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バスマニアの京都巡りは濃い?  作者: 九条 車子(男性)
3/8

1周目 修学旅行その3

二条城・金閣寺EXPも行程の半分を過ぎ順調に走っている。今出川通からの景色も見所もまだあるが一つ一つ説明したり見て行くのは大変だが、長い距離を移動する京都市バスでは車窓の景色も楽しまないともったいない。そんなこんなでいよいよ金閣寺に到着となるが、修学旅行生の計画ではやはり急行バスでも先行する205系統に追い付くのは無理だと不安がっている。果たして勝負の行方は?

 今出川通を越えると中央分離帯が広くなりちょっとした遊歩道が設けられている。ここにも銀杏並木が続いており、秋になるとまっ黄色に染め上がって圧巻の景色を見せる。ちなみにこの銀杏並木、中央分離帯に植えられているのがメスの木で、両側の歩道に植えられているのがオスの木である。


 銀杏並木を抜け、片側2車線になる堀川紫明を過ぎると小野篁(おののたかむら)と紫式部の墓所がある。これにはやはり安倍晴明で反応した荒川 麻紀が興味を持った。


堀川通からは細い入口に少し目立ちにくい石碑がある程度なので、知らないと本当に気付かない。

当然、バスが止まったり減速するような場所でもないので、写真にこそ撮れなかったものの、誰もが一度は聞いたことのある高名な平安女性の墓所ともなれば見るだけでテンションが上がるようだ。


 ついでに小野篁についても触れておくと、閻魔大王に仕えてこの世とあの世を行き来したとか、一度死んだのに蘇ったとか様々な伝説が残っている。東山の六道珍皇寺には、篁が冥土に赴くために使ったと伝えられている井戸が今も存在しているのだが、僕はまだ行った事が無い。


 いよいよ北大路堀川で左折し北大路通へと入る。ここで目を引くのはやはり大徳寺だろう。右窓側席の宮村 久美がやはり聞いてきた。


 「ねえ、このお寺何?」


 「なんだと、もう金閣寺着くのか?まだ1班抜いてないぜ。」

と、外を見もせず答えたのは栗田 豊だ。彼は京都市内の名所よりも1班との勝負の方が大事なのだ。わざわざ左窓側の席に移動して、1班の乗った205系統を探すのに必死になっている。

 ルートが違うので当然ながら先行している205系統を抜く事はない。


「違うよ、このお寺は大徳寺。禅宗の臨済宗大徳寺派の大本山なんだ。一休さんは皆も知っているよね。彼が大人になってからここのお坊さんになってる。1467年からの応仁の乱でお寺は焼けたんだけど、一休さんが金持ちの商人や貴族に協力を頼みに行って再興したんだって。」


 テレビアニメなどでも有名な「一休さん」の名前が出ると全員が「へー」だの「すごーい」だのと感心しながら通り過ぎて行く大徳寺を振り返りながら見つめている。


 バスはエンジンの回転をさらに上げて船岡山へと続く坂道を登っていく。正面には左大文字山が見え隠れしているはずだが、この席からでは見えにくい。

 今宮神社前交差点の右側、路地の奥には今宮神社が鎮座しているがバス車内からでは見にくいので、左手にある船岡山公園と建勲神社を彼らに紹介する。

 平安京の中心、朱雀大路の真北に当たるので平安京の四神相応の玄武に位置している。

 また、建勲神社は織田信長を主祭神としており祭神・織田信長の業績にちなみ、国家安泰・難局突破・大願成就の神社として信仰を集めている。


 やはり「織田信長」の名前に全員が反応し、「どれどれ?」「見えない?」など一目その山を見ようと窓から見上げるが勢いよく坂を登るバスからはじっくり見る余裕はない。

 すると船岡山バス停に205系統が停車し右側車線で抜かしいく。これに栗田 豊が必死に205系統の車内をのぞき込むが(当たり前だが)1班の姿を確認できなかったようで僕に文句を言ってきた。

 

