地道な飯炊きはチートでした
それは俺が養っている巨狼フェンリルと妖精竜と人造スライム壱号がシリガルという街を訪れた時のことだった。
「アリだー!」
街の人々の叫びが辺りに木霊する。大量のモンスターが街に侵入していたのだ!
スパッ、スパッ、スパパパパパパパパッ――――。
そのモンスターの大軍が次々と切り捨てられる。
カチン。
白刃を煌めかせてモンスターを倒した人が剣を鞘に納めた。
「のりお先輩!」
俺はその人物を確認すると思わず叫んでいた。
「おお! えーっと、なんだっけ。確か……後輩の飯炊き男!」
のりお先輩は俺の名前を忘れていた。ショックだ。
「名前を忘れるなんて酷いじゃないですか! クリーム・シチューにコーンとか、ズブロッカの美味しさとかは、のりお先輩から学んだんですよ?」
「ああ、悪い悪い。ど忘れってやつだ」
ニコニコ顔ののりお先輩。
「それよりもこのシリガルの街はモンスターの群れに攻められててな」
これはあかん時期に訪れたものだ。
「そういうわけでお前も手伝え」
のりお先輩に言われた以上は断るわけにはいかない。こうして俺はシリガルの街攻防戦に参加するはめとなってしまった。
シリガルの街の西口からは魔物たちが上げる砂塵が確認できた。
目視できる数だけでも四千はくだらない。
対するこちらは、おそらく数百。この戦力差を覆して敵を無力化するには包囲するしかないだろう。
「待たせたな」
のりお先輩が街の冒険者を集めてきてくれた。
「モンスター相手に会戦を仕掛けたいと思います」
俺のアイデアを聞いた冒険者がどよめく。そしてスキンヘッドの冒険者が文句を言いはじめた。
「この戦力差で会戦だって? 冗談じゃねぇや! 街の連中を避難させるのが限界だぜ。俺達の中にも自分だけでも逃げたいって奴が大部分なんだからな」
「こいつは俺の――」
仲裁に入ろうとしたのりお先輩を制して俺は言った。
「それじゃあ、あなたには街に被害を出さずに魔物を殲滅させる戦術がありますか?」
「そりゃねぇし、だから逃げようって――」
「俺にはあります。あのモンスターの群れを前に、勝利を描く力があります」
その時、後方で情報収集の担当をしていた後方支援職が、戦況分析の声をあげる。
「彼我の戦力差、出ました! 冒険者、およそ300人。モンスター、およそ5000匹!」
場がどよめく。
「バカな考えはよすんだな。ハハハハ……」
冒険者が俺に対して力なく笑った。
「出来らあっ!」
「いま、なんて言った」
「よせ飯炊き男」
「300対5000で勝てるって言ったんだよ‼」
「そこまで言うなら会戦をやってもらおうじゃないか」
「え‼ 300対5000で会戦を⁉」
こうして俺達は平野部でモンスターの群れと野戦をおこなうこととなった。
戦闘開始はこのような配置となった。
敵右翼 敵中央 敵右翼
(空飛ぶ騎兵) (トロール) (蛇と馬のキメラ)
↓↓↓ オーク ↓↓↓
↓↓↓↓↓
↑ ↑ ↑
左翼 中央 右翼
(フェンリル) (人造スライム壱号)(妖精竜・のりお先輩)
冒険者達と俺
戦いは意外な形で始まった。人造スライム壱号が巨大化し敵中央主力に立ち塞がる壁となったのだ。
ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
そこから液体が次々と放たれオークたちに降り注ぐ。
「「「グォォォッ」」」
「「「ブモォォォッ」」」
液体がオーク達を溶かしていく。
スパッ、スパッ、スパパパパパパパパッ――――。
ズドッ、ズドッ、ズドッ、ズドッ、ズドッ―――。
スパパ――――。
ドシュッ、ドシュッ、ドシュッ―――。
右翼ではのりお先輩が剣を振う。妖精竜は火をまとって敵を倒しながら中央を包囲せんと中央の敵の背後を目指す。
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ―――。
左翼では巨狼フェンリルが風と共にモンスターを切り裂いていた。その時、敵の騎兵が空を飛んだ。
ドッゴーンッ、バリバリバリバリィィィッ―――。
それをフェンリルが雷で落とす。これによって騎兵たちもすっかり怯えたようだ。
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
数が多いだけに時間がかかる。俺も覚えたての下位魔法で援護しよう。
「ゆゆぽ! ゆゆぽ! ゆゆぽ!」
時空魔法によってモンスターが5000から500になったり5000に戻ったりする。
「ゆゆぽ! ゆゆぽ! ゆゆぽぉ!」
時空の歪みでオーク達が人造スライム壱号に自ら突っ込み自滅する。
「ゆゆぽ! ゆゆぽ! ゆゆぽ! ゆゆぽ―――っ‼」
物価が急変動したり皇帝と王様が混じったりするが気にしない。
「ゆゆぽ! ゆゆぽ! ゆゆぽ!」
2メートルが1メートルの倍じゃなくなるが構わずに俺は呪文を唱え続けた。
やがて物語はこのような推移した。
たれ&たれ
↓↓↓
たれ→ 謎の肉 ←たれ
↓↓↓
「「「「おかわりー‼」」」」
飯テロの完成であった。
市販タレを採用した料理・飯テロは、焼くだけで済むという最もお手軽な料理として、後世まで高く評価・研究されることになった。
時代を越える小説が、ここに誕生した。