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バスマニアの京都巡りは濃い?  作者: 九条 車子(男性)
6/8

1周目 修学旅行その6

北野天満宮で栗田 豊たちの班と競い合っていた1班は一度休戦となり一緒に回る事になった。

お昼ご飯の候補としていくつか出た案のうち御神籤により「老舗の親子丼」となったが、それは一体どんなお味なのか?

 千本今出川バス停を降りた13名もの団体である僕たちは、ゾロゾロと北側の交差点に向かう。千本今出川交差点を北へ渡りさらに一つ北の路地を東へ折れる。路地を歩くこと5分足らず。浄福寺通を越えて次の智恵光院通の少し手前に京町屋の風格を醸し出した鶏料理専門の老舗料亭がある。もちろん夜に鶏の水炊きなど料理を楽しもうと思えば大変な金額が飛んでいきそうなイメージの店構えだが、昼間はランチメニューとして本格的な親子丼といった料理が気軽に楽しめる。しかし、もちろんこの店構え、ましてや地方から修学旅行で来ている学生にとって十分すぎるくらい高い敷居だった。

 男子に至っては、


 「親子丼なんて牛丼屋で食えるじゃねえか、なんでわざわざ京都で食べるんだよ。京都ラーメンの方が良いじゃねえか。」


 などと文句を言う始末だったが、店の前に来るや、やたら身構えた上、


 「修学旅行生がこんな店で食うような小遣い持って来てる訳ねえだろ。」


東雲 舞も、さすがに美味しいのは分かりますが値段的にちょっと。と拒否モードに入っている。


 「大丈夫、親子丼セットで900円だから。下手したらラーメン大盛りにご飯付けるより安いよ。」


 と、独りだと入る勇気はないクセにグループで入ると思うと俄然やる気が出てくる。900円という値段で呆気に取られたような皆を尻目にそそくさと重厚そうな暖簾をくぐり、重たそうな木戸を開けようとすると、難なく自動で開いて少し面食らう。

 敷居をまたいだところで振り返り手招きして、固唾を飲んで立ち尽くしている皆を呼ぶ。

900円だしなあ、などという呟きと共に歩き出したのは栗田 豊と宮村 久美だ。二人が動いたのを合図に、他のみんなも追従して敷居をまたぎ感嘆の声を上げる。

 趣のある石畳の土間には井戸や傘など和風庭園風で、高級老舗感たっぷり。奥には階段があり、「お2階へお上がり下さい。」といった張り紙がある。靴を脱いで狭く窮屈な階段を上がろうとすると、さながら人の家にお邪魔している様で再び学生の足が止まる。張り紙を指さして再度手招きしようとすると、奥から和服を着た女将さんらしき人が出てきて


 「いらっしゃいまし、あらま、修学旅行どすか?よう来とくれはって。何人え?」


と、京都弁というよりは、京言葉で出迎えてくれる。もちろん他府県からの来訪者にとって一瞬戸惑う言葉なので、代わりに僕が13人、バラバラでも大丈夫ですと返す。

 女将さんに招かれては今更断れないといった覚悟でもできたのか、恐る恐る靴を脱ぎだし、順に狭い階段に向かう。通路も狭く順番が入れ替わらないので、先頭は栗田 豊と宮村 久美。だが、栗田 豊が上がりだしたのを見て宮村 久美が踵を返す。

 

 「ちょっと、男子が先に上がりなさいよ。」


僕はそれを2階から見ていると上がって来た栗田 豊が


 「どうせ下にジャージ履いてんだから見えても良いだろうがよ。なあ神崎よお。」


 と僕に振ってきたので、まあ女子は気にするんだよとか、履いてない子もいるかも知れないから。などとなだめる。なんで僕、年下に気を使ってるの?


 とりあえず2階に上がるといくつかの部屋だろうが全ての襖を外して大部屋にしてある。あちこちに座卓と座布団が並んでおり、2人から6人ずつ座れるようになっている。すでに何組か座っているものの、出来るだけ隣にならないように気を使ったのか見事にランダムに席が空いている。奥の大きな丸い月見窓のそばはすでに先客がいるものの、近い6人掛けの1つに座る。上がってきた順に僕の周りに座っていくので、男ばかり6人で埋まり、当然最後に上がって来た男子、大江 知樹が途方に暮れる。それを見た喜多 公二がすぐそばの2人掛け席に移動し、大江 知樹を呼んだ。

 女子は上がるや否やすごーいだの、なにこれーだの言い出したので栗田 豊がここぞとばかりに、静かにしろよと注意している。おそらく北野天満宮での手水で叱られた事を根に持っていたようだ。

 最後の女子が上がって来たところで、仲居さんが全員親子丼セットで良いよね?と確認しに来たので13人分ですと即答しておいた。

 実はお茶はセルフとなっていて、各座卓の近くに急須と茶碗がお盆に置いてある。これで各自お茶を入れて飲む。

 僕らが上がる前は静かでお箸とお椀の当たる音だけだったのが、一気に家庭というか、教室の昼休みみたいな喧騒を醸し出してきた。やはりこの人数は迷惑かとも思った矢先、月見窓に座っていた50代前後の夫婦が声を掛けて来た。

 

 「あなたたち、修学旅行?どこから来たの?」


一瞬、注意されるのかと思ったものの、どうも二人の顔は友好的だ。同じ旅行者で袖すり合うも多生の縁といったところか?僕らの座卓には栗田 豊と1班の3人がいる。4人とも一斉に「赤岩県です」とか「おばさんこそどっから来たの?」だとか会話を弾ませにかかっている。僕は彼らに任せる事にしてそっと横を向いた。するとちょうど仲居さんが料理を持って上がって来た。まずは階段に近い女子の座卓から配膳され、コラーゲンたっぷりの鶏スープで・・・との説明に歓声を上げているのはやはり女子らしい。

