(3)移動する旅人?
この世界に来てから100日くらい経過した。
その間、崖沿いに狩りをしながら、ひたすら移動を続ける僕ら12人。つい先日には、雪が降ってきて焦った。一晩で降りやんだので良かったものの、その一晩で10㎝近く積もっていたのだから。
本格的に雪が降り始める前に、何処かの集落に到着しないといけないとの意見に従い、僕たちは足早に崖の上から降りれる場所を探していく。
しばらくの間は、崖の上と下の地面とに高さが200m以上あったのだが、20日くらい前に100mほどの高さになり、今では15mほどの高さまで低くなってきている。しかしここいらあたりで、下にある地面に降りないといけないと判断する。
なぜならば・・・・・・・。
目の前(だいたい10㎞くらい先かな?)に、雲を突き抜けるかのようにそそり立つ崖が見えているからだ。崖のように見えているが、視界を塞ぐように伸びている事から、山脈なのかもしれないが・・・・・。
どちらにしても、ここから先には行きたくないと、体全体で拒否反応を起こしている。
「ここいらあたりで下に降りた方が得策か?さすがにあの壁との境目に滝があったら、徒労に終わりそうだ。なくても、あれを登り降りするのは、僕は嫌だな・・・・・。」
僕がそんな事を呟くと、その場で皆の足が止まり、崖の下を覗き込む。
ここいらあたりの崖は、垂直にそそり立っているわけではなく、なだらかな段差がいくつか続いていた。その先もなだらかな丘陵地になっており、草原地帯らしく見通しも抜群である。どれだけ離れているのか知らないが、はるか先には大きな町らしきものも見えている。
ちなみに今の僕たちの服装は、学園の制服ではなく、道中で見つけた蜘蛛の糸を使用した(クミコさん謹製の)服になっている。ブレザーやセーラー服は、見た目はいいんだけど動きずらいからね。見た目重視場所での着用ならば、あれほど重宝する服はないけど、今の僕たちのようなサバイバルな生活だと、あれほど不便な服はない。
そういったわけで、真っ先に蜘蛛を狩った僕たちは、その糸で服を作ってもらったんだ。布連の加工スキルを持っていた、クミコさんによって。一応それぞれの希望に沿った服になっており、(原色のみだが)何とかして染色できたため、結構色とりどりな服装になっている。
なお、その過程で狩った動物の皮は、それはそれで立派な防具になっている。革関連の加工スキル持ちである、ナオトの手によって。
「とりあえずのところ、この崖を降りたら、その先の丘陵地帯を抜けてその先にある森の中に入る。そして、森を抜けた先にあるあの集落に行くのが、当座の目標でいいのか?」
「・・・・・・まあ、そうなるな。森の中は、方角を見失いやすいからな。何とかして街道くらいは視つけたいところだが・・・・・。」
コウジの問いかけに、ルートを頭に描きながら答える僕。方角を見失う確率が高い、森の中を突っ切るルートは、最終手段にしておいた方が得策である。
「・・・・・そうなると、あまりお勧めしないが、あそこに見えている川沿いを進んだ方がいいのか?」
川ルートを提案したのは、ナオト。
少し先・・・・ちょうど丘陵地帯と森との境目あたりに川が流れている。その川は、ここから見た感じ、先ほど発見した集落の近くへと流れが続いているので、遠回りになるとは思うが、一番確実に集落へとたどり着けそうだ。
「しかし・・・・・・、川沿いルートは雨が降ると怖いんだよな。急激に水かさが増した場合、逃げ場がなくなる場合がある。」
「・・・・ああ、それはあるな。考えてもいなかった。」
川ルートを提案したナオトは、僕の否定する意見に、その事は考えていなかったと謝罪する。それぞれのルートには、メリット・デメリットが存在しているだけだ。その中で、現状最も有効的なルートを選ぶのがいいと思っている。
「しかし、森と突っ切っていくのなら、川沿いを歩いて行った方が楽なのは確かだな。下流へ下流へと進んでいけば、必ず街道なり集落なり発見できるだろうし。
・・・・・・あとはそうだな。
雨が降った後に歩くのがいい気がする。そうすれば、最低限増水している間は、何処まで水嵩が増えるのかの判断がしやすい。」
そんな崖を降りてから事に時間を費やす僕たちに、クミコさんが一言現実に引き戻す言葉を発した。
「そんな先の事は、今はどうでもいいと思うな。取りあえず、この崖を降りちゃいましょうよ。対ry苦的、スキル手にに出来ない人もいるから、結構時間かかると思うよ?」
クミコさんは、鉛色に覆われていく空を見ながら、崖を降りてからにしようと提案する。確かに、あの雲がここまで来てしまったら、崖を降りるのも倍以上の時間がかかってしまう可能性がある。
「ロッククライミングかあ、・・・・。ロープはともかく、カラビナとハーネス・・・・・・、あとはハンマーか。最低でも、この4点セットがないと危険を伴うぞ?
