の前に立ち塞がる男児がとても大きく見えた。
「だから、今だけでいい。お前の力を貸してくれ。」
振り向いた顔に今まで信太屋敷で見てきたような笑顔は無かった。どこまでも真っ直ぐ鋭い真剣のようにただ小次郎の一点を見つめて。
「私は守れなかったんです。」
涙腺が壊れて喉を震わせる。
「六韜・三略を学んでもッ!父を!郎党を!ここに暮らす領民達も!誰一人として守ることができなかったんですッ!そんな私に何かができるって言うんですかッ!」
「おい、ちょっと食いしばってろ。」
ボコオオオオオォォッ!!!
朱若の拳が小次郎の身体を吹っ飛ばす。
「なッ、何を、、、。」
「自分の置かれた現実から目を背けてんじゃねぇッ!あいつらは、あいつは!俺の手の中でずっと笑ってたんだよッ、、、。これから死ぬと分かってしまったとしても!それでもあいつらは後悔してなかった!また母親と一緒に食べた野いちごが美味しかったって言い残して、、、。ここに来るまで出会った他の皆も同じだった。皆は、、、たったの一つだってお前の文句を口にしなかったッ!それに比べて、、お前はどうなんだよ!どうしたいんだよ!小次郎ぉッ!!!」
本当は襲われた百姓達全員が笑って死んだなんてそんなできた話では無いかもしれない。それでも、少なくとも生きていた彼らは幸せそうだった。『信太の神童』のお陰だと口々にして。
「まだ、間に合う。いや、間に合わせる!約束したんだよ。あいつと、、、。だからもう一回だけ聞く。力を貸してくれ。」
彼の者の言葉に偽善やら自己防衛やら難癖ならいくらでもつけることができるだろう。
ただ目の前に突きつけられた言葉はそれのみを示すような軽い意味に昇華することはできない。
大岩が地響きを立てるように動くような揺さぶられる言霊。
それは出会ったことも無い安心感と、無償の信頼と、僅かな虚栄心の瓦解。
「う、ううッ、私に是非とも助力させてください。信太をッ、、、私の故郷をッ、、、守るためにッ!!!」
朱若は笑う。一人の決断を祝福して。
「反撃、、、いや、逆襲開始だ!守る為に、、、そして幸ある門出に必ず辿り着く為にッ!」
さあ、逆襲開始だ!