 「神崎いい。今の205番、ガラガラで1班乗ってねえぞ。」


 「あれは反対向き、京都駅行の205番だから乗ってる訳ないよ。」


 「ああ?どういう事だよ。意味わかんねえ。」


 これがある意味京都マジックだ。京都は碁盤の目だから一口に京都駅から金閣寺へ行くと言ってもルートは1本ではない。

 205系統は七条通を西進してから西大路通を北上するが、この急行バスは堀川通を北上してから北大路通を西進する。

 また、同じく急行101系統は烏丸通を北上し、四条通を一旦西進して堀川通を北上、また今出川通を西進して西大路通へとまさにジグザグに進む。同じ起終点でも3通りのバス路線が存在するのだ。


 これが、京都の路線バスが難しいと言われる理由だろう。

 京都人はやはり先に通り名を覚えるので、このバスはどの通りを通るかと説明するとすぐにピンと来る。

 しかし、通り名が分からないと当然、バスの経路は分かりにくい。

 特に他府県の人ならば曲がるべき交差点を直進したりすると行き過ぎたものと認識し戻るべきと考えるものだが、京都人は目的地によってはこのまま進んで迂回する方が良いという考えも浮かぶのだ。


 話が逸れたが、この急行は金閣寺道からそのまま北野天満宮を通って京都駅へと戻る。京都駅へ行く人への利便性を考慮し、205系統の金閣寺行とは反対向きの京都駅行きと同じバス停に止まる。

 だから1班の乗る205系統を抜くことはない。時間的にはそんなに遅れている様子はないので、間違いなくこちらが先着する事になるはずだ。

 しかし、栗田 豊が旅の()()()を広げながら言ってくる。

 

 「けど神崎よお、9時の205番は9時35分金閣寺着になってっぞ。もう9時35分になってるじゃねえか。向こうの方が先じゃねえのか?」


 ええ?そんなはずは?と、思ったが栗田 豊が()()()を差し出すので見てみると、確かに彼らの字で9時35分着と書いてある。


 「ちょっと待って、35分で行けるのは別のバスやで。急行101での時間ちゃうの?205やと45分はかかるはず。この二条城▪金閣寺EXPでなら32、3分で行くけど。」


 「ウソだろ、俺らはちゃんと計画立てたときに見たんだぜ。京都駅から金閣寺まで35分て。何分のバスがあるかまでは書いてなかったけどな。」 


 と、栗田 豊が反論し宮村 久美も参加してくる。


 「先生が配ってたプリントには京都駅から金閣寺とか清水寺とか、大体の観光地までかかる時間とか、バスの本数が書いてあったもんね。」


 いや運転間隔は大体合ってるけど、所要時分はバスによって違うんだけどなあ。ましてや通過して行く急行バスと、各バス停に止まる205系統とが同じ所要時間とかおかしい。

 そうこうしているうちに、いよいよ千本北大路の交差点を過ぎ金閣寺道バス停への最後の左カーブに差し掛かる。とにもかくにも全員に降車準備とカードの準備を促す。時刻は9時40分、ほぼ定刻で着いた。

 

 最後部席にいるので降りるのはほぼ最後になる。栗田 豊は窓から対向バス停に止まっている205系統を睨むように見ているが、間違いなく1班より何本か前のバスのはずだ。

 しかし自分たちで調べてきたという自負があるので、今日初めて知り合った人間の言葉は信用しきれないものがあるのだろう。

 降車の方は事前に説明しておいたので1日券での降車は問題なくできた。ここでふと気になったので東雲 舞に声を掛ける。

 「金閣寺の次はどこへ行く事になってるの?」


 「えっとねえ・・・。」


 と、東雲 舞が()()()を広げる。


 「金閣寺の見学は9時40分から10時25分で、その次は北野天満宮になってます。」


 ならば次もここから乗るので、北野天満宮へ行ける二条城▪金閣寺EXPと急行101、102の時刻を見ておく事にする。東雲 舞も察したようで、カバンからボールペンを出して10時台のバスをメモしていく。


 バス後方には金閣寺前交差点があり、ここから西大路通を西へ渡って坂を上がると金閣寺の入口がある。

 すでに二条城▪金閣寺EXPから降りた客が固まっているが、男子たちは先頭で信号が替わるのを待っている。荒川 麻紀と宮村 久美はバス停と交差点の間で東雲 舞がメモを終えるのを待っている。


