第1話 さよなら
こんな世界があればなと描きました。
楽しんで頂けると嬉しいです。
「お前には転生してもらう。
欲しいものはあるか?」
「万能すぎるスマホがほしい」
―――
俺は右手でスマホを操作する。
攻撃魔法→攻撃魔法→風魔法
と選択する。
「初級魔法 ウインドエッジ セット!」
俺は森の中、左手の平を頭に鶏冠が付いたオオカミに向けて言い放つ。
「発射!」
手の平から放たれた風の刃は、その茎をいとも容易く断ち切りモンスターを絶命させた。
「ふぅ…戦いにもようやく慣れてきたって感じかな」
手軽に狩りを終えて、この世界に来て1ヶ月間拠点の代理として使っている洞窟に帰る。
途中、草木に生えているキノコや薬草もしっかり回収する。
「おかえりなさい」
長い白髪に赤い瞳の女性が俺に伝える。
年頃はだいたい高校生くらいだろうか、それでも充分性格は大人びているが。
「おう、ただいま」
「…今日もチキンウルフなの?」
チキンウルフとは、さっき俺が仕留めたオオカミの名前だ。
名前の通りオオカミの頭に鶏冠がついており、行動から見るに性格は臆病。
鶏なのか臆病なのかいまいちわからないオオカミだ。
「戦う練習にもなるしいいだろ?肉も美味しいし」
「私お肉飽きたんだけど…」
なんだかんだ言いつつ焼く準備を始めてくれている。
「一応キノコとか薬草もあるぞ?」
「ん、使うから置いておいて」
「おっけー」
「…ねぇ、フブキ」
「ん?どうした?」
俺は置いた薬草かキノコに何かあったのかとチラチラ確認してみる。
「いや、キノコとか薬草じゃなくて
いい加減名前呼んでくれてもいいんじゃない?」
「・・・ユニ?」
「次から名前で呼ばなかったら反応してあげないから」
ぷいっ。
とそっぽ向くと、そのまま作業を再開する。
ユニとの出会いはこの世界に来て1週間くらい経った時。
俺はこの洞窟で木の実ばかり食べて生活していたが、流石にまずいと思い遠出した時にみすぼらしい姿で倒れている少女を見つけた。
ボロボロの上着に鎖が千切れた手錠。
無理やり手錠を外そうとしてできた、腕の傷。
ずくにどこからか逃げてきたのだとわかった。俺はとりあえず自分の住処である洞窟に運び、手当をして水を少しずつ飲ませた。
大変なのはむしろこの後だった。
起きるなり襲われるし、信頼ないしで。
1ヶ月過ごし、少しは信頼してもらえたのかあの時のような険悪さはないが…。
ちなみに、ユニには自分が異世界の人間であることは説明してある。
「ユニはこの先行く宛はあるのか?」
「・・・どうして?」
気まずそうに目を逸らして答えるユニ。
「俺はそろそろこの洞窟を出て街を目指そうかと思ってさ。ユニに宛があるならその街に送ってから行こうかなって思ってさ」
「・・・そう。別に、行く宛はないわ。あなたについて行くわよ」
「・・・え。この先ずっと?」
「悪い?」
「・・・・・・いや、全然」
「ならいいじゃない」
ほぼ反論を許さない形で終えた会話に(なぜあんなに怒っているのだろう)と疑問を抱きながら洞窟の奥で万能過ぎるスマホを研究しようとすると、不意に呼び止められた。
「あぁ、そうだ。フブキ」
「ん?」
「フブキは・・・もし元の世界に戻れるようになったら帰るの?」
ふむ、それは考えたこと無かったな・・・。
「フブキには、前の世界で会いたい人とかは居ないの?」
会いたい人間・・・か・・・。
「居るよ。前世・・・というか前の世界に。
誰よりも好きで愛してた彼女が。
でも、俺は死んでこの世界にいる。
そりゃ、会いたいし話もしたい。前みたいにって思うけど・・・俺は彼女が望む彼氏像とは違うみたいでさ・・・喧嘩したままこっちに来ちゃってね・・・。戻っても彼女を幸せに出来る自信が無いからな・・・。多分。この世界に居続けるんじゃないかな?」
「・・・ふーん、そうなんだ」
物凄く短い返事で返された。
怒ってらっしゃる・・・?
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どうしてだろ・・・。
ユニは自分の感情に戸惑っていた。
「どうしてフブキが居なくなると思うとこんなに悲しくなって・・・フブキがこの世界に居続けると知ったら、こんなに高揚しちゃってるの・・・」
この時、ユニの顔が紅くなっている事に誰も気づく事はなかった。