第7話:伝えたい想いは言葉で…
どうか渚音が悲しみませんように…
燃えるように赤い夕日が沈むとき渚音が話した夢。
「俺さ、将来の夢ってのがずーっとなかった。
でも、皆と騒いで笑って泣いて…。
これが何時かなくなってしまう、消えてしまうって。
それが怖いと思った。
だから。
将来の夢って言うほど重いことではないけど
今の夢は少しでも長くこうして居られる事なんだよな…」
恥ずかしそうにハニカミながら話した渚音の事は何時までも忘れない。
だけどね。
私の中にあった短い『渚音との絆』は
もう消えてしまったのかな?
違う。
もともと私達には絆と言えるほどのものはなかった…それが死ぬほど悔しい。
私はもっと頑張れた…
唯愛はそのまま家に帰った。
家には誰も居ず、ただ生暖かい空気が漂っていた。
「また腫れちゃった…」
ポツリと呟いた言葉は、虚しく消えていった。
唯愛は目を冷やしながらテレビをつけた。
なにか音がないと駄目になるような気がした。
何度か見たことがある政治家が難しい言葉を話している。
それに耳を傾けながらぼうっとしていると
携帯がうるさく鳴り始めた。
「…はい…?」
「唯愛!?今ドコ!?」
息を切らした秋華の声がする。
「家…。」
「そっか…。先生カンカンで唯愛の家に電話かけに職員室に行ってるの。」
秋華が話すとたんに家の電話が鳴った。
「ごめんね…?落ち着こうと思ったけどなんか…。」
「ううん。良いよ?」
どれくらい沈黙が続いただろう。
沈黙を破ったのは唯愛だった。
「…話。聞いてくれる?」
涙で潤んだ目は今にも涙がこぼれそうだった。
「もちろんだよ。」
秋華の優しい声に唯愛は安心した。
「唯愛?」
ちょうど学校が終わった時間に秋華はやってきた。
ドアを開けると少し髪が乱れた秋華が居た。
走って来たのだろう、息も少し荒かった。
秋華をリビングに案内した。
「大丈夫?顔色悪いし…。」
「大丈夫だよ。ちょっと落ち着いたし。」
唯愛は力なく笑い、テレビを消した。
しんとした部屋はなんだか虚しかった。
「あのね…。」
唯愛は話し出した。
「そっかぁ…。うん。浅木君の言うことも分かる。
自分の恋人の事を悪く言われたら怒るよね。
自分が知らないことを言われたらなお更。」
唯愛は俯いた。
「だから。
分かってあげよう?
唯愛の事が嫌いだから言った訳じゃないから。大丈夫だよ。
浅木君の気持ちは私より唯愛の方が知ってるでしょ?」
「…分かるよ?私だって渚音が最低だって言う理由分かるのに…
なのに先走っちゃって、怒らせた。
だけどそれが悪かったなんて思いたくない…。
悪いって思ったら、本当に駄目になりそうで…」
唯愛は小さな身体を震わせていた。
「唯愛は浅木君の気持ちを分かってあげてる。
なら、今はそれで良いと思うよ。
浅木君にも唯愛の気持ちを分かってもらうべきだよ。
唯愛は分かってあげてるのに
浅木君は分かってくれないのは、駄目だと思うから。」
秋華が優しく笑うと唯愛は泣いてしまう。
秋華が親友でいてくれる。
それが力になる。
「私はどうしたら良いの…?
許せないの。
あの子の事も渚音の事も。
分かってるはずなのに…!」
「それって、自分を許せないんじゃないの?
2人を許せないんじゃないでしょ?」
唯愛ただ涙を流した。
「謝ろう?
まずは、謝って唯愛の気持ちを伝えよう?
好きって言わなくても良いから。
あの子の事を侮辱した訳じゃないって言うの。
唯愛。
大丈夫。
私は唯愛の見方だから。」
唯愛は泣き続けた。
ありがとう。
と、言いながら。
本当に伝えたい事は口で言う。
心の中で言うのは何も伝わらない。
だから。
たくさんのありがとうと共に
気持ちを伝えるんだ。