【05-10】攻略の合間に(その1)
さて、いったんダンジョンの外に出てきた私たち。
まずは、砦に立ち寄って今日は何日かと尋ねると、『NMDC23667年9月10日』という回答を得る事ができた。ちなみに時刻は夕刻である。ダンジョンへと入れば、時間の間隔が狂うの当然の事なので、こんな一般常識みたいな事を聞いても、誰も驚かないのだ。
ダンジョンに入ったのが9月3日の朝で、ダンジョンの中で10日間ほど過ごしていたが、外ではまだ7日間しか経っていない計算である。
今日のところは、砦内に部屋を借りて一夜を過ごし、翌日の朝に馬車のある街道の合流点に向かう。この7日間で既に街道まで道が出来上がっており、ダンジョン前には家が建てられるほどに、村の開設工事がはじまっている。
雪が降り続いている中、ご苦労様です。
私も村の開設工事を手伝ってあげたいところだが、未だ街路工事すらできていないので、それが終了したら手伝ってもいいかなあとは思っている。
まあ、それはいいとして。
朝食を摂った後、新しく出来上がった道を徒歩で街道まで歩き、昼過ぎに馬車の乗ってオークド村へ向けて馬車を走らせる。
「この距離だと、宿屋だけでも先に作れば、ダンジョン村(仮)とオークド村までは、1日でなんとか行けますね。」
「・・・そうだな。今日みたいに天気が良かったら、何とか1日と言ったところだな。しかし、ここは山の中だからな。いつ天候が崩れてくるのかもわからん。・・・・・・と言っているそばから、雪が強くなってきているしな。」
現在、街道脇にある広場で野営中。
ダンジョン村(仮)を出てここまではあまり雪も降っておらず、なんとか馬車を走らせる事もできた。しかし、この広場について1時間ほど経った頃から、本格的に雪が降りだしてきたのだ。
「とりあえず、宿泊所的な家でも建てましょう。このままでは、凍え死んでしまいます。」
そう言いながら私は、広場の片隅に即席の家をでっちあげる。
さらに翌日。
宿泊所?から外に出ると、そこは一面の銀世界。昨夜一晩で、50㎝近く雪が降り積もり、馬車移動ができない状態である。昼まで待機をしたが、雪が解けるどころか、さらに降り積もっていくありさまである。
こんなところで足止めを喰らうのもあれなので、サクッと転移でオークド村へと帰還する私たち一行。私が新たに造った場所からは雪解けもある程度済んでいる模様で、街道の石畳が見えている状態である。まあ、雪が降り続いているので、すぐに積もっていくみたいだが。
これは、何か新しい対策がいるなあと、心の隅にでもと染めておく。この辺りの対策は、雪退けを仕事としている冒険者たちの事も考えないとね。
冬場の貴重な収入源だからね・・・・・雪退けは。
オークド村へと、そんな事を考えながら入城し、中心にある砦に入る私たち。そこで、リキュードさんと面会し、10階層までの中間報告を行う。
「とりあえずこれが、10階層までの詳細な地図の複製です。こちらが、原本になります。
壁などがいきなり移動するといった事はなかったので、通路などがいきなり変更される事はないと思います。それからこの袋には、10階層までサンプル採掘や採集したモノが入っています。地図に振られている番号の場所が、この袋に振られている番号の場所になります。」
そう言って見せたのは、マキが一生懸命マッピングした10階層までのダンジョンマップである。
サンプルとしてあちこち掘った場所も記載されており、それと同じ番号が振られている袋もついでに渡しておく。あちこち採掘や採集をしているので、袋の数だけでも300近くあるし、中身も詳細に鑑定していないので、どんなモノがあるのかもいまいち理解できていない。
そのあたりの事は、リキュードさんに丸投げしてあるのだ。
「ありがとうな、ヒカリちゃん。これについては、こちらで鑑定しておく。ダンジョンマップの方は、適正価格で買い取らせていただく。3日後以降に、この札をここのギルドに提出すれば、とりあえず10階層までの調査報酬とともに渡せれるように手配しておく。」
こうして、ダンジョン探索の中間報告をいろいろとしていく私たち。その後は、この村の今後についても話し合われていく。
その際、来年の雪解けを待ってここは、『オークド村』から、『オークドの町』へとランクアップするそうだ。これはすでにムハマルド辺境伯領の領主様からの正式な決定事項となっており、リキュードさんの領都招聘をもって正式に発布される事になっている。
今回の魔物大暴走によって、(私の魔術によるところが大半だが)オークド村周辺の土地が穴だらけとなり、それを埋め戻すのと並行で、周囲を開拓して村の面積を広げる計画となっている。つまり、私がダンジョン攻略の前に行った河川工事の場所まで広がるのだ。
そのため現在、埋め戻し工事と並行して、区割り工事も行っているのだが、本格的に降り出した雪の影響で、本年度の工事はすべてストップしたらしい。
「そうなると、ここで食料調達は無理そうですね~~~~~。」
「ああ、無理だな。すでに流通もほとんどストップしているからな。この冬を越せれるだけの生活物資は何とか確保できたが、君たちに分け与えれる食糧は限られてくるぞ。」
私の問いかけに、リキュードさんがこう答える。
なお、食糧増産の予定はあるみたいだ。例の回収したダンジョンコアを、現在砦の中庭に定着させており、管理型の人口ダンジョンを作製中との事。このダンジョンの中に畑を作って、食糧の増産体制を確立させるそうだ。しかし、ダンジョン定着までに1カ月前後かかるらしく、その後作物が収穫されるまで約1ヶ月。その2カ月前後の食料品の確保が急務との事。
「・・・・そうなると、サクラピアスまで転移で戻って、私たちの食料品を確保しないといけませんね。」
「そんなに長距離の転移が可能なのかい?ヒカリちゃんは?」
私の呟きに、いきなり食いついてきたリキュードさん。
「は・・・・・・、はい、私が行った事がある場所なら、ダンジョンの中以外何処でも転移できますよ。しかし私は、この能力は自分自身のためには使いますが、他人のために使う事はありませんよ?
