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バスマニアの京都巡りは濃い?  作者: 九条 車子(男性)
8/8

1周目 修学旅行その8

201系統で清水寺へ向かう一行だが、さすがは京都市内、バスで移動するだけでも様々な見どころが目白押しである。そして、この201系統では清水寺までは行けないのでもう一度乗り換えが必要だが、さてどうなる事やら。

 201系統はいよいよ河原町通を越え、橋を渡る。左の窓側にいる栗田 豊は「でっけー川だ。」などと盛り上がっているが、彼らには丁度、賀茂川と高野川の合流地点にある三角州、通称「鴨川デルタ」が見えているのだろう。

 鴨川は南の方で桂川と合流するまで続くが、ここで高野川との合流により「賀茂川」から「鴨川」へと字が変わる。もちろん河川法による表記では一貫して「鴨川」だが地元民ではここから北は上賀茂神社と下賀茂神社に関わる大切な川として「賀茂川」の文字を当てている。

 この合流地点は、キレイにYの字になっているため、中州もキレイな三角形になっている。近所には同志社大学や京都大学があるので、この三角州は学生や地域の住民、子供たちの憩いの場となっている。

 また、川の流れはそこそこ速いが普段の水深は大人の膝から腰くらいとそんなに深くはない。また、亀の形などの様々な飛び石があるので、橋を渡らず飛び石を使って渡る人も多い。

 また、北東に見える山は比叡山で、天台宗の総本山延暦寺は世界文化遺産にもなっている。また東南東には大きく「大」と書かれている如意ヶ嶽、大文字山を望む。

 毎年8月16日の夜、お盆に帰省してきたご先祖様の霊が迷わずにあの世へ帰れるよう「五山の送り火」を灯す。そのうち一番最初に点火されるのがこの如意ヶ嶽の「大文字」で、ここから見ることもできる。


「大文字」というと、金閣寺に行く途中にも見えると話した。(座席の都合で見えなかったが。)実は、金閣寺の方は「左大文字」と言い、如意ヶ嶽の大文字が室町御所の池に映った様子をみて大北山に「左大文字」の送り火を始めたのが起源だとか。明治時代には「大」の字の上に一画加えて「天」としたこともあったそうだ。

 バスが橋を渡り終える頃合いに東雲 舞が僕の服の袖を引っ張って聞いてくる。


 「鴨川って河原にカップルが等間隔に並んで座るって聞いたことがあるけどここ?」


 あー、鴨川って確かにそのイメージが強いな。テレビで鴨川の中継が流れるとだいたい四条大橋が多く、決まってカップルが等間隔で並んでいますって放送されてるからだろう。鴨川の河川敷は堤防から2~3m下がったところで川面からもそこそこの高さがあり、街中の雑踏も川の音も程よく軽減される事と川面の風で気持ち良い事から人々の憩いの場である。件の等間隔カップルは四条大橋と三条大橋の間で、それよりもさらに上流になるこの辺りだと、先述の通り学生や家族連れが多い。そう説明すると、東雲 舞は納得しながら見てみたかったと残念そうだった。


 その間に、バスは出町柳駅前を出発していた。出町柳駅前バス停で叡山電車や京阪電車への乗り換えのため多数の降車があり、逆に乗車が少なかったのでようやく車内が空いてきた。バスは次の百万遍で右へ曲がり東山通を南下する。このまま真っ直ぐ下ると清水寺だ。

 不意に1班の女生徒が、祇園で乗り換えるんですよね?と僕に確認してきたが、この201系統は祇園で四条通へと曲がってしまう。そのため、清水寺へ行くにはもう一度乗り換えなければならない。しかし祇園では右に曲がってからのバス停に停まる。どうせなら同じバス停で乗り換える方が便利なので、東山三条での乗り換えと答え、皆にも伝えるように頼んでおく。そうこうしているとバスは右折し左側の車窓には京都大学とその名物、立て看板が見えてくる。はずだった。

 京都大学の立て看板は学生たちが畳1枚強はある大きなベニヤ板に、サークルの紹介やグループの思想、考え、個人個人の芸術観の発表の場として道路沿いの壁に沿って立てていたので、若い感性の様々なデザインの看板が目を楽しませてくれていた。しかし、景観条例に抵触するとの理由から強制撤去となり、地域住民からは大学の風物詩だとか立て看板あっての景色だとする要望が出されたが、大学からは立て看板設置場所、景観条例に反しない基準を設けて設置を許可するに留まっているので、今は201系統からは見られなくなっている。


 東山通に右折してすぐに百万遍バス停に停まる。市内の交差点は四条河原町だとか西大路五条のように、平安京条坊制に習い通り名を合わせているが東山通では地区名が多い。通り名を合わせているのは東山三条と東山七条くらいで、あとは高野、百万遍、熊野神社前、祇園、五条坂となっている。

