(3)月初の大祭(その1)
そうしてこうして、3人の聖女様が爆誕した翌日。(この世界の)暦の上では、NMDC23667年7月40日の事。
季節は乾季のど真ん中で、晴れた暑い日差しが降り注ぐ真夏。はるか先まで続く西の大地に、太陽神アマテラスの化身である太陽が沈むまであと1時間ほど。
聖女様となった3人にとっては、産まれて初めて主役となって行う神事が今始まった。
神殿内にある禊の聖殿において、聖水に満たされた泉に浸かる3人の聖女様。
1人目は、治癒と回復を司り、太陽神の眷属神で病治3神の1柱でもある治癒神『メディサリーヌ』の聖女・マナミ様。
2人目は、魔術の根源を司る無明母神の眷属神で、新旧問わずすべての魔術を管理する魔術神『イシスアマト』の聖女・マコト様。
3人目は、遍く液体を操り天と地を回る『水』を司る、自然界の循環を支え、破壊神と重力神の体の一部から創れたとされる神である生命母神(水の神)『ウンディーネ』。そして、凍てつく大地を守護する冬の3女神の1柱で、生命母神の眷属神である氷神『へカテリーナ』の2柱の聖女・テレサ様。
禊を行った後3人の聖女は、神から賜った聖なる修道服にその身を包み、ペンタスト神殿の屋上に神殿の面々と共に昇る。そして、屋上の西側に作られた祭壇(何処の教会や神殿にも、屋上の東側と西側には祭壇が設置されており、毎日行われる日の出と日没の神事に使用されている)の前で、果て無く続く西の大地へと沈みゆく太陽神を待つ。
”ゴ~~~~~ン、ゴ~~~~~ン、ゴ~~~~~ン、ゴ~~~~~ン、ゴ~~~~~ン、ゴ~~~~~ン”
教会の鐘が、日没の時間を知らせるため6回の鐘を突く。
その日没を知らせる鐘の音が鳴りやみ、太陽の半分が大地に沈むころ、厳かに始まるのが『月初の大祭』の神事の1つである『月終の落日祈祷』である。
ちなみに、この世界の日の出は『太陽が完全に地平線から出た時刻』であり、日没は逆に『太陽と地平線が接した時間』となる。
小難しい古代語の言い回しで、夕日に向かってその月の平和と安寧が無事に迎え終了できた事を、太陽神アマテラスに祈りを捧げ感謝する祝詞を唱える聖女マナミ様。その傍らでは、神器である黄金色の提子を持つ聖女マコト様と、三方に載せられた聖杯を持つ聖女テレサ様。
途中古代より続く儀礼に則り、様々な礼をしながら、都合20分ほど祝詞を詠み上げた聖女マナミ様。詠んだ祝詞は、そのまま魔術でいうところの詠唱となり、言霊に乗って町中へと薄く広がっていく。
祝詞を詠んだ後、聖女テレサ様から聖杯を受け取り、聖女マコト様が提子から注ぐ聖酒を、儀礼に則り飲み干す聖女マナミ様。その後順に、3人の聖女が注ぐ聖酒を飲み干した後、その場にいた神官たちに聖酒が聖杯と共に配られていく。
続いて、神殿裏にある建物に移動する。
その建物内にあるホールでは、綺麗に着飾った老若男女が、今か今かと主役が来るのを待っていた。そんな中に、俺とケンジ、そしてアマルーダさんと領主一家の面々が、同じテーブルについて、同じように主役3人を待っている。
このホールで行われるのは、『月終の謝肉祭』と呼ばれている月初の大祭の関連行事なのだが、ぶっちゃけてしまえばただのパーティーである。もちろん、特権階級だけが参加するようなパーティーではなく、一般市民も参加できるのだが・・・・・・。
ドレスコードがあるので、それなりにお金持ちしかパーティー会場へは入れないのは仕方がない。しかし、お金持ち以外の一般市民たちは、神殿の外で振舞われている料理やお酒を、無料で飲み食いできる事になっている。
『1ヶ月間無事に過ごす事ができた事を、神々に感謝し当日朝までに奉納された食材を使用した食べ物を食べてどんちゃん騒ぎしましょう』という趣旨の行事なので、基本この日だけは、町中のすべての住民が参加しての大宴会となる。
当然、奉納された食材だけでは足りないため、実際はその町や村を治める領主や貴族が、残りの食材を負担する事になっているわけだ。又、朝まで大宴会と謳っているが、基本的に日付が変わる頃に行われる神事『月神神事』が始まる頃には、この大宴会も終了となる。
