一の暗躍…転生、そして名付け騒動
(ん、、、ここは、どこだ?)
まるで夜明けが開けるような輝かしい空間に、迎えられたようだった。
周りにはがっちりと鍛えられた若めの男と慈愛の顔をうかべる女がいた。
「うふふ、起きたようですよ。義朝様。」
「おおっ!益荒男の顔つきをしておる。良い子を産んでくれた、由良!」
なんか寝起きの明日をも知れない社畜に群がってこの男女は何を喜んでいるんだろうか。
(ん?今産んだって言った?心無しか力が入らないし、手足が短いような、、、)
ふと目の前に入ったのはムチムチとした短い手だった。
(手が、、、赤ん坊になってる!?)
そんな驚きをよそに義朝と呼ばれた男は俺を抱き上げた。
(ちょ、待て!高いところは苦手なんだ、降ろしてくれ!)
いくらやっても呂律が回らず赤ん坊がキャッキャッと喜ぶような声しか出ない。
「ガハハハハ!この暴れるように喜ぶ様。まさしく武家の棟梁にふさわしい子だ!」
全くと言っていいほど理解されていない。
(クソ〜、俺はこんなに古臭い屋敷のような家にいた覚えはないぞ!しがない社畜として現代社会の礎として人々の税金背負ってきたモブだぞ!)
やはり、高い位置から自分の身体を見てみるとあちこちが短く、丸々としている。
(これは、もう本当の幼児退行、いや、乳児退行してるじゃねぇか!心は成人だがガキのようにこの状況に苦言を呈す意味でイヤイヤ言って暴れたい、、、)
そんな思いとは露も知らず話はどんどん進んでいく。
「名前はどうしようか、、、悪若なんてどうだ!」
(まてまてまてまて!そんな痛々しい名前は嫌だッ!それに俺には○○○○という名前が、、、、、あれ?俺の名前ってなんだっけ?)
不思議なことに名前を思い出せない。
「また、そんな猛き御名を、、、。
見てください、義朝様。こんなに可愛らしい顔をしているのですからのんびり健やかに暮らしていけるような名前にしませんと。」
(いいぞ!そこの若い奥さん!もっと言え!)
義朝は唸るように言い訳し始めた。
「しっ、しかしだな、由良よ。この子は武家の棟梁たる私の子であってだな、もう仕方がないというかなんと言うか、、、」
「この子はもう四人目の男子です!」
どうやら由良奥さんの勢いに気圧され義朝は観念したようだ。
「ぬぅ、わかった。自由に空を駆け、永く繁栄を守るという朱雀から一文字とって朱若としよう。これでいいな?由良よ。」
強かな駆け引きとは裏腹に、由良の表情は母の慈愛に満ちた顔をしていた。
「ええ!よろしいかと。」
集まっていた一堂の家臣たちに義朝は向き直す。
「皆の者!清和天皇より続く源氏に新たな男子が誕生した。名は朱若。自由に空を駆け、永く繁栄を守るという朱雀から「朱」の文字を、、、そして」
まだ続きそうな雰囲気に由良が小首を傾げる。
(あれ?由良奥さんが言ってた名前の由来ってこれだけだったはず、、、なんか、嫌な予感。)
「敵の軍勢を血で朱く染め上げる猛き荒武者になるのを願ってこの名をつけた!
皆々よろしく頼むぞぉ!!!!」
「「「「「「「「うおおおおおッッッ!!!」」」」」」」」
「まぁ!義朝様?計りましたね?」
口を膨らませて不機嫌に抗議する由良を義朝は無邪気に笑っていた。
「フハハハハ!すまんすまん!
やはり由良の表情はころころ変わって美しいのう!」
「もう、義朝様、、、、。」
顔を赤らめてデレデレの由良を義朝は抱きとめていた。
(由良奥さんチョロ、、、、
ていうか、源氏の男子とかなんか言ってなかった!?俺はいったいどうなってしまうんだあぁぁぁぁ!!!!!)