第4話:出会わなければ良かったね…
好きだという気持ちは時には
蓋をしなければいけない時がある。
悩んで悩んで
苦しくて
声が枯れるまで泣いたとしても
気持ちを抑えるのがどんなに辛い事か。
自分を言い聞かせ、前を向くのが強さというなら
私には一生強さはないのだろう。
「唯愛!いい加減にしなよ。好きな人に彼女が出来て
辛いのは当たり前だよ?
好きだからこそ隣にいなくても笑ってあげるのがアンタの
出来る事じゃないの?」
秋華は唯愛の肩をしっかりとつかんだ。
「好きなのにバイバイしなきゃ駄目なの?
そんなの可笑しいよ…!」
「それなら!好きだからって人の幸せを
奪ってもいいわけ!?
あの子は浅木君が好きで勇気を出してやっと付き合えたんだよ?」
「秋華は私の味方じゃないの!?」
違うそうじゃなくて…
私が悔しいのは
気持ちを伝えられない自分がもどかしいから。
好き
それをあの子は言った。
私が言えなかった言葉をあの子は言った。
もし、それを私の方が早く言えていたら
私の事を見ていてくれたのだろうか。
「ごめん…。秋華に当たってた…。」
悔しいからって秋華にやつ当たりなんかして。
ひどい事した。
秋華はまたゆっくりと唯愛を抱きしめた。
唯愛は大声で泣き叫び
秋華を力強く抱きしめた。
廊下に響くチャイムが虚しくこだましていた。
昼休みが終わり五時間目の授業が始まったのだろう。
騒がしかった中庭も静かになっていた。
「ごめんね…。秋華は教室戻りなよ。
私は目腫れちゃったから教室戻れないし。」
唯愛は寂しそうに笑った。
「今日は唯愛の傍に居てあげる。」
秋華は唯愛の頭を撫でた。
今ここを離れたら駄目だ。
秋華は心の端っこでそう思った。
「天見!横田!何してる。」
2人を探しに来た担任は長々と説教をし
保健室に行けと背中を押した。
「先生。氷ちょうだい。」
「どうしたの。目腫れてるじゃない。」
「失恋したの。」
保健の先生は急いで袋に氷をつめ唯愛に差し出した。
「横田さんは早く教室に戻りなさい。」
秋華はしぶしぶ教室へ戻って行った。
「大丈夫よ。腫れがひくまでゆっくりしていなさい。」
先生の言葉に唯愛はまた涙を流し、目を瞑った。
夕日を見た日には夢を語ってくれた渚音は
今でも同じ夢を追い続けているだろうか。
唯愛が目を開けた頃には夕日で部屋が照らされていた。
「よく寝てたわね。うん、腫れもひいてる。
これ以上遅くならないように早く帰りなさい。」
先生は優しく笑って唯愛を見送った。
学校を出ると唯愛は1人でゆっくりと歩き始めた。
1歩1歩に力をこめて。
「おい!天見!」
聞きなれた声が唯愛を呼び止めた。
歩くのをやめ、振り返ると渚音があの女の子と立っていた。
「お前あれから帰ってこないし、
横田に聞いたら保健室にいるとか言うし。」
「ごめん。ちょっと体調悪くなっただけだから。」
「あの!私2年の多賀谷志乃
って言います!」
渚音の隣にいた女の子は恥ずかしそうに唯愛に
名前を告げた。
「天見唯愛です。」
唯愛は志乃に対する怒りを抑えながら名前を告げた。
志乃は可愛らしく唯愛に笑いかけ、
渚音の顔を見上げた。
「大丈夫ならいいや。志乃帰ろう。」
渚音と志乃は唯愛に背を向け歩きだした。
私じゃなくて多賀谷さんを名前で呼んでる。
名前で呼ぶのは私だけでいてほしい。
でも、私は苗字で多賀谷さんは名前。
悔しいよ。
私は渚音の何?
私は渚音の支えでありたいの。
唯愛は2人が見えなくなっても見つめ続けた。
もう、渚音なんて忘れたい。
自分が自分でなくなるくらいなら
渚音なんて忘れたい。
こんな思いをするなら渚音と出会わなければ良かったね…。