鬼武者の研鑽、舞い込む神託の真相は闇の中
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平安京、源氏館。
(最近、坂東からの文が少ないな。少々不安だ。)
一年前まで賑やかだった源氏館も今は少しだけ寂しさを感じる。机に向かい硯で墨を擦っている鬼武者もこの頃はそれを紛らわすかのようにありとあらゆる書物を読み漁っている。
「藤九郎!三郎!いるならここへ!」
「「はっ!」」
すぐに目の前でかしこまった二人の武士に手紙を差し出す。
「これを朝長兄者に渡してくれ。父上には私から話す故大丈夫だが、、、あと牛や豚、鶏、それと鋳物屋にこのような鍋を作って欲しいとな。」
かしこまる安達藤九郎はおもむろに尋ねる。
「鬼武者様、朝長様や義朝様へのご報告については承知致しましたが、この獣や鋳物師への依頼はどのようなものなのですか?」
「わからん、これを頼んだのは朱若だからな。」
朱若の名を聴いて安西三郎の顔色が変わった。
「なんと!それはあの弟君の朱若様からにございましたか!」
あまりの三郎の反応に鬼武者もさすがに気になった。
「朱若は坂東に降ったが何かあったのか?」
「あったも何も、素晴らしき初陣を飾ったのでございます!相手に劣る兵数ながらほぼ無傷で壊滅させたと!」
「おおっ!そうかそうか!賢いとは思っていたが、ついにやりおったか、朱若は!」
立ち上がって頼朝は報告に喜ぶ。
(普段、静かな鬼武者様がこんなにはしゃがれるとは、、、。そうさせてしまう朱若様はどんな方で在られるのか、、、)
「そういえば、お主達はなぜその事を知っておった?」
「はい、私達の実家から時間差ではありましたがこの話が届いたのでございます。」
藤九郎の実家は在庁官人の藤原家で武蔵国にあり、三郎の安西家も安房国で代々根を張る豪族だ。
(この者たちは私がまだ産まれたばかりの頃父上が坂東から京に戻る際に世話になった豪族たちに声をかけて年齢が近いものに俺の傍使いとして連れてこられたからな。そういえばそうだった。)
「にしても、初陣が六つとはいささか早すぎやしないか?」
朱若の初陣の早さに自身はまだである鬼武者も戸惑いがあった。
「そこは、、、上野の荒加賀入道が戦の多い地域に滞在させたと聞きました。」
「荒加賀入道だと!?正直あの若さだし朱若が心配だが、あの頑固な荒加賀入道が紛争地域を任せるなんてなかなかすごいことだぞ?」
義国は都では荒くれ者として恐れられている。
「それに自ら朱若様に修行をつけられていたと聞いております。」
「もう、驚いても疲れそうだ。全く、離れていても朱若は頼もしいな!私も兄としてあやつを守れるように頑張らなくては!」
張り切りながら鬼武者は再び机に向かい筆を走らせたり、書物を読み始めた。
後ろに控える三郎は笑顔で藤九郎も源氏の未来を安泰だと確認する。
(このように兄弟仲が良いのも古今から見て珍しくこの上なく良い事だ。それに鬼武者様を始め朱若様もその上の義平様、朝長様もみな優秀だと聞く。源氏に再び興隆する力は有り余っていると言えよう。少なくとも我らはこの方についていけば万事よろしくなるのを知っている。これからも源氏を、鬼武者様をお支えいたそう!)
