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幽霊列車

 僕は正式に「悔恨呪怨正式成敗公務執行部」通称「復讐課」のメンバーに加わった。

 一郎太とアスカに歓迎された後、3人で区役所所長の所に行って申請して、正式に辞令が交付された。

 小学生の身分なのに区役所の職員になれたのかは、自分でもよく分からない。

 というかよく所長も承認したものだ、と今更ながらに思う。世界が違えば常識やルールも変わるのだろうか。どちらにせよ、今のカイトにとっては好都合な展開になっている。

 区役所内の案内が終わると、一郎太の「早速仕事しようか」という社畜の鑑のような号令の下、総合ロビーに向かう。

 復讐課は総合ロビーに長机を設置して、相談者を待つスタイルらしかった。

 流石にまだ子供のカイトに相談者の応対は厳しいということで、一郎太とアスカの後ろで裏作業をすることになった。

 午前8時。区役所が開く。

 カイトの初仕事が始まった。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「今日は一件だけだったねえ」

 復讐課の部室に帰ってきて早々にアスカが口を開く。

「......いつもはどのくらい相談が来るんですか?」

 カイトは2人に向けて質問する。

「うーん、日によるけども平均3件ってとこかな。まだまだこの課の事は周知されてないのが現状だからね」

「......みんな知らないんですか?」

 カイトは少し意外だと思った。未練がある人がひしめくこの世界で、復讐課の存在は大きいものだと思っていたからだ。

「うん。本当はこの課は極秘裏に創設されて、別の事に使われる筈だったんだよ。でも、まあ、色々あってね」

「......色々って?」

「......まあ、色々は色々だよ」

「教えてあげよっか?」

 会話に入ってきたのはアスカさんだ。

「ホントに無茶してたんだよねぇ。なんせイチさんが......」

「アスカくん」

 一郎太の鋭い声がアスカの言葉を止める。

「それは今、話すべきじゃないよ。それは、分かっているかな?」

「......はい......」

 一郎太の優しい声が、今はアスカの心に直に突き刺さる。よく、あまり怒らない人が怒ると怖いと言うけど、まさにその通りだと2人は痛感した。

「......すみませんです...」

「分かったならいいよ。さ、じゃあ精査しようか!」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うん、この件はじゃあ決定ってことで」

 一郎太はそう言って、手元に置いてある紙に判を押す。紙にはその日来た相談者の相談内容が詳細に書かれている。

 今日の相談者の相談内容は、簡単に言えば自分を事故を装って殺した奴の復讐だった。

 被害者自体は心当たりはないとの事。

「......でも、なんで事故を装って殺されたって分かったんですか?」

「カイトくんも経験あると思うけど、死んでからこの世界に来るまでに、若干のタイムラグがあったよね。相談者はその間に知ったんだそうだよ」

 カイトの質問に素早くソツなく答える一郎太。

「さてさて、じゃあいつにするかだけども」

 ここで一度言葉を切り、主にカイトを見て

「今から行こうかと思うんだけれど、どうかな」

「はーい、異議なーし」

 すぐさまアスカが賛成する。

「......じゃあ、僕も」

 カイトも続いて賛成する。

「了解。ではでは、行こうか」

 一郎太はそう言って立ち上がった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 一郎太に連れ立って歩いて行った先は、区役所の地下駐車場だった。

「あ、そうだカイトくん」

 一郎太が振り返ってカイトを見据える。

「君の能力、まだ試した事はないんだったっけ?」

 すっかり忘れていた。そういえばそんな御大層なものの話があったな、と今更ながらに思い出すカイト。

「すっかり忘れてました、って顔だね。まあ、それは向こうで話そうか。あ、来た来た」

 そう言って一郎太は遠くに顔を向ける。

 何が来たのだろうか、と怪訝に思ったカイトは一郎太に倣って遠くを見つめる。すると遠くから

「.........ポォォォ......」

 という音が聞こえた。

 ポォォォ?カイトが疑問に思った瞬間、


 目の前にいきなり汽車が走りこんで来た。


「......えぇ?」

 線路も何もないただのアスファルトが敷き詰められた地下駐車場に何故汽車が走れてるの?ていうか、なんでここに汽車が走りこんできたの?

 その疑問はすぐに解決した。

「こいつはいわゆる『幽霊列車』と言われるものだよ。こいつはどんな所でも自分で線路を作って3つの世界を行き来するんだ。こいつに乗って、第一世界に向かう!」

 カイトは幽霊列車に目を向ける。正面にはその名に相応しい人間の頭蓋骨を象ったフェイスが付いており、全体的に古めかしい雰囲気を纏っている。先の説明の通り、線路は汽車の下にしか敷かれておらず、また後方にも敷かれていない。

 なんか、どっかで見た事があるような仕組みの汽車だった。

「乗り込んだら勝手に出発するから、ささ、乗った乗った」

 一郎太はそう言ってアスカとカイトの背を押して客車に乗車させる。

 客車はそこまで豪勢ではないものの、外装の古めかしいそれとはまた違う。

 それぞれ気ままに席に座ると、「ポォォォッ」と汽笛の音を上げ、ゆっくりと走り出す。

 幽霊列車は地下駐車場の壁に向かって突進し、それをすり抜け地上へと飛び出し、段々と汽車は空を目指して高度を上げていく。

 空を覆い尽くす黒い雲に突入すると、視界は一気に無くなり、どこをどんな風に進んでいるのか、また前に進めているのかという不安に駆られる。

 しかし、以前当たり前のように過ごし、今はもう手の届かない場所となったあの世界に再び戻れる事にどこかわくわくもしていた。

 その矛盾を乗せた幽霊列車は、一切速度を落とすことなく世界をまたにかける。

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