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生き残れ侍男子  作者: 石楠花シャッター
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生きる為の選択

「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」


相も変わらず豪華な部屋で、豪華な椅子に座った女は踏ん反り返っていた。横には短躯肥満が相変わらず偉そうにして立っている。

前に俺が暴れたからか、甲冑共は人数を増やしており総勢十五名。心なしか以前より俺を警戒していやがる。


「さあ、使い魔となれ。あんな粗末な食べ物ではなく、もっと美味いものを食いたかろう。あんな豚小屋ではなく、もっと柔き布団で寝たかろう。使い魔となれ。願いを叶えてやろう」


「二つ聞きたい。使い魔とやらになるとどうなる。断ればどうなる」


「ふむ、答えてやろう。使い魔とは妾の忠実な僕にて兵士。妾には逆らえなくなるが、衣食住は保証しよう。使い魔となりて蛮族共を蹴散らすのが使命よ。そして万が一にもだが断ると……」


そう言って女は甲冑共に目配せをする。甲冑共は一斉に槍を抜き俺に突きつける。


「死、あるのみ」


やはりか。そうするとやはり……


「靴を、舐めれば良いんだな」


「おお。分かってくれたか。そう共、いや、舐めろとは言わん。軽く唇を靴に当てれば良いだけだ。さあ、早う」


女はわぁっと顔を綻ばせ、興奮気味に俺を手招きする。俺は女までの距離にある十段程の階段を重い足取りで一歩一歩踏みしめる。その間も甲冑共は俺に槍を突きつけ一緒に移動する。


ああ、やはりこうするしか無いか。


女の前に跪き靴に手をかけ顔を近づける。


と見せかけて諸手刈りで女を転倒させ、次いで横にいた短躯肥満を思いっきり突き飛ばす。

直様女の首を掴んで無理矢理起き上がらせ、背後から槍で俺を刺し殺そうとする甲冑共に突き付けた。


「槍を下げろ。女を殺すぞ」


俺は俺の為に生きる。それこそが俺の選択よ。

奴隷なんぞ死んだも同然。この女を人質に、俺は生き残ってやる。


「ラ、ゲラサドス!ゲラサゲラサ!」


困惑する甲冑共に先ほど突き飛ばした……やけに飛んだな。壁際で転がってやがる。その短躯肥満が何やら甲冑共に叫んでいる。その声を受けて矛先が下を向いた事から、下げろみたいな事を言ったんだろう。


一方女は白目を剥いて気絶していた。諸手刈りで頭でも打ったんだろう。騒がしくなくて良い。

しかし軽いな。片手で持ち上げられるとは思わなかった。


さて、言葉が通じない中で人質交渉はかなり難しいな。予定では女に通訳させるつもりだったが、仕方ない。


位置取りとしては階段のお陰で甲冑共よりやや上に立っている。扉は一つ。丁度甲冑共の真後ろか。


女を甲冑共の頭上へ放り投げる。受け取ろうと槍を放り捨て両手を広げた甲冑共。直様飛び上がり女を空中で再び捕まえ、甲冑共を足場にし宙空を駆ける。

地面に着地しチラリと後ろを見ると、足場にした何人かの甲冑は尻餅をつき、残りは俺を捕まえようと手を伸ばしていた。

そうはいくまい。扉までは残り約11m程をいっきに駆け抜ける。


しかし、やけに身体が軽いな。女が軽いという訳ではなく、俺の身体がやけに軽い。さながら韋駄天の如き速力に、鬼神の如き怪力でも手に入ったようだ。


二歩ほどで扉までの間を一気に詰め、勢いそのままに扉を蹴破る。

眼前に廊下が延々と伸びているが、生憎俺は地下牢までの道しか知らん。知らない屋内を闇雲に駆け回るのはハッキリと悪手だろう。

廊下には硝子窓が等間隔に並んでいる。かなりでかい窓だ。とするとやる事は一つ。


女を抱えたまま、俺は窓を突き破った。その先は何も無かった。意図せず空中に放り出されてしまった。


「うおおおぉぉぉぉおおお!?」


俺は馬鹿か。チラリとでも窓の外を見ればよかったと落下しながら後悔する。

くそう、俺は結局死ぬのか。南無阿弥陀。


直後足に大きな衝撃と、何かを突き破ったような感覚。足元を見ると、俺は屋根にめり込んでいた。


「死ぬかと思った……」


突き破った窓はここより約7mも上。よくぞ死ななかったぞ俺。流石飛行機乗りだぞ俺。漢だ俺。


一旦足を引き抜くため女を降ろし、ついでに周りを見る。ここはかなり巨大な建造物だ。造は煉瓦か、それとも石か。何かの資料で見た、西洋の城砦のような見た目だな。

さっきまでいた場所がどうやら最上階のようだ。しかし、今立っているこの場所でさえまだまだ高い。見晴らしが良い。眼下に広がるは城下町か。話に聞く伊太利亜の街並みとはこの様なものなのかもしれない。


「ポウ!ゲナーラ!ゲナーラ!」


頭上の声を見ると、短躯肥満が身を乗り出し俺を指差してやがる。それと共に横の窓から身を乗り出している甲冑が槍を構えている。

いや、まさか。


甲冑は槍を投げつけてきた。


「うお!?」


すんでのところで槍をかわす。人質に当たったらどうするつもりだあの馬鹿共。

とにかく早く逃げなければ、まだまだ槍は降ってくるだろう。俺は女と、ついでに横に刺さっている槍を抱えて屋根の上を走り出した。


くそう、俺は生き延びてやる。死んでたまるかよ。


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