ここにいる全員が、15mほどの高さの崖を飛び降りる事は出来ないからな。」
僕は、全員を見ながらこれから行う事の確認をする。
ロッククライミングするのは構わないが、全員が全員その技術を持っているとは限らない。そういった趣味がある者か、初見でもなんとかしてしまいそうな生徒会長たちならともかく、現状のメンバーではそれも望むべき事ではない気がする。
ちなみに僕は、趣味の一環でロッククライミングはやった事がある。なお、ロッククライミングの4点セット(僕が勝手に決めたモノで、実際そうだとは限らないが)については、各自が持っていたスキルによって、無理やり造り出してこの場にある。というか、カラビナとハーネス、ハンマーについては、こういった事が起こると予想していたノブオ(金属加工職)とシンヤ(木工加工職)が作ってくれていた。
何処かで、崖を降りないといけないと、あらかじめ予測していたみたいだ。
「まずは、下までのルートを確保しないとな。とりあえず、経験者である僕とコウジがルートを確保してくる。僕たちを除いた経験者であるヨシハルとノブオとは、上で待機しておいてくれ。そして下に降りるのは、一番最後にしてくれるとありがたい。」
「ああそうだな。経験者が、下と上にいた方がいいな。」
こうしてある程度の段取りを決め、早速ロッククライミング開始である。こうして3時間ほどかけて、12人全員が下に降りる事に成功したのだった。
その後、崖の下に広がる草原を、2時間ほどかけて森に向けて踏破する僕たち。森と草原の境目あたりで夕方になり、今日はその境目から少し森に入ったところで野営をする事にする。
ちょうどよさげな大木の根元にある穴倉を発見したので、その中に入って就寝する。煮炊きについては、大木の外で行うが、寝床は根元にある穴倉だ。
夕食を食べた後に、不寝番の順番を決める。
「・・・・そういえばさあ~~~。」
何やら言い淀むクミコさん。何か深刻そうな顔つきではあるが、諦めているような顔もしている。
「何かあったかい?クミコさん?」
「私たちってさあ、この世界に来てから、一度もお風呂に入っていないよね。魔術によって、体とかはきれいに保っているけどさ。そろそろ、お風呂に入りたいなあとは思っているわけですよ。」
ああ・・・・・、お風呂ね。
サバイバル生活をする以上、真っ先に諦めたモノでもあるけど、やっぱり日本人としてはそろそろお風呂に入りたいよな。
「湯舟は、俺が何とかできると思うぞ。幸いにも、湯船に出来そうなものは大量にあるしな。」
お風呂についてどうしようかと考えていると、木工加工スキル持ちのシンヤがこう提案する。確かにここは森なので、生えている木を加工すれば、湯船の1つや2つは出来そうだ。
「・・・・そうなるとお湯の確保は、私とミチザネ君がいるから、魔術で何とでもなりそうだよね。」
魔術師でもあるトキコさんが、僕も考えていたお湯の確保についての提案を出す。
「・・・・・そうだね。ちょうど男子と女子だから、湯船を2つ作れば、男女で同時に入る事ができるよね。」
トキコさんの提案に、男女別に別れる事を提案しながら賛同する僕。
「じゃあ、作るか。お風呂。」
という事で、急遽お風呂製作を始める僕たち。寝床近くにある適当な大木を切り倒し、湯船を2つ製作。その中にお湯を張って男女別にお風呂に入る。製薬関連で錬金術を嗜む僕は、そこらにある植物素材からシャンプー・リンス・石鹸を創り出して、男女別に配置する。
こうして、何十日かぶりにお風呂を堪能した僕たちは、心身ともにリフレッシュできたのだった。
翌日。
森の中には入らず草原との境目を、目の前の視界を塞ぐ山脈の反対側へ行くように歩いていく。3日目のお昼くらいに、川に沿って走る街道を発見する。
「さて、問題はどっちに向かったら、見えていたあの町に向かう事ができるかだけど・・・・・・。」
「ここはあれで行こう。」
僕の呟きにクミコさんが、何処からともなく取り出した木の棒を地面に突き立てる。
「間違っていても、文句は受け付けないよ?」
そう言ってから、棒の端っこに添えていた手をゆっくりと離す。
街道を見つけて3日後の夕方、僕たちは、高い城壁に囲まれた町の門の前に来ていた。門の前には町へと入る行列ができており、ゆっくりと進んでいる。僕たちも、その行列の最後尾に並び、周囲をキョロキョロしながら入城の順番を待つ。
「そういえばみんな生きくが、今僕たちの周囲で話されている言葉が解るか?そして、周囲にある文字を、読む事ができるか?
