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理不尽

 理不尽だ。

 西道魁斗(サイドウ カイト)はそう心に思っていた。

 小学校低学年くらいまでは、いじめなんてものはなかった。

 原因は分からない。気がついたらクラスでリーダーシップを張ってる男子とその取り巻き、そして女子グループの中で一番権力のある女子とそれを崇める仲間。そいつらにいじめられるようになった。最初は些細なものだった。消しゴムが消えたり鉛筆の芯を折られていたり掃除中に出たゴミを足元にばら撒かれたり。当たり前だが教師がいない間にそういった行為をし、教師の前では「クラスメイト全員仲良し!」というアピールを平気で行うのだ。

 最初のうちは我慢していた。いじめる相手はローテーションで決まっていたから、誰もが最初我慢すればいずれ標的はずれていくと思っていた。事実そうだったし、僕に回ってきた時もいずれそうなる、とどこか楽観視していた。

 それが、誤りだったのだろう。

 いつまでたっても僕へのいじめは終わらず、段々と行為はエスカレートしていった。間接的なものから直接的なものへと変わり、いつしか暴力へと変わっていった。

 そんな事が続いていたある日、いつものように放課後の教室でクラスメイトに殴られ蹴られ叩かれを繰り返されているうちに、意識が遠のき、気がついたら僕は暴力の現場から少し離れたところで佇んでいた。

 死んでいたのだ。

 不意に誰かが、僕が息をしていない事に気がついた途端、その場にいた僕を除く皆が教室から我先にと逃げ出していった。

 いい気味だ、せいぜい怯えろと思うと同時に、僕は何とも言えない憤慨と悲しみを味わっていた。

 憤慨はいじめていた奴らに対して。きっと奴らは事が収まったら僕の事などすぐに忘れてのうのうと人生を送って行くだろう。そんな事は許さない。一生、僕を殺したという記憶は持って、苦しんで生きていってもらう。

 悲しみは、僕の動かなくなった身体を見て。両親に貰ったこの身体で、もう動けない、両親に会えないと思うと泣きたい気分になった。

 夜になって、学校を出て、霊体のまま彷徨っていたら見えないはずの僕に声を掛けてくる存在があった。

「もしもし、そこな少年よ」

 聞けばこの爺さん、名前を「イエス」というらしく、なんか僕に「あの世に行ってくれないかなぁ?」なんて言ってくる。

 それではいそうですか、で行く人なんていないと思う。

 それで逃げようと思ったら目の前にいきなりエレベーターが落ちてくるし、出られないし、終わりがないんじゃないかってくらいにエレベーター下降して行くし。

 理不尽だ。

 何もしてないのに。


 長い長い降下の旅が続いたのち、エレベーターは急に止まった。

「な、なんだ?」

 エレベーターのドアが開かれ、外へ出るよう促される。

 エレベーターを降りた先にあったのは

「......え?」

 魁斗は自身の目を疑って擦る。けれど景色は変わらない。目の前に広がっていた景色は、魁斗がよく見覚えのある町並みだった。

「なんで......?」

 完全にエレベーターの外へ出ると、エレベーターはドアを閉めて再び上へと戻って行く。

 それを見送って魁斗は三度景色を凝視する。

 けれど間違いない。ここは、魁斗が住んでいた町だった。なにもかも、全てが一緒の景色だった。

 そう、なにもかもが。

 しばらく呆然としたまま佇んでいると、1人の女性がこちらに歩いてきた。黒瞳黒髪、いや髪は少し茶色がかっているか。端整な顔立ちはどこかのイラストから出てきたかの様に可愛らしく、しかしどこか強い意志を滲ませている。標準体型よりも少し飛び出た胸が自己主張するかのように揺れている。世の男性諸君らなら鼻を伸ばす光景だが、相手は小学生。興奮すらせずに純粋に観察していた。リクルートスーツを着て、髪をポニーテールに結んでおり、「出来る女!」というオーラを全身から醸し出している。端的に言えば、女が欲しいものの殆どを手に入れてしまっているような完璧美人だった。

「あなた、今エレベーターから降りてきた?」

 女性が問う。魁斗は首を縦に降る。

「そうですか。では、一緒に来てください」

 女性はそう言うなり、来た道を歩いていく。魁斗はとりあえずその女性についていく。

「あ、申し遅れました。私、豊嶋明日香(トヨシマ アスカ)と言います。この世界での貴方の担当者です」

 アスカと名乗るその女性は振り返って自己紹介する。

 魁斗も自己紹介を返す。

「......西道魁斗です」

「サイドウカイト君ね。かっこいい名前じゃん」

「......そうでもないですよ」

「そうかなぁ?私はそう思わないけどねぇ」

 アスカとカイトは再び黙って歩いていく。

 カイトは道すがら町を観察していく。本当に以前住んでいた時となんら変わっているところがない。商店街は人でごった返し、大通りは車が渋滞している。商店街に入っている店も現世と変わらない。