鎌倉、亀ヶ谷館。
朱若の目の前には一人の少年が座って畏まっている。
「この度は御目通りをお許しいただき誠に恐悦至極の思いでございます。」
朱若のそばには義隆、景義、そして新しく郎党として修行を積むことを志願した季邦がいる。
「さてさて、君は確か秩父重弘殿のご子息と聞いたが、、、」
「はい、秩父重弘が一子、畠山庄司氏王丸にございます。以後お見知り置きを、、、。」
(氏王丸ね〜、恐らく年齢的に親の方だろうか、、、)
堂々とした立ち振る舞いでその目には愚直に朱若をとらえている。
「この鎌倉までいささか遠かったであろう。楽にしてくれ。俺は遠くまで来た人間を礼儀深くしろなんて鬼畜なことは言わん。意図はないから安心しろ。」
朱若の言葉に氏王丸は動じることなく下げていた頭をあげた。
「噂はかねがね耳にしております。初陣でのお活躍も目覚しかったと。」
「いや、あれは単純に武士の戦いの盲点をついたまでだ。別に対してすごいことはしてない。」
「盲点と言うもの、聞いてもよろしいですか?」
(あくまで神妙な顔だが、俺を図っているのか?畠山氏王丸、さすが、坂東武者の鏡と言われた武士の父親になる男だな。勇気もあれば賢いときた。これは引き込みたい。)
「まずは武士たちの戦いをする際にどのような作法がある?言ってみろ。」
「まずは、基本は一騎打ちにござる。刀を合わせたなら相手を討ち取るまではその者を相手どる。名乗る前に打ち込んではならない。一騎打ち中の武士達に介入してはならない。などなどありまする。他にも細かい規則や作法がありますが、、、」
「なら、氏王丸に問う。一騎打ちに勝てば、戦にかてるか?」
氏王丸は疑いもなく、むしろこの質問をした朱若にたいして不審がるように応える。
「もちろん勝てまする。」
「そうか、その事について俺の考えを教えてやる。まずは一騎打ちに勝てば戦に勝てるか、だが、、、」
氏王丸は身を乗り出してその答えを待つ。
「その答えは"否"だ。」
「どうしてにござる!」
驚いたのは氏王丸、、、ではなかった、、、。
(おい、季邦、、、。氏王丸に説明してるのに郎党のお前が驚いたら本末転倒だろうが、、、)
「んッ、んんッ、まあ、季邦も俺についたばかりだからな。せっかくだからお前も聞いておけ。」
せめて大人しくしていればと思って見るがそれは季邦の性分的に無理な注文かもしれない。
「はい!」
兄の義康に似て元気だけはいい季邦である。
「まずは一騎打ちで負けたら、言うまでもないがその戦は傾く。なんならそれが大将なら完全な負け戦だ。それは分かっているな?」
「はい。」
依然として態度を崩さない氏王丸。
「なら、一騎打ちを勝っても負けてもいない、その最中に一方の武士に向かって矢が放たれたとしたら?それでその武将が命を落としたら!」
「それは重大な作法に反しておりまする!」
(ほう、ようやく声を荒らげたか、、、。真面目なお前にはルール違反ってやつは堪えるだろうな!)
「そうだな。確かに違反している。だが、戦場でその責任を咎める暇などない!」
突如朱若から放たれる覇気。ビリビリと走る緊張の空気に氏王丸も目を見開く。
「武将がどのような形で討たれても討たれた方の味方の戦線は崩壊する!たまたま相手の将が作法に違反し討たれても武功に必死な武士達は崩れたところを本能的に打ち込むだろう。それが大将ならその部隊だけの問題だけではなくなる。戦場そのものがぶっ壊れる!」
「でも、そのようなことをする相手などこの日ノ本にはおりませぬ。」
当然この氏王丸の発言は正しい。
今の日本のどこを探してもそのような武士はいない。
日本なら、、、である。
「そうだな。大陸、、、今の中華の話をしよう。中華はいま統一国家が無くこの坂東のようにあちこちで領土を争って戦ばかりだ。その中で北に位置する蒙古と呼ばれる国がある。我々日本の武士と同じく馬に跨り磨いた武芸で敵を倒す。そこはとても強い。次の中華を覇するのは蒙古だろう。しかし、蒙古は俺たちと同じ武士の戦い方をしながら俺たちと徹底的に違う部分がある。それによって異民族でありながら中華を支配せしめんとする実力を兼ね備えるに至った。氏王丸、それがなんだか分かるか?」
さっきまで聞き入っていた氏王丸はいきなり質問を振られて一瞬反応が出遅れる。
「、、、あっ、、違いにございますか、、、、、、申し訳ありませぬ。それがしには考え及びませぬ。」
「応えは集団で助け合って戦うことだ。彼らは名乗るまもなく敵に突っ込み、味方が敵に討たれそうになると背後から敵を斬り裂いてでも助ける。」
「それは、、、作法に、、、、はっ!?」
