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生き残れ侍男子  作者: 石楠花シャッター
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排他的魔法使い-3

蛇に飲み込まれるとこのような感じなのか。

ゆっくりと締め付けられ、徐々に呼吸が苦しくなる。真っ暗な中、俺は立っているのか、座っているのかも把握できない。

……頭がぼーっとしてきやがった。絞め落とされる。体が段々と痺れて……


意識を手放しそうになったその時だった。ふいに体が軽くなり、光が顔を容赦なく照らしてきた。目を開ければ澄み渡る青い空が。ああ、俺は倒れていたのか。しかし、良い空だ。


起き上がると、俺を守るようにポノラとメイ殿が立っていた。メイ殿は俺に手を向けている。そういえば俺の体の周りを光る何かが漂っている。


「メイ!何故だ!何故そいつを助ける!ああそうだった。操られていたのだ。だが操られていたとしても、俺の前で他の男の助けをするなんて、ああ、鬼め!そこの獣!愛し合う男女の仲を引き裂くのはそんなにも楽しいか!?」


叫んだのはゼッパランドだった。顔を酷くグシャグシャにし、恨みと困惑の眼差しでもって俺たちを見ていやがる。


「だから私は操られていないと何度も言っているかと。あなたとは愛し合ってもいないかと。それに助けるも何も、この方を巻き込んだのは私の浅はかな考えであり、助けられているのは私だと」


「私だってそんな趣味ないし、第一魅了の魔法なんて使えないし。それよりもノリユキは病み上がりなんだからあんまり無茶をさせないでよね。ノリユキが本調子なら、あんたなんて瞬きする間に終わるもん」


そんな眼差しに怯む事なく、二人は堂々と言い返した。

メイ殿にそこまで言われた事にかなり応えたのか、奴はヘナヘナとその場に座り込んでしまった。そして何かブツブツと言い出して、地面をガリガリと引っ掻いていやがる。糞、嫌な予感しかしない。


「ノリユキ!逃……」


ポノラが焦った顔で何か言いかけたが、それよりも早く奴に近付き奴の土手っ腹を蹴り飛ばした。

鞠のように高く飛び、大きな針葉樹のてっぺんに上手いこと引っかかった。ベチャリと嘔吐物ゲロが地面に撒かれ、怒りのまなこで俺を睨むと、程なくして意識を手放したのかダランと手足の力が抜けていた。

……殺してはいないはずだが、少し不安だ。


「ノリユキ!まだ終わってない!」


後ろを振り返るとそこに何かがいた。黒く淀んだ、人型の何かだ。子供ぐらいの背をしているが、何かとてつもなく邪悪なものを感じる。ヤバい。あれはヤバい。

それは手を広げ、まっすぐ俺に向かってきやがった。糞、病み上がりで紋様を二回も光らせたせいか、少しフラつきやがる。

あれの足は決して早くない。が、今の俺も決して早くない。フラフラに走る。あれは決して触れてはいけない何かだ。懸命に走り、何とかあれと少し距離をとるが、奴は全く一定の速度で迫ってきた。あれの走った跡の草は全て腐っていやがった。何なんだあれは。


「ノリユキ!こっちに!早く!」


ポノラが俺を呼ぶ。何とかそっちに向かうと六芒星が地面に描かれていた。楔は打ってないが、これは多分障壁を張るのだろう。


「ノリユキ、大丈夫?あれに触られてないよね」


「あれは何だ。何か、とてつもなく嫌な物だというのはわかるんだか」


「呪詛結晶体。触れれば死ぬ。腐って死ぬ。あれは対象を殺すまで決して消えることはないの。普通は手のひら程度の大きさなんだけど、あの大きさだと多分この村の人間を全部殺しても消えない。この障壁も、果たして何分もつかわからないよ」


糞、奴は最後の最後でとんでもないものを残していきやがった。触れたら死ぬだと?反則ではないか。

程なくしてこちらに追いついたあれは、ポノラの張った障壁にベチャリと引っ付いた。すると上の方の結界が徐々に消えていくのがわかる。透明だが何となくわかる。


「メイ殿、何か手立ては無いか」


こうなったら、巫女装束に頼るしか無い。しかしメイ殿は首を横に振るだけだ。


「まあまだメイは修行中の身だからねぇ。これ程の呪詛結晶体を相手にするなら、それこそ命を賭けても無理だろうねぇ」


「お祖母様!結界も張らずに呪詛結晶体に近づくのは危険かと!」


障壁の外、あれのすぐ後ろにはスターリッヒ殿が立っていた。手には大きなかめを持って、一体何をする気だ。危ないぞ。

スターリッヒ殿は甕をひっくり返し、中の液体をあれに被せた。すると若干だが障壁の消滅速度が緩まった気がする。次いでその甕をあれの前に置き、印のようなものを切り始めた。


「サイジャラ、サイデ、クルハラシルト、サイジャラ、サイデ、クルハラシルト……」


呪文のような言葉をつぶやき、右手をあれに向け空に手のひらで円を描き続ける。するとあれから黒い鱗のような物が剥がれ落ち、徐々に甕の中へと吸い込まれていった。

だが、あれはそんなことなどお構い無しといった様子で俺達の方をジッと見つめる。目なんてないのっぺらぼうなのに、視線を感じる。

一方のスターリッヒ殿は額に玉のような汗をかき、顔色も徐々に青ざめていった。

これは、スターリッヒ殿、果たして体力が保つのか?


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