表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バスマニアの京都巡りは濃い?  作者: 九条 車子(男性)
1/8

1周目 修学旅行その1

修学旅行で京都観光に来た高校生、自由行動で班ごとにバスで市内を巡るのだが、どの班が一番に目的地に着くか競走になってしまう。そんな中、主人公バスマニアで京都好きの神崎がバスに乗り遅れた班と出会う。先に行った班に追い付くことは出来るのか?

京都駅前バスロータリーの西側にある京都中央郵便局、その東側の歩道が僕の定位置だ。

というのは、京都駅前を発車しバスロータリーを転回したバスたちはこの郵便局に向かって進むのだが、当の郵便局とその北隣のビルがあるため左右、つまり南北に分かれて出ていく。

この歩道からだとバスの正面や右左折による側面の写真を撮ることができる。

また、T字路の少し南側からカメラを構えると、背景には京都駅前北側にそびえる京都タワーも入れる事ができるので、まさにバスマニアのためのT字路ではないかと思ってしまう。

 生まれも育ちも京都市で子供の頃から京都の街とバスや鉄道が好きだった僕は、当然のように高校、大学とも自宅からバスで通える京都市内を選んだ。

しかし就職は京都市内では思うようにいかず、バイトの無いときは平日朝から京都駅でカメラを構える生活になってしまった。

もちろん、勤務時間、有給など労働条件に贅沢を言わねば就職は出来なくはないのだが、やはり趣味の時間を取れる自由を考えるとアルバイトでも良いんではないかと思ってしまっている。


 5月も末になると日の出が早くなるため東向のこの場所は早朝に写真を撮るには不向きだが、今朝のように雲が多いと日光の当たり具合や影を気にしなくて良いので写真日和とも言える。また、日差しがないのでバス待ちも涼しく快適である。

 そのため大学輸送の臨時快速やラッシュによる増車でレア車、レア運用


  ――― レア車 ――― 路線バスは基本的にはどの車も同じ様に見えるけれども、年式や装備により営業所、または事業者により極端に数が少なく滅多に走っている姿を見ない車両がある。これをレア車と呼んでいる。―――

 

  ――― レア運用 ――― 営業所によっては「この車両はこの路線に限定」している事もあるのだが、朝ラッシュによる増便や臨時便で、その固定運用をはずれて違う路線を走ることもあり、これをレア運用と呼んでいる。 ―――


が来ないか確かめながらすべてのバスに向けてカメラのシャッターを切っている。

このあとはマニア仲間のSNSで別路線の朝ラッシュ運行にレア車が走っていないかなどの情報交換したり、最近乗っていない路線に乗りに行ったりして過ごす予定だった。


朝ラッシュも終わりバスの本数や車両が通常営業になる午前9時前、久しぶりに右京区の北西部「山越中町」の方へ行ってみようかと思い、バスロータリーへと移動するため京都駅前ポルタ地下街への階段を下る。

 ポルタ地下街はちょうどバスロータリーの真下にありレストラン街、若い女性向けの服飾店街などが地下鉄、JRに接続。そして京都中央郵便局、南は京都駅八条口、北は烏丸七条通に向かって京都タワービル、ヨドバシカメラともつながっており雨が降っても傘要らずで移動できる優れものだ。

 「山越中町」はバス停名で、ここにはバスの起終点待機場兼乗務員の休憩施設となっている「山越操車場」がある。

 「山越操車場」には京都駅前からだと26系統のバスならば乗換えずに行けるのだが、せっかくバス1日券を買うのだから寄り道や乗り継いで行きたいのがバスマニアというもの。どのルートで行こうか頭の中では路線図や時刻表が目まぐるしく回って検索している。

 ひとまず、京都市のほぼ中央を南北に貫く堀川通を走るバスに乗るため、B乗り場への階段を上がる。

すると、後ろから5、6人ぐらいの足音が、「急げ!!」とか「待って」などと叫び声を伴って階段を上がってきた。

 僕はどちらに避けるべきか確かめるべく振り返ると、軽そうなリュックサックを背中で左右に揺さぶりながら白いカッターシャツ、黒いズボンの男子3人が横一列に上がってくる。その後ろから同じようにリュックサックを揺さぶりながら白い上着、紺色のラインが入ったセーラー服の女子3人が横一列に上がってくるが、向こうもこちらを認識しているようで避ける必要もなく見送った。

 「この階段を上がってるなら二条城か金閣寺だろうなあ」と思いつつB乗り場に上がると、ちょうど金閣寺行きの205系統が満員御礼状態で発車して行った。


 「あー、間に合わなかったあ。負けたあ。」と、さっきの修学旅行生。


乗り遅れたのはわかるが、一体何が負けたのだろう?そう言えば、205系統が満員だったのは恐らく乗り遅れた彼らと同じ学校のグループなんだろうなと。そしてどちらが早く回るか競争しているなと推理できた。