 ここ百万遍(百萬遍)は交差点北東にある百万遍知恩寺から来ている。


 百万遍知恩寺は浄土宗大本山の一つで、1331年京都で大地震が起こった際、後醍醐天皇の勅命により、第八世善阿空圓上人が宮中にて七日七夜を期し、百万遍の念佛を称え疫病を鎮めた事から後醍醐天皇から「百萬遍(百万遍)」の勅号を賜ったとされている。

 201系統はさすがに京都大学と大学病院沿いに走るだけあって、百万遍バス停からは大学生がゾロゾロと乗り込んできた。次の京都大学正門前バス停のアナウンスが流れると修学旅行生はやはりざわついてしまう。

 せっかくなのですぐ傍にいる東雲 舞に話しかける。

 「ノーベル賞を受賞した山中 伸弥先生の研究室も近くにあるよ。」

 iPS細胞研究所の所長を務める山中先生は京都大学病院の一角に研究所を構えておられる。

今走っている東山通からは西側になり京都大学病院の向こう側になるので直接見る事は出来ないが、ノーベル賞受賞者という有名人が近くにいるかもしれないという囁きに東雲 舞は目を丸くして驚いている。バスの中なので叫びたい気持ちをこらえたのはさすがだ。

 「山中 伸弥先生と言えばノーベル賞受賞した人じゃないですか、そんなすごい人がここにいるんですか?」

もしかしたら歩道を歩いているかもという淡い期待で必死に窓の外を見るが、快調に走るバスから歩道を歩く人を判別するのは至難の技だ。

 そのうちに丸太町通との交差点である熊野神社前を過ぎ東山二条▪岡崎公園口というバス停になる。平安神宮、動物園、美術館などが集まる岡崎公園の近くで、車内放送でもこのバス停で降りるよう案内している。

 しかし、1日乗車券であればもう1つ先の東山仁王門バス停で降りる方が良い。というのは、東山仁王門で降りてすぐ前の信号を渡り向かい側のバス停に行くと、そこからみやこメッセ、ロームシアター京都、平安神宮、動物園、美術館、南禅寺と、岡崎地区のあらゆる施設へと行けるバスに乗ることが出来るのだ。

 そのバスは系統番号はなく「岡崎ループ号」という小型バスが走っている。勿論市バスなのだが、ボディはお馴染みの緑ではなく昔走っていた京都市電のカラーリングをラッピングしてある。茶色系と緑系の2色があり一見すると市バスには見えにくく扉の近くに「市バス」と書いたステッカーが貼ってある。

 東山仁王門バス停と言えば▪▪▪


「何これ、満足稲荷って、参拝したら満足できるって、自信ありすぎじゃね?」


と、バス停に止まるや否や後部席の男子がタイミングよく見つけてくれた。

 そう、「満足稲荷」という神社が正にバス停まん前に鎮座している。豊臣秀吉が伏見城の守護神として伏見稲荷大社の祭神を勧請。後1693年(元禄6)現在地に遷座した。秀吉の崇敬が篤く、社名の満足の二字は、秀吉が祭神の加護にすこぶる「満足」したことに由来するとされる神社だ。神社と言えば参拝は24時間出来るはずだが、ここは17時には門が閉ざされる。

 東山仁王門を出発し東山三条交差点で信号待ちとなる。


 「東雲さん、次で降りるから皆に声かけて下さい。」


と言うと、東雲 舞は隣の女子に囁くように伝えたが、その女子は車内に響くほどの声で、


 「次降りるよ~、忘れ物しないように~、カードも出してえ。」


うんうん、修学旅行あるあるですね。けどこれ、何度か見たことあるけど当事者になると恥ずかしいなあ。でもまあ降り損ねたり忘れ物されるより良いか。

 いよいよ信号が青になり、東山三条交差点を渡る。その時に車窓左側を見てみると、来てる来てる(笑)46に100に110と間に車が入りながらも左折待ち。46系統はこの201系統と同じく祇園右折なのでパス、後続に急行100と110系統が来ている。正に東山三条でドンピシャである。

 補足すると、この先、東山三条、知恩院前、祇園の順に進む。

清水寺へ行くのに祇園で乗り換えだと先述の通り、バス停が変わるため乗り損ねる場合がある。では手前の知恩院前ではどうかと言うと、急行バスが停まらない。この東山三条であれば、清水寺方面のバスも祇園で右折して四条河原町へ向かうバスも全て停まるので選り取りみどりである。

 ちなみに、ここに来るバスの系統番号は12、31、46、100、110、201、202、203、206と種類が多い。東山三条で祇園を右折して四条河原町へ向かうバスか、直進して清水寺へ向かうバスかの見極めは「3桁偶数が直進、他は右折」でほぼ半分ある。数ある番号を覚えるよりこの方が判りやすい。

 さあ、それでは201系統を降りいよいよ清水寺行き最後のバスに乗り換えだ。


201系統だけでも車窓は目まぐるしく変わり、京都の様々な風景を見せてくれる。そしていよいよ清水寺への乗り換えもあと1つとなった。清水寺までの最後のバスは乗車時間はわずか。今度はただの移動になるのか、それとも・・・

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