氏王丸はついに気づいてしまった。武士として魂である作法。そこに武士の根本的弱さと到底太刀打ちできない大陸のモンゴル部族の強さを見た。
「もし彼らが中華をとり周りに侵攻し出したら、、、この日ノ本に攻めんとしてきたら?」
「か、勝てませぬ、、、。」
ついに氏王丸の伸びた背筋が腰から折れた。
「なに、そこまで気落ちするな。あくまでそれは最先端だということだ。孫子が中華に兵法という概念を説いたように新しきことは受け入れ難いが古きものよりも優れていることがある。しかし、乗り遅れるということは我々は強さで進歩はない。」
あくまで円滑に勝つために過ぎなかった。源氏を、家族を守るためには揺るぎない勝利をできるだけ近づける必要があった。その為には何でもする。それが朱若の決意にほかならない。
「俺がやっていることは禁忌だ。だが、俺には源氏を復興するという大望がある。結局は勝たなくては仲間は付いてこない。これまで有史の日本の歴史は勝者によって作られ彩られてきた。勝者にならねば歴史を作るとまではいかなくても家族を守ることはできない!彼らだって守るべき家族があるんだ!俺は守るために禁忌を侵す。たとえ、黄泉の国に落とされたとしても!」
氏王丸は目を怯えるように開き口は開きっぱなしだ。
相当身にこたえたということであろうか。
「武士だけの、日ノ本だけの常識に縛られては勝てる戦も勝てない。負けが決まった戦も覆せない。なら使えるものは何でも使って抗う。これが俺の応えの全てであり、初陣の策の深層だ。」
しばらく、場が静まる。
「あのお導きは間違いなかった、、、」
わなわなと何かにうち震えている。
「?」
「やはり、あれは仙女がつかわしたご神託!貴方様こそが我々の救世主にござった!」
いきなり狼狽えていた氏王丸が顔に光を取り戻したと思えば言っている意味が分からない。
「おい、氏王丸。さっきから言っている意味が、、、」
「朱若様!私を郎党にしてくだされ!そしてどうか我が父にお力添えを!どうかどうか!」
「待て、お前が俺に源氏の力添えを義平兄者に求める取り次ぎをして欲しいためにここに来たことは分かっていた。それなら源氏としても秩父地域に源氏の力が行き届くから当然受けるつもりだ。しかし、それはお前が俺に仕えることに直結しない。お前をそこまで必死にさせる仙女とはなんだ!」
「ある女子がいきなり我が父の屋敷にて私の元に忍び込みました。」
(秩父重弘を風魔に探りに行かせてはいないはずだ。だとしたら九無ではない、、、)
「その武士の姿をして髪を赤い紐で軽く結んだ女は『鎌倉の悪源太様に味方を頼み弟君の朱若様に仕えよ』と。」
(待てッ!?武士の姿に赤い紐で髪を結んでいる!?間違いないッ!俺に京で予知夢を見せたあの女だ!)
朱若は思はず立ち上がって氏王丸の両肩を掴んでいた。
「その女はどこに行った!何か他に言っていたか!?」
あまりの形相に思わず氏王丸も少したじろいでいる。
「いえ、『会えば分かる』といいすぐに言ってしまいました。しかし、今思えば全てがその通りだったと思えます、、、。会って正解だった、、、。」
少し噛み締めた顔をしているのでこれ以上仙女と呼ばれる女について問いただすのも野暮な考えだろう。
それよりもすることがある。
「氏王丸!俺と共に修羅を歩んでくれるか?」
「氏王丸、この生尽きるまでお供させてください。」
こうして氏王丸は朱若の郎党の末席に加わった。
「若。あの氏王丸が話した仙女とやらにかなりご興味を示されていたようですが、、、」
「なぜ、俺に仕えよとか源氏に味方しろとか言ったのか俺にもわからん!」
「消しまするか?」
小太郎が鋭い顔で言う。
「やめておけ。不思議と敵でもないと思える。」
「御無礼致しました。」
あの後に氏王丸の義平に便宜をはかる手紙を送った。まるで読めないあの仙女と呼ばれた女性の目的。それに風魔達に殺すことを万が一に頼んだとしても多分無理だろう。
(数百年とか生きたって言ってたな。それがブラフだとしてもあれは強過ぎる。それも別次元でって言えるぐらいにはな、、、)
あの時何も出来ずに昏倒させられて夢を見た。力づく出なかったとしても何か傑出した強みを持っているようにも思えた。
(別にあいつの強さなんてどうだっていい!一体何を考えているんだ。あいつには何が見えてるんだ、、、)
朱若を根本から変えた予知夢を見せた少女。
あれから源氏の未来を守る方法を模索しながらその謎をずっと追い求めてきた。
そして脈絡無く舞い込んできた秩父党の一件。氏王丸の郎党志望。全てあの少女が進言したという。
しかし、それだけだ。
(ふう、真相は闇の中、ってか。)