「しかし、昨日の今日で、よく準備ができましたね。」
俺は、自分とケンジの服装を見ながら、そんな事を隣で座っている領主様事、マルコネル=ペティ=センダレス様に聞いた。なお普段は様付けではなく、マルコネルさんと呼んでいたりする。妹がテレサちゃんならば、自分も様付けはいらないと。たぶん、領都・テアステリアにいる両親や、一番上の兄上家族も、こうなる事が予測できるとはマルコネルさんの談である。
そして、奥方と子供についても、様付けはいらないという事で、テレサちゃん同様、お屋敷内でのプライベート空間では従者や侍女も含めて、現在様付けしている人はほとんどいない。
まあ、それはいいとして・・・・・・。
「なにがだい?」
と、マルコネルさんが聞き返してきたので、こう答えておく。
「いやね。マナミちゃんとマコトとテレサちゃんが、聖女になったのは昨日の夕方ごろでしょ?もともと貴族令嬢であるテレサちゃんはともかく、俺たちを含めた4人はこうなる事はその時はまだ分かっていなかったはず。それなのに、当日になっていきなる呼び出されて、夕方にはすでに4人分の礼服が出来上がっているんですからね。とても驚きました。」
テレサ様の事をテレサちゃんと呼んでしまったのは、すでに本人含めて承諾済みの事柄である。テレサちゃんが貴族令嬢だと知っているのは、実は一部関係者のみであり、ここにいる面々のうち1割も知っていればいい。それ以外は、ポッとでの一般市民で、それもド田舎で教会もない村出身と思われている。たまたま、15歳になって、親とともに神殿に来た際に、聖女認定されったのだろうと思い込んでいるのだ。
元々病弱で、あまり公の場に出ていなかったことが幸いしている感じで、今のところ『結婚してください』という人種が出てきていないのも幸いしている感じである。
つまり、この辺境伯領の領主様のご令嬢でありながら、その容姿については知られていないのだ・・・・・・、テレサちゃんは。
そんな感じで、俺たちがテレサちゃんを『ちゃん付け』で呼び合っていても、まさか領主様のご令嬢の事をちゃん付けで呼んでいるとは、誰も思っていないのだ。テレサちゃん自身も、そう呼ばれる事に拒否反応も示しておらず、かえって新鮮なようで楽しんでいたりする。
今では、屋敷の人間でさえ、8割以上が(残り2割は、家族はもともとの従者たち)テレサちゃんであり、テレサちゃん自身がそう呼んでほしいと話しているため、誰も指摘する事すらなくなってしまっている。
閑話休題。
「ああ、服装の事かい?今回のは、既製品を購入して簡単に手直ししているが、次回はオーダーメイドを用意するつもりだよ。ちなみに、テレサが着ているドレスも既製品だな。」
「次回・・・・・・ですか?」
「そう、次回だ。軽い運動くらいならできるようになってきているが、長距離移動はまだテレサには無理だろう?ここから領都・テアステリアまでは、馬車で移動して約半月ほどかかるからな。もう少し体力がないと、長旅は無理だろう?」
確かに、できるかできないかを言われれば、無理だと答えなければならない。
テレサちゃんの容態の事は、主治医であるマナミちゃんが管理しているが、『もう少し体力を付けないとね。あとは、最低限自分の事は、自分で守れるくらい強くならないと、長旅の許可は出せません』と言っているからね。
それからあとは・・・・・・。
「テレサちゃんの事よりも、俺たちのパーティの移動手段の問題もありますしね。ここと領都・テアステリアまでは、数日おきに商隊が出ているから、それを護衛すればどうにかなるとは思いますが、やっぱし自由に移動するには、馬車を購入して俺たちの誰かが御者をやらないといけませんし。」
現在俺たちは、いろいろと長旅をするための準備を行っている。
馬車の購入と改造・・・・・は、テレサちゃんが乗っていたあの馬車を譲り受ける事で話は済んでいる。あの馬車は、はっきり言ってしまえば、この世界と地球の技術を融合させてでっちあげているからね。
