ガア
仕事から帰ってくると、まだ自称サイボーグはソファに転がっていて、その隣には面倒な奴が立っていた。
「おう、お帰りわが親友よ」
「勝手に入るなよ、馬鹿」
「それはいいとして、この子誰?娘?アンリもいい年だもんね」
俺はため息をつくと、訳の分からない考察をペラペラしゃべる痩身長躯な自称親友の戯言は無視して夕食の準備を始めた。
とはいえまたもやシチューなのだが。
さすがにうるさかったのかずっと転がっていたプレミアがめをぱちりと開く。
傍らに立ってペラペラしゃべっているイケメンをじっと見たうえで、
「誰?」と尋ねた。
「ん?俺はガア、この家の裏の森の長にしてアンリの大親友
お嬢ちゃんは?」
「プレミア」
「ふーん、見た目は精巧なアンドロイドっぽいけど、少し血の匂いがするね」
「『心プログラム』の維持のためボディには血を巡らせている」
プレミアの言葉の意味不明さにようやく気が付いたのか、ガアは俺のほうを見て「何言ってんの、この子」と尋ねてきた。
そんなのは俺が知りたい。
食後、なぜか今夜も泊まっていく気満々のプレミアが二階で眠りについた後、ガアが真剣な顔をして話し始めた。
「この間、森の奥のほうで火事があったんだ、俺が早い段階で気が付いたからよかったものの危うく大惨事だった」
「何か発火するものが近くにあったわけではないのか?」
「ああ、なかった、不自然すぎる
何者かが火をつけたようにしか思えないが、俺が気づいて向かった時にはもうその人物はいなかった」
「化け物の仕業、という可能性は?」
俺たちの住む世界には化け物と呼ばれるものが存在する。人間でも動物でもない存在で、人間の扱う魔法に似た力を行使する。
「ないね、俺はあの森を数年かけて調べ尽くしている」
「じゃあ、移動関連の特殊能力を持つものがこの森にいる、ということか?」
「それだけじゃない、この件とは別にこの近くの村を嗅ぎまわっているやつもいるらしい
用心しておいたほうがいい」
「了解した」
それだけ伝えると安心したように笑ってガアは俺の家から出て行った。
そして、彼が片手を上に挙げるとどこからか烏が集まってきて彼の体を覆った。
そうして烏がどこかへ飛び立つと彼の姿は消えていた。