プレミア
突然現れたガアは堂々と歩いて俺たちに近づいてくる。
彼の背後にはチーが倒れている。
あのビームに目を奪われているタイミングを計って倒したのだろう。
手加減はしたのかチーは地面に伏しながら胸を上下させて呼吸はしているようだ。
気がつけばプリムも烏に襲われ数カ所故障したのかプスプスと音を立てて床に落ちていった。
脅威を一瞬にして排除したガアの視線は白衣の女性へと向けられている。
「さてと、リオ
これはどう言うことだ、約束と違うよな?」
高身長の美青年はギロリと睨む。
「あの件に関してあれ以上関与しない
それが俺たちの約束だっただろ」
ガアの登場に驚いていたようだったリオもようやく口を開く。
「それを言うなら貴方もでしょう?
レンに接触しているじゃないですか!」
「こいつはアンリだ、レンじゃねえ。
あの日に執着しているのはお前だろ?
ミクの遺体を葬儀するとか言って運んでたけど遺灰とか全然見せねえじゃねえか
お前のことだからコールドスリープでもさせてんじゃねえの?」
リオは『ミク』と聞いた瞬間肩をこわばらせた
「ミクの体がそんなもんで修復されるとお思いですかっ?
どれだけ悲惨に食いちぎられたか、貴方だって見ていたでしょう!!」
リオは下を向いて肩を震わせ始めた。
どうやら泣いているらしい。
「レンやガア、貴方たちだったら亡くなっても仕方がないと思えますよ
貴方達は化け物相手とは言え多くの命を奪っていました
でも…
なんで、どうしてミクなんですか?
あんなに、本当に虫1匹も殺せないような可愛い子だったのに
私を姉のように慕ってくれていたのに」
「だから、お前はミクのために動くってのか?」
「ええ、だから私はプレミアを作りました
ミクの心臓を使って!」
ガアはリオの発言にビックリしたように固まる。
正直、2人が何を言っているか分からない。
しかし、先ほどリオが俺のことを『レン』と呼んだのか?
そいつは何者なんだ?
そして、この2人はどういう繋がりなんだ?
俺の背後で物音がした。
そちらを向くとチーが意識を取り戻したのかフラフラしながら立ち上がっていた。
「チー、ここから離れますよ」
リオはもうそれ以上話す気はないのか静かに言い放つ。
チーは答える。
「地下室の実験体はどうすんのさ?」
「構いません、またのちに手に入れます」
ガアはやっと驚きが収まったのか烏を召喚してリオに向ける。
「させると思うか?」
リオは飛び上がったかと思うと壁に張り付いて烏を回避した。
多少烏が掠った傷はチーと同じようにすぐに回復していた。
「プリム、暴れなさい」
プリムはリオの言葉の通りにフワリと飛ぶと、俺へと急降下してきた。
俺は避けることもままならずに攻撃を受け…そうだった
いつの間にか目を覚ましていたのかプレミアが俺とプリムの間に入ってプリムに左手を掲げた。
その瞬間プレミアの手は変形を繰り返して大型のドリルへと形を変えた。
プリムは止まろうとしていたが空中でそんなに簡単に挙動は変えられずにプレミアのドリルに突っ込み、バラバラに崩れた。
俺がリオやチーのいた方を見ると、もうそこには彼女たちの姿はなかった。
俺は脅威が去ったことに少し安堵しながら考える。
ヒビキはどうした?
チーが実験体がどうのこうのと言っていた。
もしや、アイツはそちらに…?
どちらにせよ、リオたちを知るには彼らが残した地下室へと向かうべきだろう。
俺はガアに付いてくるように言うと、地下へと続く階段を見つけ、降りていく。
プレミアは自分でバラバラにしたプリムのパーツを興味深そうに眺めていた。