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第9話:カタチだけの愛…

身体が勝手に動く。

頭は真っ白で

体は硬直してるはずなのに動いた。

気付いたときには志乃の前に飛び出していた。

「多賀谷さん…?」

「え…?」

男はうっとうしそうに唯愛を見て、首をかしげながら志乃を見た。

「貴女にとって浅木渚音はなんなの?」

何故か口が動く。

また、先走ってる。

駄目だ。またやっちゃってる。止まれ。唯愛の気持ちと裏腹に口が動く。

「天見…先輩ですよね?貴女こそ急になんですか?」

「私が聞いてるんでしょ。」

男が何かを言おうと口を開く。

しかし、志乃がそれを止めた。

「貴女に関係ないと思います。でもあえて言うなら渚音先輩は、友達です。」

「付き合ってんじゃないの?」

「さっきから何言ってんの、君。消えてくんない?」


男は冷たい目をした。

「確かに私は渚音先輩に好きだと言ったかも知れない。でも、本気にするなんて馬鹿馬鹿しいですよね?そうは思いません?」

人の気持ちをもてあそんで。

「普通、好きだと言われたら信じるでしょ。一緒にいると付き合う事じゃないの…!?」

「へぇ。なら、渚音先輩は遊びですね。そんな人とは釣り合わないんですよ。あんな人。」

ふざけるな。

ふざけるな。

ふざけるな。

ふざけるな。

「利用したなんて変な事言わないで下さいね?向こうがおかしいんだから。」

「…アンタが可笑しいんでしょ。」

唯愛は大きく目を開き、次の途端冷たい目で志乃をにらんだ。

「…それを、利用したっていうんじゃないの!?その男が本命なんでしょ!?なら、どうして渚音に手ぇ出すのよ!?言いなさいよ!!」

唯愛はジリジリと痛む喉から自分の声だとは思えないがらがら声で叫んだ。

「てめぇ。黙れよ。」

低くドスのきいた声で男が言う。

「良いよ。これは私の問題だから。」

志乃は渚音に見せた笑顔と全く同じ笑顔で男に笑いかけた。

男は渋々ながら、志乃に軽いキスを送り立ち去った。

「私には好きな人がいた。それは本当です。」

志乃は冷静に悪びれもなく話し始める。

「渚音先輩は、ただ少しの間の『彼氏』です。」

「意味わからない。」

志乃はイヤらしく笑ってみせた。

「私は1人が嫌いなんです。寂しいのが嫌い。だから、一緒にいてくれるなら誰でも良かった。それで彼氏も戻ってくるなら一石二鳥ですよ。」

志乃はベラベラと息をつく間もなく話し続ける。

「渚音先輩がどんどん私にはまっていくのが分かった。ホント馬鹿馬鹿しいですよ。」

「それが…」

「は?」

「それが利用してる、って言うんじゃないの!!」

バチっ!

と、鈍い音がした。

「何すんのよ!!!」

唯愛は志乃を叩いていた。

「そんな理由で渚音を傷つけて、アンタにそんな事する権利があんの!答えなさいよ!!」

涙で汚れた顔を必死に怖くみせた。

「アンタこそ!アンタに叩かれる筋合いないわよ!?廊下で泣き叫び、アンタこそこうやって別れさして渚音先輩と付き合うつもりなんでしょ!?アンタだって自分が1番大切なんでしょ!?」

志乃は思いっきり唯愛を叩いた。

「つっ…!」

言い返す事はできなかった。

渚音を守るためとか言って、でもそれは自分が渚音といたい気持ちからの行動。図星をつかれた。

唯愛が息を切らしながら悔しそうに顔をゆがめると、志乃も息を切らしながら勝ち誇ったように笑った。

「ほら。アンタと同じじゃない。」

「ちがっ…。」

「何が違うのよ!?アンタだって、私を利用して渚音先輩と付き合おうとしてる!」

「もとはアンタがっ!」

もとはアンタが悪い。そう言おうとした。

だけど、唯愛は言えなかった。

悔しい。悔しい。

アイツが悪いのに。


唯愛はまた涙が溢れそうになった。

必死にそれを抑えた。

泣いたら負けだ、そう言う気持ちがずっと心にあった。

「私は渚音に謝って、別れてほしい。それは私のためじゃなくて、渚音を傷つけないために。」

「…そういうのがムカつくのよ。そこまでして…。気持ち悪い。」

踏みにじられた。

渚音に対する気持ちが。

唯愛は小さく舌打ちをした。

「私は確かに利用したと言われるかも知れない。でも、アンタほど根性腐ってないわよ。」志乃は強く唯愛をにらんだ。

「私が腐ってる?渚音先輩に言いつけますよ?