推理できたというよりは、しょっちゅう見ている光景でもあるので記憶を読み返しただけなのだが。

 時計を見ると今は9時5分、205系統が発車するB3乗場の時刻表から、さっきの便は9時3分だった事がわかる。そして次発は9時7分がある。さすがは1日3万5千人を運ぶ多客路線だけあり、本数が半端ない。

 ここで放っておけば彼らは9時7分の205系統で追っかけるのだろう。と、思っているうちに205系統が入ってきた。もちろん乗るのだろうと思い彼らを見ると「旅行のしおり」を見ながら何やら相談している上、女子の一人と目が合ってしまい、つい口が滑った。


 「さっきのグループより速く金閣寺に行きたいんか?」


思わずハッとした。

自分自身でも見た目で不審者と思われそうだと心配するようなルックスの上、他府県から来た中高生グループ。しかも男子もいるのにわざわざ目が合った女子に声を掛けてしまった。しかもほぼタメ口。

ないわー。不審者に声掛けられたって先生に連絡されそうな勢い。やってしまった。声を掛けたものの危険を感じて立ち去ろうと思った瞬間、


「え、そんな事出来るんですか?」


完全に食いついてきている。僕はビックリしたものの、すぐに切り返した。


「その205系統の次に、こっちの乗場から急行バスが出るから。これだと205系統より15分近く速く金閣寺に着くん・・・」


「よっしゃあー」

言い終わる終わらないかのうちに、男子の1人が勝利を確信したかのように雄叫びを上げた。


(なんなんだよ、もう。)


雄叫びを上げたのは学生グループの男子達だが、女子は僕に向かって「京都のプロですか?バス詳しいんですか?」などと巻き込んでくるので、周囲の視線は完全に僕にも向かって投げられている。

そうしているうちに205系統は発車し、後ろには当の急行バス「二条城・金閣寺EXPRESS」がやってきた。

「二条城・金閣寺EXPRESS」は205系統の発車するB3乗場ではなく1つ前のB2乗場から発車するので僕らの目の前をゆっくり通過していく。


「よっしゃ、これ乗るぞー」と男子はテンション高めにバス停に向かっていく。

これで彼らを見送れば解放だと思いきや、さっきから目の合っていた女子が言ってきた。


「忙しいですか?もう少し時間取れるなら一緒に乗りませんか?」


は? 意味わかんない。


そもそも、人の都合を無視して一緒にバスに乗りませんかって聞くか?


しかも、間違いなく乗り継ぎ検索ソフト扱いだろ。


こいつに聞けばこの先も早回りのルートを教えてもらえるだろう。とか思ってるのか?


なんで僕がそんな事を?


金閣寺に早く着けば終わりじゃないのか?


「あのー?」


グルグルとこの女子高生の魂胆を読み解こうとして考えているうちに俯いていたらしく、僕の顔を覗き込むように下から見上げてくる。


「にょあっっっ!!」

今までの人生で一番近くまで女性の顔が近づいてきた事、それが不意打ちだった事から自分でも恥ずかしいくらい情けない声を上げてしまった。

 そんな事にはお構いなしで女子高生はさらっと言った。


「ほら、早く乗らないとバス出ちゃいますよ。」


と腕をつかみ「二条城・金閣寺EXPRESS」バスに向かおうとするので、


「あ、うん」


としか言えずそのまま一緒にバスに乗り込んで後部座席に向かう。

 先の205系統が2台とも修学旅行生で満員だったが、こちらは外国人旅行者が目立つものの、まだ9時過ぎという時間だからか座席が埋まる程度の乗車率だ。

 先に乗り込んでいた男子3人と女子2人が、最後部座席の横一列5人掛けとその前の左右の2人掛け席、計9人分の席を確保してくれている。

 彼らは、発車間際に乗り込んで来た仲間と僕とを交互に見ながら


 「あれー? 東雲、何やってんだ?」

 「その人 だれー?どこから連れてきたのー?」


はい、当然の反応ですわな。しかもまだ腕つかまれているし。並んでいたら冷やかしの一つくらいされそうだが、明らかに僕が連れて来られたって形になっているのが救いだ。

 そして東雲と呼ばれたこの女子高生は腕を離して、仲間が確保している座席のうち進行方向左側の2人掛け席の女子に手振りで譲ってくれるように頼み、空いた席の窓側に座る。

 そしてこう言った。


 「少しの間、一緒に回って案内してくれるプロのお兄さんです。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