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第8話:感謝と恨み…

明日は笑って過ごせるように

悔いが残らないように

毎日の精一杯努力をする。

辛いことはきっと意味のあることだから。



秋華が帰った後、

担任や両親にこっぴどく怒られた。

だけど、そんな事はまったく気にならないくらい

唯愛は渚音の事を考えていた。

謝らなければいけない。

これも、全て自分が先走ったせいだ。と、

唯愛はただ俯く事しかできなかった。


部屋に戻ると携帯を握り締め、じぃっと見つめた。

謝るのをやめようか。そんな思いが頭をよぎる。

だけど謝らない限りこれは終わる事はなくて。

逃げてしまいたい。

自分を裏切っているかもしれない恋人を好きだと言う渚音。

もし、その想いが裏切られるような事があれば

渚音はどうするのだろう?

涙を流すのかもしれない。

ただ、呆然と立ちつくすのかもしれない。

崩れてしまうのかもしれない。

どれにしろ、

傷つくに決まっているのだろう。

そんな渚音を見たくない。

それだけなのに、『最低』だと言われてそれが簡単に

「ごめんなさい」

なんて言える訳がない。

だけど、唯愛が渚音を傷つけた事には変わりはないと

唯愛は小さく呟いた。

少しの間でも、先に告白すれば付き合えたと思いたい。

志乃の事が好きだなんて思いたくない。

ただ、先に告白しただけ。

まだチャンスはある。と思いたい。


でも、

渚音はあの子が好き。

そう言ったんだ。

本当に好きなら、その人の笑顔を、幸せを

願うものだ。

だから、渚音が笑っているならそれでいい。


唯愛はふっと笑った。

「その代わり渚音を悲しませたら許さないから。」

渚音が好きだから、幸せになってほしい。

だからこそ

自分が嫌われても渚音が悲しまないように

志乃をなんとかしなければいけない。と唯愛は心に決めた。

「そのためにも謝らないと…。」

唯愛は携帯の番号を押し始めた。



唯愛は学校の近くの公園に向かった。


「…もしもし?天見?」

「あ…。えと…。話せるかな?」

「今から?」

「…出来れば…。」

「いいけど。どこで?」

やはり渚音の声は低く冷たかった。

「…学校の近くの公園でいいかなあ?」

「分かった。今からでいいか?」

「うん。…ありがとう。」



唯愛は歩くのを止めた。

やはり会いにくい。

だけど、前を向くしかない。と、歩き始めた。

唯愛が公園に着いた頃には渚音はブランコに座っていた。

「…浅木…。」

小さな声で唯愛が呼ぶと渚音はハッと唯愛を見た。

「隣…。いいかな?」

「あ…あぁ。」

唯愛は渚音の隣のブランコに座った。

2人は目をあわす事も話すこともせず、

ただブランコを揺らしていた。

「今日は!ごめん。」

唯愛は顔を真っ赤にして話しだした。

「勝手な事を言って…。

本当にごめん。

…っ。多賀谷さんを馬鹿にしたり、侮辱ぶじょくした訳じゃなくて…!」

「確かにお前にはムカついたし、

でも、俺もカッとして。それは悪かったと思う。」

渚音は唯愛をじっと見た。

「俺は、天見を許せない。」

唯愛は目を見開いた。

「え…?」

「志乃のことが好きだから。お前が侮辱した訳じゃないとしても、軽はずみだったとしても許せない。」

違う。

どうして許されない。

確かに悪いことをした。

なのに、謝ったのに、どうして。

渚音が謝るべきじゃないのか。

唯愛の頭にいろいろなことが流れこむ。

「いやぁ…!」

唯愛は頭を抱えた。

「私は謝った…!分かってよ!私は分かってるのにどうして分かってくれないの…!?」

「おい!天見?」

渚音は立ち上がり唯愛に駆け寄った。

「嫌だよ!」

「天見!」


ただ。

志乃に謝ってほしいと思っただけなのに。

志乃に謝れば許すと言うはずなのに。

渚音は心の中で叫んだ。

「どうして…私が全部悪いの?」

「天見…。」

渚音は壊れていく唯愛をただ見つめる。

「天見。天見。天見。」

名前を呼び続けるが、唯愛の耳には届かない。

「…唯愛。」

ピタリと唯愛の声が止まった。

「唯愛。」

唯愛は涙に濡れた顔で渚音を見つめた。

「志乃に謝れ。そしたら許すから…。」

「許してくれるの?分かってくれるの?」

「分かるよ。お前がどうしてあんな事を言ったのか分からない。でも、今回は志乃に謝る事で許してやる。」

「私の気持ちは分かっ…」

「分かるから。だから、落ち着け?」


涙はなくなりはしないのだろうか?

泣きすぎたけど、涙は枯れないで泣こうとおもったら

いつでも涙がながれる。

嫌でも泣ける。

涙は枯れてはくれないのだろうか?


「てか、俺偉そうだな。ごめんな。」

渚音はしゃがみこんだ。

恥ずかしそうに髪をいじった。

「ごめんね…。」

唯愛の小さな謝罪に耳を傾けながら空を見上げた。

「俺、空好きだな。」


どこまでも続く空が好き。

広く青い空が好き。

高く澄んだ空が好き。


「なんか食いに行くか。」

渚音は空が好きだと小さい声で言い、

打って変わって明るく唯愛に笑いかけた。

唯愛には、なぜ空が好きだと呟いたのか分からなかったが、

食べに行こうと言ってくれたのが何よりも

嬉しく思った。

「うん!」

唯愛と渚音は近くのファーストフード店へ向かった。

「しょうがないから俺がおごったる。」

「めずらしい…。」

「うっせ!もうおごってやらねぇ。」

「え!ごめんって。」

2人は以前のように話すようになっていた。


「気ぃ付けて帰れよ。」

「うん、バイバイ。」

もう、暗くなった頃に唯愛は渚音と別れた。

渚音は唯愛の家の近くまで送って行った。

軽く手を上げて渚音は帰っていった。

小さくなる背中に唯愛は叫んだ。

「ごめんね…!!」  


唯愛が夜道を帰っていると、

見たことのある影が通り過ぎた。

ばっと振り返ると、志乃の姿が見えた。

追いかけようとすると、志乃は背の高い人と手をつないだ。

「志乃。好きだよ?

前に別れようって言って悪かったな。」

「いいよ。私が好きなのは貴幸たかゆきなんだから。」

「じゃあ、あの男は?」

「友達だよ?」

『利用しただけ』

という言葉が頭に流れる。

あの男?

渚音のことに決まってる。

あいつが秋華のいう大学生の彼氏。

唯愛は2人の後ろ姿をただ見つめていた。

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