アンタより私の方が信頼されてる。

だって、渚音先輩は私が『好き』なんですものね。」

「やめてよ!

なんで渚音に言う必要があるのよ!?」

「私を侮辱したからです。

きっと渚音先輩は怒りますよ?」

唯愛の頭に壊れていくさっきの自分が浮かぶ。

渚音を傷つけて、泣き叫ぶ、可笑しくなった自分。

「自分の気持ちを伝えることもできないくせに。

これ以上話す事がないなら失礼します。

『デート』中なんで。」

ただ、志乃の背中を見つめることしかできなかった。

そこに、愛しい影が見えた。

「渚音?」

「名字で呼べって言ってるだろ?つか、不細工な顔。」

渚音は子供っぽく笑ったが、悲しそうに視線を落とした。

「ほら。携帯。俺のチャリのかごに入ったままだったぞ。」

「…ありがとう。…いつからいたの…?」

「今さっきだよ。悪かったな。お前の言ってたの、信じれば良かったな。大丈夫か?」

渚音の方が辛いはずなのに明るく振る舞う渚音を唯愛は見ていられなかった。

唯愛は背伸びをして精一杯手を伸ばし渚音を抱き締めた。

「何だよ!」

唯愛は何も言わずにただ涙を流し抱き締めた。

「離せよ。」

「…辛いなら笑わないでよ…。見てるの辛いよ…。ごめんね…ごめん…。」

渚音は少し抵抗をしながら呟くように離せと言った。唯愛はごめんを小さな声で連呼した。


「離してくれ…。」


少しずつ渚音の声が鼻声になってくる。

渚音は静かに涙を流し始めた。

「渚音。泣いてもいいんだよ…?」

唯愛の言葉をきに渚音は声をたて泣きはじめた。

「…ちく…しょっ…」

唇をぐっと噛み、悔しいと呟く。

唯愛は何かできる訳ではないけれど、傍にいたいと思った。

自分に対する罪悪感がある。

可哀想と同情する気持ちもある。

だから私が言ったのにとあきれる気持ちもある。

唯愛は色んな気持ちが混ざり合う。


「…ありがとう。」

どれくらいかたった頃、渚音はゴシゴシと目を擦りながら謝った。

そして、地べたに座り込んだ。唯愛もそれに合わせて座った。

「あのさ。俺、告白とかされたの初めてで。…自惚れてた。だからとか言い訳なつもりじゃないけど、アイツが好きでいてくれんなら俺も好きだって思い込んでた。」

渚音は気まずそうに眉をしかめた。

「カッコ悪いけど、好きだって言うのが裏切られた感じがした。それが悔しくて、情けなくて。」

渚音は空を見ながら立ち上がった。

「あ〜あ。せっかく好きになろうとしたのに。情けない。」

「…あの子の事、好きじゃなかったの…?」

唯愛は渚音を見上げた。

「どうなんだろ…。今になってはわからない。」

でも…

渚音は小さな声で続けた。

「アイツがほんの少しでも、俺が好きだって、居てくれてよかったって思ってくれるならそれで良いと思う。アイツが許せないとしても、少しでも好きかなって思った奴が幸せに、笑ってくれんならそれで良い。」

「馬鹿じゃないの…。」



少しでも心通わせた人よ、どうか幸せで。

どうか笑顔で。

形にはまった愛なんて寂し過ぎる。

傷ついて、傷つかせ、涙を流す。

一人ひとり違う思いを持って、違う形を持つことで心通わせる。

想い人は儚く《はかなく》散っていくものだから。

だから、今を大切にして傍にいる人を愛す。


少しでも心通わせた人よ。どうか、幸せで。

どうか、笑顔で。


たった1つ願いが叶うなら、2人で過ごした楽しい思い出を少しでも覚えていてほしい。

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