 「よっし、おっけー。」


と、言うや否や女子二人の元へ駆け出そうとして思い当たるようにこちらを振り返る。


 「神崎さんの事、1班にバレたらまずいかな?」


 それはもっともな話だ。1班にしたら京都駅で栗田 豊達が乗り遅れているのを見ている訳だから、それを地元民の案内で先回りされているなんてわかれば、やはり文句の1つや2つ出てくるだろうし、反則だと言いたくもなるだろう。

 当然、栗田 豊達も反論するには違いないし、東雲 舞が言ったように自分たちで地元の人に聞いて先に着けたのだから勝ちは勝ちだ。

 とは言え、今後の学校生活を考えれば余計なわだかまりは作らないに越したことはない。


 「じゃあ、僕は適当に時間潰すから。ぐるっと見ても10時半にはなるだろうけど、もし1班と一緒に回ったのならここには10時40分にバス停に来て。上手く引き止めたり急がして10時40分に来て。」


 東雲 舞は意図を察したか片目をつむりながら右手を上げてグループの元へ行った。

とは言え、僕自身も勝敗は気になるので金閣寺の入口まで行くことにする。金閣寺前の歩行者信号は、僕が渡ろうとすると点滅を始めたので慌てて渡る。栗田 豊達がすでに金閣寺の入口手前まで行ってるところを見ると、門の前が1班との勝負のゴールなのだろう。門の前にも交差点があり、青になると横断歩道上は金閣寺に行く人の波と金閣寺から出てきてバス停に向かう人の波でごった返す。


僕が金閣寺への坂の途中まで来たところで、先行の東雲 舞たちが金閣寺入口の信号に着いたようで栗田 豊の声が響いてくる。


 「おーい、1班のやつらいねえぞお。アツシもケンジもいねえぞ~。俺らの勝ちだ~。」


 そんなに大きい交差点でもないので、声を張り上げなくても聞こえると思うんだが、まあお陰で僕にも勝敗が聞こえたので助かった。とは言え、もう9時50分になろうかというところ。そろそろ1班の乗った205も来る頃だと思うのだが、さすがに車内混雑で遅れているのだろうか?


 金閣寺入口では栗田 豊達が写真を撮ったり坂を上がってくる人の並みを見ているが1班のメンバーが見つからないようだ。僕は東雲 舞に手振りで合図して入口前交差点を渡らずに南側に曲がった所にあるバス停兼無料休憩所に向かう。ここからなら座る場所もあるし、金閣寺入口も栗田 豊達も見えるので時間潰しには丁度良い。

 9時55分になった頃、栗田 豊がまた騒ぎ出した。1班が到着したのだ。厳密には金閣寺への坂の途中で見つけたようだ。信号が替わり栗田 豊や東雲 舞達と同じような制服の生徒がぞろぞろと渡り、口々に再会を喜んでというよりは自分たちより先に来ている同級生に驚いている。

 恐らく、1班と同じバスに乗った彼らは、栗田 豊達が乗り遅れているのを聞いたのだろう。もちろん勝負についても聞いているのだから、先に着いている事に驚くのも無理はない。


 「お前ら、タクシー使ったんだろ!反則じゃねえかあ。」

と、1班の叫び声が聞こえる。


 「残念でした。その後に急行バスがあったからそっちに乗ったんだよ。これで金閣寺の入場料はお前ら持ちだからなあ。ざまあみろ。」

 もちろん、言い返したのは栗田 豊だ。なるほど、勝負に必死になるわけだ。小遣いが決まっている彼らに入場料は痛い出費だろう。しかし、急行バスと言われた1班は観念したように負けを認めたようで、遠目で見ても重たいと分かる足取りで金閣寺に入って行った。

修学旅行班別行動で競走している東雲 舞たち。京都駅で205系統に乗り遅れたものの、見事に後発の急行バスで逆転勝ちをして金閣寺の入場料を1班に払わせた。次なる勝負は金閣寺から北野天満宮。しかしこれには急行バスしか直行するバスが無く、次は勝負にならないように見えるが、神崎の指定した待ち合わせ時間はまたもや東雲 舞たちを勝たせる秘策なのか?そしてこのまま勝負が続くのか?

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