 親子丼、漬物、鶏スープのセットになるがこれだけの人数なので配膳に時間がかかると恐縮してしまう。

まあ、その間男子たちはお隣の夫婦とすっかり打ち解けたようで、人との関わりが苦手な僕は羨ましくもあった。

 当の親子丼はというと、半熟過ぎるほどトロトロの卵に見え隠れしているプリプリの鶏肉。そこに箸を持って行きたくなるのをグッとこらえてご飯を探しに箸を入れると、フワッと湯気が上がりツヤツヤに光るご飯が掘り出される。そのまま箸で持ち上げると半熟卵が流れだす。一口含めばご飯の甘味と熱、そして卵に絡む極上の出汁の味。久しぶりだなあと噛み締めていると、周りは箸を口に入れたまま固まっている。

 そして少し間が空いて、うまっ、なにこれ?などと歓声が上がる。女子はやはりジックリと味わってくれるが、男子は旨い旨いと連呼しながら掻き込んでいる。


 みんな、ほぼ無言のままに食べ続けたので、親子丼以外の話が出たのはほとんど食べ終わってからだった。早くに食べ終えた男子たちがさっきの夫婦と再び話を始めていた。まだ金閣寺と北野天満宮しか行ってない僕たち(と言うか栗田 豊たち)には千本焔魔(えんま)堂や釘抜き地蔵の話をされてもさっぱり付いて行けてないようだったが、旅先で見知らぬ同士にも関わらず同じ屋根の下で同じ美味しい親子丼を食べて、話を弾ませていることに満足してくれている夫婦には感謝してもしきれない。

 そう思っていると東雲 舞が思い出したように聞いてきた。


「そう言えば神崎さんは金閣寺は何度か行ってるんですか?」


まあ当然の疑問ですね。何度かって言うのは置いといて、京都市在住であれば小中学校の遠足、校外学習で二条城や金閣寺は行っている事が多い。もちろん絶対ではなく、僕が通っていた中学校では行先が金閣寺と清水寺が1年ごとに替わっていた。そのため遠足で清水寺には行ってない。東雲 舞が金閣寺の雪化粧についても聞いてきたが、僕は一瞬だけど雪化粧金閣は拝んでいる。


 実は市バスのM1系統に乗ると一瞬だけどバス車内から金閣寺が見えるポイントがある。しかも、観光で鹿苑寺へ入ると金閣舎利殿の南側や東側から見ることになる。しかし、バス車内から見る金閣は南西側になる。なので、夕方になると西日が反射して神々しいまでに輝く金閣舎利殿を一瞬拝めるのだ。もちろん早朝も朝日が南側の面に反射してやはり輝いて見える。けっこうお気に入りの路線なのだ。

 と説明すると栗田 豊たち男子が、そんなバスがあるなら拝観料払わなくても見られたんじゃないかあなどとショックを受け、隣の夫婦もビックリして今度来たときはそのバスに乗りたいねと話している。そこへ調子に乗った栗田 豊が、黙っててくれていたら良いのに僕を京都検定持ちだとか良いガイドだとか持ち上げる。すると夫婦はこの近くに他に見所がないか訪ねてきた。

 千本通沿いは今行ってきたが思いの外早く回ってしまったとの事で、どおりでゆっくりしているなあと思っていた。ならばと薦めたのはやはり首途八幡宮(かどではちまんぐう)だ。場所は何とここから徒歩3分、智恵光院通を南に下るとすぐにある。元々、「内野八幡宮」と呼ばれていて、平安京の大内裏の鬼門(東北)に位置し王城鎮護の神とされていた。ここには奥州で産出される金を京で商う事を生業としていた金売 吉次の屋敷があったと言われ、牛若丸こと源義経が16歳の時に鞍馬山から下り奥州平泉へ向けて旅立つ際に吉次の助けを得て、道中の安全と武勇の上達を願った神社だと言われている。ちょうど旅行で来ているこの夫婦にはちょうど良い旅の安全祈願になるのでは?と紹介した。

 

 もちろん、夫婦は喜んで行く事にしてくれたが、そんな神社なら俺たちも行かないとと、またしても栗田 豊ら男子が沸き立ってしまった。まあ、次に乗るバスのバス停に行く途中みたいなもんだし悪くはないが総勢15人もの団体になってしまう。何はともあれ、気づけば全員食べ終わっていたので早々に出発の準備をする。


 降りる時は当然階段に近い女子から順に降りて下で会計をしていく。できるだけまとめて済ますに越したことはないが各自小遣いから出しているので仕方ない。しかし、階段で待っている東雲 舞は自分より後ろにいる男子たち全員に1000円札を出すように言う。つまり、全員から1000円ずつ徴収しまとめて支払い、お釣りを等分に分けて返そうという作戦だ。それをすぐに理解した男子たちは素早く1000円札を東雲 舞に渡していく。僕と東雲 舞本人含めて8人分をまとめて払ってくれる事になるので、その間に男子たちは靴を履いて外に出る。全員が出てくる頃にちょうど東雲 舞と先ほどの夫婦も出てきていざ15人で首途八幡宮に向かう事となった。

高級老舗鶏料理店で食べた親子丼の味と値段に満足した一行は、次のポイント清水寺に行く前に寄り道をすることに。さてさて「かどで」の文字が「首途」という物々しい神社とはいったいどんな神社なのか?

そしてこの後のバスでどんな景色が見られるのか?

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