 逆に、変わっていないからこそ、カイトはゾッとする。

「......あの」

「うん?」

「......ここって、どこなんですか?」

 アスカはカイトの質問にニンマリと笑って

「そうよね、こんなに向こうと同じじゃ混乱しちゃうよねぇ」

 そう言って前を向いて

「そういう話は、あそこに着いて色々してからにしよっか」

 カイトはアスカが見据えてるであろうものを見る。

 2人の目線の先には——カイトの記憶が正しければ——区役所があった。


 カイトの予想通り区役所に入った2人は、ロビーを抜けて「検査室」というなかなか物騒な名前の付いた札が貼られた部屋に入る。

 病院かな?

 部屋に入ると中には空港でよく見るセキュリティゲートみたいな機械が1台ポツン、と置いてあるだけだった。

 アスカはその機械に近づいて何やら操作し始める。しばらくすると、機械の上に付いていたランプが点滅し始めた。

「よし、おっけ。じゃカイトくん、これ潜ってみて。ゆっくりとね」

 カイトは言われた通りに心持ちゆっくりと潜る。

 潜っている間、アスカが「ん...?おっ......へぇ......」と何やらブツブツ言っているのが気になったが、カイトは聞きはしなかった。

「検査室」を出た2人はそのまま隣の個室に入る。そこは学校にあるカウンセリング室の様に机と椅子が1組ずつ置いてある部屋だった。あとは何もないガランとした部屋だ。

 アスカに促されるまま向かいに座ったカイトはそのままアスカの言葉を待つ。

 アスカは徐に姿勢を正し、

「さて、カイトくん。さっき検査室ってとこに入って機械に潜らせたでしょ?あれね、実はカイトくんの『能力』を判明させる為のものだったの」

「......能力?......僕は普通の人間」

「うん、現世では確かに能力持ちの人間なんてほんの一握り。でも、人は死んじゃうと何らかの『能力』を持っちゃう人達と、今まで通りの人達に別れるの。大体1:5の比でね。で、さっきカイトくんを調べたところ、君は能力持ちだって事が分かったの。その能力は、」


「『狐人』よ」


「......狐人?......なにそれ」

 狐、と付くくらいだから狐になる事が出来るだろうか。某超人気マンガに出てきそうな感じだが。

「『狐人』。まあ簡単に言えば名前からお察しの通り、狐さんになれる能力だね。でも、この能力はそれで終わりじゃないの。カイトくんは「獣人」って言葉を聞いたことあるかな?」

「......マンガとかである」

 最近ではそういう能力を持った人が主人公のマンガやらラノベやらが多いものな。

「『狐人』にはその『獣人化する能力』も付属してる。人間と狐を足して2で割ったような感じだね。で、その状態の時、また更に能力が追加されるの」

 アスカはそこで顔をカイトにグイッと近づけて

「所謂、魔法が使えるんだよ。凄くない?」

「......へぇ」

 カイトはあくまで冷静に返した。

 アスカは拍子抜けした様な顔で、

「.........もうちょい反応欲しかったなぁ。男の子って魔法って単語にときめくもんだと思ってたんだけど」

「......僕はあんまり」

 ただ現実味がないから、とは言えないカイト。

 アスカは気を取り直して再び姿勢を正し、

「こほん.........えっと、まあそういうことで、狐さんって「化かす」とか「化ける」の体現じゃん。というわけで、そういう系統の魔法が使えちゃうって事。ここまでで何か質問はある?」

「.........ない、かな」

 アスカさんが言ってる事は分かってるつもり。でも『能力』の類は、こればかりは実際にやってみないと分からない。

 アスカは満足げに頷き、

「じゃ、私からはお終い。付いてきて」

 そう言って立ち上がり、部屋の外に出る。

 カイトもそれに倣ってアスカに付いていく。

 階を上がり、右へ左へ曲がりながら区役所内の廊下を歩いていくと、アスカはある部屋の前で止まる。

 その部屋のドアに付いていた札には


「悔恨呪怨正式成敗公務執行部」


 見るからにヤバそうな名前が書かれていた。

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