当時はただ、この町まで動けばいいという事で適当にいろいろとくっつけていただけだが、今では別の何かに化けてしまっている。長旅の話になって、あの馬車を譲ってくれる(実際は通常価格の1割程度で購入したんだけど)事になり、それならばといろいろと魔改造を施していったんだよね。俺とケンジ、マコトの手によって、い・ろ・い・ろ・と・・・・・・。
で現在では、馬車の形をした大型観光バス・・・・・を改造した大型キャンピングカーみたいな事になってしまっている。
そんな事を話しながら時間を潰していると、修道女の1人が俺たちのテーブルに近づいてきた。
「聖女様方の準備が整いました。エスコートされる方は、私に続いて会場の外に来てください。」
マナミちゃんたちの準備が整ったみたいだ。
エスコート役である俺とケンジ、そしてマルコネルさんは、修道女の案内に従って、会場の外へと歩いていく。扉の外には、綺麗に着飾ったマナミちゃん、マコト、テレサちゃんが佇んでいた。
それぞれ長い髪を後ろに流し、一部を編み込みで纏めている。ティアラなどの髪飾り系はしていないが、ネックレスなどの胸飾り系は、少し豪華なモノを付けていたりする。実はこれ、マルコネルさんの奥方から借りているモノで、各自のドレスに合わせてデザインや使用されている宝石などが少し異なっていたりする。なお、3人が着用しているドレスだが・・・・・。
マナミちゃんのドレスは、薄い水色を基調としたドレス。
マコトのドレスは、薄い紫色を基調としたドレス。
そしてテレサちゃんは、薄い緑色を基調としたドレスで、3人とも所謂Aラインと呼ばれているデザインのドレスを着用している。
「皆が待っているからね。早速だけど、エスコートさせてもらうよ、テレサ。コウタたちは、僕の後ろについてくればいいよ。エスコート方法も、僕と同様にしていれば問題ないからね。」
「よろしくお願いします。兄上。」
「それでは、そのようにさせていただきます、マルコネルさん。こういった場での(この世界においての)礼儀作法等は、俺たちは詳しくありませんし、練習する時間もありませんでしたので助かります。何かと失敗してしまうかもしれませんが、その際はよろしくお願いします。」
俺は4人の代表として、マルコネルさんに話を通す。何故か俺がこのパーティ『り・あ・じ・ゅ・う』リーダーになってしまっているみたいで、こういった交渉事では俺を中心に発言する傾向がある。
「細かい所作に多少の差異はあるけど、基本的なマナーは君たちが行っているモノで大丈夫だよ。何処で習ったのか知らないけど、とてもきれいな食事マナーだよね。」
「俺たちのマナーについては、地球で上流階級のトップあたりにいた、同級生の女の子から厳しく指導されまして。実はここにいるマナミちゃんも、地球ではとても有名な女の子でしたしね。」
「有名とは?」
「地球の世界において、3大宗教と呼ばれていた宗教団体のトップから、持っていた力が所以で聖女様認定を受けていました。聖女様は、こちらに来ても同じですけどね。」
「・・・・あのう・・・・・。立ち話もよろしゅうございますが、時間が押しております。」
申し訳なさそうに抗議してきた修道女に対し、俺たち6人は謝罪の言葉を述べてから、会場へと入場する準備をする。
ちなみにこの世界・・・・というか、ここコロラド王国のエスコート方法は、男性が右手に、女性は左手に並び、真っ白な手袋を水平に持つ男性の左手の腕に、そっと女性が寄り添う感じで腕を絡ませる。腕を絡ませた情勢は、右手で同じように純白のグローブを水平に持ってエスコートの姿勢の完成である。なお、手袋やグローブは、ただの小物なので直接その手に填める事はなく、与えられた席に案内された後は、そのまま案内してきた従者(今回の場合は修道女)に手渡す事になる。
細かい姿勢のチェックを指導されたあと、大きく扉が開いて、会場の中へと歩みを進めていく俺たち。
マルコネルさんとテレサちゃんを先頭に、俺とマコト、ケンジとマナミちゃんの順で入場していく。
こうして俺たち4人にとっては、この世界において初めてとなるパーティーが幕を開けたのだった。その後の事は、あまりの緊張のためよく覚えていない。
というか、気づいたら次の神事の時刻になっていたのだ。




