館
黒蛇を影の中へ戻し、安堵のため息をつく。
気を抜きかけていた俺は危うく飛んできたロケット弾にぶつかるところだった。
素早く後ろに跳んで弾の来た方向を向くとそこにいたのはプレミア、いや限りなくプレミアに似た何者かだった。
プレミアもたいがい表情に乏しいが、そんなものとは比にならないくらい冷たい顔をした少女がそこには立っていた。
左手のパーツは外れているようだった。
あそこから弾を撃てるのか。
ヒビキに拳を突き付けられても落ち着いていたプレミアが警戒態勢をとっている。
「想像以上の反応能力を確認、戦闘行為を行わないほうが良いと判断する」
プレミアと全く同じな機械音でそう言うと少女は足を変形させてブーストするとプレミアに向かって飛ぶ。
プレミアはすんでのところで回避すると少女と同様に体を変形させると逃げ出す。
ギリギリ追いつかないことに気が付いたのか少女は立ち止った。
「マスター、戦闘モードの開放を申請する」
そう言い、その数秒後先ほどとは比べ物にならない速度でプレミアを追い詰めた。
俺も抵抗しようとしたが、どうしようもなくプレミアは少女に担がれて連れていかれてしまった。
俺の脳裏には「アンリ!!」と手をこちらに差し伸べて連れ去られるプレミアの姿が焼き付いてしまった。
俺は走った、なぜここまでして素性の知らない居候を助けようとするのか自分自身にもわからなかった。
しばらくすると少女の姿は見えなくなってしまったが、音を頼りに走っていくとやがて一つの館が表れた。
手つかずの自然が広がる森になじめていない不自然な館だ。
なぜこの森を知り尽くしていると豪語していたガアはこの訳の分からない建物を放置しているのだろうか、と疑問が浮かんだが、俺はしっかりとした足取りでこの館へと入ろうとした。
「手伝ってやろうか?」
いつの間に付いてきていたのかヒビキが声をかけてくる。
先程までの戦闘を忘れてるのか?こいつは。
そんなことを考えているとヒビキは頭を掻きながら
「いやー、お前強いのな
これからお前の事を師匠だと思って励むことに決めたから、付いてきたんだ」
そう話した。
正直邪魔だ。
ただ、こいつがいる事で少しでもプレミアの救出成功率が上がるなら…
「邪魔はするな」
そう言って俺たちは館に入っていった。
俺たちを待ち受けていたのはズラリと並んだ培養ポットとよく分からない機械の山だった。
「生物兵器の研究でもしてんのか?」
そう言うヒビキの言葉に納得せざるを得なかった。
「生物兵器しかやってないわけじゃないけどまあ、そんなところだよ」
突然聞こえてきた声の主を探ると、それは1人の童女だった。
彼女を見て誰もが目を取られるのは身長の低さだろう。
歳が二桁になるかどうかと言うくらいの身長をしていながらも顔はキリッと大人のようで、手には鉄パイプを持っていた。
思わず尋ねる。
「お前は何者だ?
プレミアをどこへ連れていった?」
「ウチは…まあ助手って感じかな
博士に見つけられてここで働いている。
プレミアちゃんは博士が回収する必要があると言ったもんだからプリムちゃんが連れてきて今は博士と一緒にいるよ」
「博士というのはプレミアの制作者ってことか?」
「あーまあそんな感じ
プレミアちゃんはあくまでサイボーグだから完全に製作物として扱うのもどうかと思うけど
てか質問ばっかだけどウチからしたらあなたの方がなんなのよ
博士から聞いたけど、あの中々心を開かないプレミアちゃんがあなたには心を許しているようじゃない?」
「俺だってわからん」
童女は無愛想にあっそ、と言うと戦闘態勢に移った。