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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

純粋な殺意

作者: 山坂あき

モラルハラスメントについて、自身の体験したことを素材にして書いた作品です。

 人を殺したいと思ったことがある。


 その後の自分の人生や、その人の家族は悲しむだろうなぁとか、殺してどうするのか……なんてことは一切どうでもよくて。


 ただ、純粋な殺意。


 殺すことができるのなら、それ以外は何も考えない。殺したい。とにかく殺してしまいたい。死んで欲しいのではない。勝手に死ぬのは許さない。この手で、殺したいと思う。そんな思考に陥いることがある。


 そんなことを思っていると、自分は異常者なのかと不安になるが、そんなことはない。正常だ。まともだ。正気でいる。


 おかしいのはあいつだ。


 人間性を疑う言動が多い。そしてそれは、全てわたしに対しての発言や行動。


『かわいそうな顔だよね』『仕事できないのに何しに会社に来てるの』『こなす量が他の社員に比べて圧倒的に少ない』『自分の会社の電話番号も覚えてないの』『電話対応、できてないよね』『どういう教育をしているのか、親の顔が見てみたい』


 直接言われた訳ではない。社長に提出する日報に、入力している。そしてそれは、わたしに見せるためだ。社長に提出するデータは、他の社員も見ることができる。共有サーバーに入っているためだ。そこに、全員分入ったら、提出担当者が送ってくれるというシステム。その全員分集まるまでに、わたしに対する愚痴・悪口を入力しておき、提出されそうになったらその部分を削除する。悪質極まりない。恐らく、わたしが見てしまったことを知っていて、それを続けているのだ。自分が思っていることだけではなくて『あの人がこう言っていた』『みんな迷惑しているという』書き方をする。ただ、親のことを書かれた時は、とても悔しかったのを覚えている。帰りの車中で大泣きした。そしてわたしは、他人を、会社の人間を信じられなくなった。


 普段の会話も最小限。最小限というより、関心のない対応ばかり。

「おはようございます。どうしたんですか?」

朝、会社に着くとその人が机の下を覗いていたので、聞いてみた。

「いや、別に」

返ってきたのはこれだけだった。会話をしたくないのだろう。そう感じた。他の男性社員には笑顔で話しかけているのに。


 そんな日々が、1年ほど続く。


 ある日。あいつのそんな行為に気づいてくれた人がいて、上司に報告してくれた。そこで、上司に呼び出されたわたしが聞いたのは、

「気にしなくていいから」

だった。理解はしてくれている。嫌な思いをしていたことを、今も、していることを。ただ、そうではない。気にする、気にしないの問題ではない。


 モラルハラスメント。


 これは犯罪だ。いじめなんて生ぬるい表現では済まされない。調べたのだ。精神的に追い込まれていて、どうしようもなくて、調べた。そしてこれは、モラルハラスメントというのだと知った。


 何もかも、期待するのを辞めた。あぁ、もう、くだらない。この会社はくだらない。恐らく皆気づいている。あいつのわたしに対する態度で、嫌な思いをしているということに、気づいている。でも、助けてはくれない。手を差し伸べてはくれないし、あいつに助言をするなんてことはしない。


「あぁ……殺したい」


呟いて、はっとした。これは純粋な殺意だ。




 そんな会社を辞めてから、数年経った。今では、あいつのことを『可哀想な人』だと思う。結婚もして、子どももいて、それでも気づけなかったのだと。わたしに対する態度が、モラルハラスメントであることを。そして周りの人間はそれを指摘してくれない。ずっとそんな状態で生きていくんだ。可哀想に。誰も何も言ってくれないんだ。可哀想に。




好きになれない人間。

やりかえしても価値のない人間。

そこまで、してやる義理も人情もない人間。

結婚もして、子どももいて、

それでも、気づかなかったんなら、

もう変わらない。

変えてやろうとも思わない。

逃げればいい。

繋がりを断てばいい。

人はそう簡単に変わらねぇよ。

もう、それまでやん??

だってどう見ても50過ぎの婆あだろ?

今までそうやってきたんなら、

これからもそうやって生きればいい。

いつかなんかしらのしっぺ返しがくる。

それはわたしが決めることやない。

神様?が決めることや。



『殺したい』から『殺す価値もない』『殺されなくてよかったね』という感情になっていったのだと思います。自分がされて嫌なことは他人(ひと)にしない。自分がされて嬉しかったことは、また別の誰かに渡していくと、世の中少しはマシになるんかなぁと感じました。

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