ちなみに僕は、言葉はなんとなく理解できるが、文字は読む事は出来ない。たぶん、書く事もできないと思う。」
周囲を観察していた僕は、ふと気が付いた事を周囲の面々に確認する。
僕に関して言える事は、皆に確認したついでに話した通り、言葉自体はなんとなく理解できているが、文字は読む事ができなかった。
文字が読めないという事は、文字が書けないと同義である。
文字自体は、お手本があれば書く事は可能だろうけど、それはただ書けるだけである。それがどんな意味を持っているのか知らない以上、”文字の読み書きは出来ない”という事である。
僕の問いかけに、皆はっとした顔になって、周囲に聞き耳を立てならが、そこら辺に溢れている文字らしき記号を流し見する。
その結果、12人中言葉も文字も理解できている人材は、・・・・・セイカさんただ1人のみ。
話を聞けば、『光莉ちゃんパーティ』と呼ばれている、総勢12人の男女混成パーティのメンバーの1人だったため、そのリーダーであった我らが生徒会長(今は元を付けた方がいいかもしれないが)ヒカリちゃんに言われて、例のゲーム内で言葉と文字の特訓をしたそうだ。
それが、今この時になって威力を発揮しているらしく、12人の中で唯一両方とも理解できている人材となっている。そのため、通訳をお願いした。
そして、片言でもいいので、言葉のみ理解できている人材は、僕・キョウカさん・ナオト・トキコさんの4人。全員、何らかの魔術を使用出来ている者ばかりが言葉を理解できているが、何は変な法則でもあるんだろうかと少し考えてしまう。
そして、それ以外の面々は、言葉も理解できていなかった。
「これは、早急に言葉と文字の読み書きができるようにならないと、・・・・遠からず詰むね。」
誰かのこの一言で、僕たちのパーティ内における優先順位が一気に変化した。
つまり、この町で生活基盤を整えつつ、早急に文字の読み書き及び、この町周辺で使用されている言葉を覚えないといけないという事だ。
文字の読み書きができないと、何処で不当な契約書にサインさせられるか解らないし、また大事なお触れが張り出された場合も、その内容を確認する事もできない。言葉が解らなければ、日常生活にも支障が出てくるだろう。
そんな事を日本語で確認し合っていると、僕たちの後ろに並んでいた冒険者風の男から声をかけられた。
「お前たち、『異界からの来訪者』か?」
その言葉に、先ほど決めていた通りにセイカさんが受け答えをする。
「異界からの来訪者って何ですか?」
「やはりそうか。『異界からの来訪者』って言葉が理解できない以上、お前たちはそうなんだな。よし!俺たちについて来い。」
そう言うや否や、男は自分たちの仲間を引き連れ、僕たちをドナドナしながら列の最前列へと連れていく。そして、門番に一言。
「さっき、この列に並んでいた『異界からの来訪者』を発見した。手続きを頼む。」
「お前らが、そこの12人の身元引受人になる予定か?」
「ああ、そのつもりでいるが・・・・・こいつらには、そのあたりの事情も知らないからな。」
「わかった。お前たちも一緒についてこい。」
そんな会話が男と門番との間で繰り広げられて、そうして行列を無視して僕たち12人は、保護?したらしき男のパーティメンバーと共に門の中へと通されていく。
何がどうなって、こんな事態になっているのか・・・・・。誰か、説明プリーズ?
僕たち12人の意見が、一致した瞬間の出来事だった。
・・・・・そういえば、僕たちが並んでいた周囲の人たち。なんだかちょっと悔しそうな顔つきになっていたような気がする。




