3.天敵さんがやってきました。
とりあえず、スターリーの周辺で連携の確認。
「スキル名を忘れた……?」
「すみません。ちょっと思ってたのと違ったので……」
そうなってくると自然に、互いのスキルを紹介する流れになった。
だけど私は例によって忘れてしまったので、小さくなって頭を下げることしかできない。それにこちらのスキルはバグっているのだから、誤解を招きたくなかった。
「ステータス画面から、確認できると思うんだけど?」
「あ、そ……そうなんですか? 今度、確認しておきますね!」
なので、心苦しいけれど黙秘権を行使。
苦笑いをするとダリスさんは首を傾げながら、レインさんの方へ視線を送った。彼女は頷くと、こう話し始める。
「それじゃ、アタシのスキルから紹介するね。とりあえず見てもらった方が早いだろうし、ちょっと待ってて!」
レインさんは、ふっと呼吸を整えた。
「それっ!」
そして、一息に三本のナイフを投げる。
するとびっくり、木々から飛び立ったばかりの三羽の鳥に命中した。少し可哀想だったけれど、それ以上に驚きの方が大きい。
ナイフを回収してから、レインさんはにっこり笑った。
「このスキルの名前は【必中】って言うの。これは少し変わっているんだけど、アタシが投げた『モノ』はすべて、狙い通りに当たるんだ」
「え、それって凄くないですか……!?」
私はその説明を聞いて、思わず声を上げる。
さ、さすがはSSR……!
「そうでもないよ。欠点としては、魔法系統がちっとも使えないこと、かな? だから基本的に遠距離からの投擲で戦ってるの」
「そうなんですか……!」
謙遜するレインさん。
しかし、私にはとても刺激が強かった。
こんなスキルを持った人が、他にもたくさんいるのかな……?
「終わり、だな。それじゃ、次は俺の番か」
そう思っていると、今度はダリスさんが言った。
彼は身の丈ほどある剣を構えると、力いっぱいに木に叩きつける。すると轟音を響かせて、大きな木が真っ二つに裂けてしまった。
私は例によって目を疑う。
そうしていると、彼は説明を始めた。
「俺のスキルは【怪力】、っていうんだ。その名前の通り、普通じゃ扱えないような武器や巨岩も運べるよ。欠点は、細かいことができない、って感じ?」
「細かいことができない……?」
「そそ。要するに筋力バカ、ってことさ」
少しだけ自嘲気味に答えて、ダリスさんは大剣を担ぎ直す。
そうは言ったけれど、その実力は間違いなかった。少なくとも駆け出しの私なんかとは、雲泥の差があるように思える。
そんな二人の姿を見て、ほんの少しだけ意気消沈してしまった。
すごいなぁ、SSRは……。
「それで、マキナちゃん。貴方はなにができるの?」
「あ、私ですか……?」
小さくため息をつきそうになったところで、レインさんにそう訊かれた。
私は少々恥ずかしくなりながら、自身のステータス画面を開く。
そして、バグだらけのそこから一つだけを選ぼうとした。
「おー? ちんちくりんなガキを連れて、どうした。ダリス」
「え、誰……?」
その時だ。
唐突に、声をかけてくる人があったのは。
「……なんで、お前がここにいるんだ。マコト」
いち早く声のした方を見て、そう返答したのはダリスさん。
視線を追いかけるとそこには一人の、細身の男性が立っていた。刈り上げた金髪に、少し意地悪そうな顔立ち。背後には二人の大人びた女性の姿。付き従うようにした彼女たちは、何も言わない。
ポカンとしていると、マコトと呼ばれた男性は大声で笑った。
「お前らがスターリーに向かった、って聞いたからな。ちょっとばかし、敵情視察ってやつだよ。敵情視察!」
そして、じっとりと私を見る。
「噂では三人目が決まってないって話だったが。まさか、そこの弱そうなガキが三人目、ってことはないよな?」
「え、あう……?」
マコトさんは、表情を歪めてそう口にした。
私はどういう意味なのか、すぐには理解できない。すぐに反応したのは、あからさまに不機嫌な表情を浮かべたレインさんだ。
「アタシたちの仲間を馬鹿にするんじゃないよ! 相変わらず、マナーがなってないったらないわね!!」
怒気を孕んだ彼女の声が、周囲に響き渡る。
しかしマコトさんは退くことなく、飄々とした態度を取った。そして、肩をすくめながらこう言う。
「ま、いいさ。これならまた、ボクの勝ちだろうね?」――と。
その言葉に、今度はダリスさんが反論した。
「分からないさ。今回はチーム戦だからな」
「チームだからこそ、さ。悪いけどボクたちは、強いぜ?」
「………………」
売り言葉に買い言葉、という感じなのかな。
二人は少し言い合ってから、睨み合っていた。そして、ダリスさんが黙るとマコトさんも黙る。時間が流れて、先に沈黙を破ったのは相手だった。
「ま、精々頑張るんだな。そうじゃないと、面白くない」
踵を返して、立ち去るマコトさん。
二人は黙って彼を見送っていた。私は少し様子を見てから訊ねる。
「あの、いまの人は誰ですか……?」
すると答えたのは、レインさん。
彼女は大きくため息をついてから、こう話してくれた。
「アイツは、マコト――」
忌々しげな感情を、隠しもしないで。
「前回のイベントで、二位になった奴だよ」