第1話:今も空を見つめて…
貴方は今でも私の事を覚えていますか?
少しでも貴方の人生の記憶の端っこに
私という存在がいたという事を覚えていてほしい。
あの頃の私は幼くて、貴方を苦しめていたなんて分からなかった。
でも、私が貴方を愛していたという事だけは分かって下さい。
「唯愛?早くしないと遅刻するよ?」
空は高く、見上げても果てしなく続いていく。
貴方はこの空の続く場所にいますか?
「うん!待って、すぐ行くから!」
夏が終わり、肌寒くなったこの季節はどうにも唯愛は馴染めなかった。
「もう!唯愛がゆっくり空なんか見てるから遅刻するでしょ!」
「ごめんって!」
秋華は走りながら唯愛を小突いた。
学校に着いた頃には、体が熱っていた。
「唯愛はいっつも空見てるんだから。」
屋上でお昼を食べていると秋華は唯愛を軽く睨んだ。
「うん、よく空見てるよね。」
周りの取巻きも唯愛をじぃっと見つめた。
真昼のこの時間は季節の変わり目でも暖かく、
皆の視線が集まると体のしんから暑くなった。
「いや…えっと…」
「あぁ。あれか。愛しの恋人が空の向うに居るってか。」
取巻きの1人はイヤラシイ笑い方をして唯愛を見た。
唯愛は目を見開き、食べかけのパンを落とした。
「唯愛?」
体が硬直し、ずっと蓋をしていた思いがこみ上げてくる。
「あ…」
唯愛は急いで落としたパンを拾い上げ引きつった笑顔を作った。
「図星…?なんかあったの?」
取巻きの1人が唯愛に問いかけた。
それを、秋華が止めた。
「人には聞いて欲しくない事もあるんだよ。」
「秋華、ありがとう。大丈夫だよ。」
唯愛は空を見上げ、手をうんと伸ばした。
「私の恋人だった人はね…」