理由は、それを生業としている人たちの職を奪う事になるからです。
また、(現状私が知っている限り)私にしかできない事なので、私がいないと成り立たない事はやらない方が得です。・・・・まあ、正当な料金を頂ければ、話は別ですがね。
後、転移の事は、サクラピアスのお役人さんと神殿関係者・・・・どちらも上の方にいる方たちには話してありますが、先ほど言ったとおり、私を当てにするなと厳命してあります。」
私の言葉に少し考えてからこう聞き返してくるリキュードさん。
「ヒカリちゃんの話していた事は理解した。確かに、ヒカリちゃんありきで物事を考えると、ヒカリちゃんに何かあった場合どうにもできなくなるな。
それなら私も、ヒカリちゃんの事は頭の片隅にでも留めておくとして、普段はいないものとして考えよう。今回のようにダンジョンに潜っていて、連絡不能な事もあるからな。
ところで、正当な料金と言っていたが、その料金設定はどうなっているんだい?」
『料金を取る』をつついてきましたか。条件さえ整えば、依頼を受けても構わないと言っているようなモノだからね。『料金を取る』という話をしているのは・・・・・。
『そうですね。例えばですが、サクラピアスからオークド村まで、何かを輸送するとするならば、輸送する者にもよりますが、最低運賃が100~200万テラ前後掛かりますよね。」
「ああ、その位かかるな。その時々の条件に左右されるが、片道20~50日はかかるからな。」
今回私たちは、サクラピアスを8月5日の早朝に出発し、オークド村には8月36日に昼過ぎに到着している。合計31日間、・・・・・約1ヶ月ほど拘束しているので、運送料金は高くて当然である。
しかし、私のこの転移魔術と【アイテムボックス】を使用すれば、瞬時に・・・・それも大量に品物(人の移動も含む)を移動させる事が可能なのだ。
本来ついで仕事として廉価に受けてあげたいのだが、それをすれば、先ほどから言っている通りに、『私がいないと成り立たない』。そして、『運送業を生業としている人たちの職を奪う』からだ。
こんなくだらない事で、恨みを買うのがごめんである。
どうせ恨みを買うのなら、もっと大々的に、広範囲(攻めて国1つ分くらいのエリアは欲しいところ)に事業化するまで取っておきたいのだ。
「・・・・そうですね。サクラピアスでの設定料金は、持っていく量や品物に関係なく通用料金における最高額の10倍となっています。今回の場合は、サクラピアスからオークド村までの雲量料金の最高額が、たしか・・・・・・250万テラだったはずですよね?」
「・・・・・そうだな、一番高額の運送料金は250万テラだ。確かその値段で運ばれて来るのは、奴隷50人分の輸送料金だったはず。
という事は、この250万の10倍、2500万テラが、ヒカリちゃんに頼んだ際の輸送量となるわけか。」
「そういう事になります。」
奴隷が最高額の輸送商品なのは、奴隷自身の値段ではなく、ただ単純に食料と寝床の問題だからだ。奴隷と言えども、一部の奴隷を除き必要最低限の人権は確保されている。詳しい話は割愛するが、とにかくこれを確保するためにはおカネがかかるのだ。その分も含まれての、この値段設定なのである。
それはともかく。
リキュードさん。は、私がサクラピアスで食料を確保するついでに、オークド村までの食料を含む生活必需品の輸送依頼をしてきた。2500万かかっても、冬を越す物資の余裕は確保しておきたいという話である。そのため、私の用事が終了した段階で商業ギルドによって、依頼物資を運ぶ手はずになっているのだ。
なお、話は通しておいてくれるらしい。
そこらの商人さんたちの依頼ならば、踏み倒される心配があるので前金でいただくのだが、腐っても村長さんであるリキュードさん。踏み倒そうものなら、村長資格の剥奪はおろか、犯罪奴隷に落とされる事になるので、その心配はないのである。そのため、後金でも依頼を受ける事ができる、安全・安心な取引先でもあるのだ。
閑話休題。
取り合えず今日はもう遅いので、オークド村で1泊する事にした私たち。泊まる宿はすでに決まっている(鮮血の雷の面々が泊まっている宿屋)ので、そこまで村の中を冷やかしながら戻る私たち。
2日後。
鮮血の雷の面々と、私達ご主人様とメイドさんの面々が揃って、サクラピアスへと(私の)転移魔術で帰還する。2日間時間を置いたのは、ちょっとした実験を行うためであり、大きな意味はない。
その足で総合呉服商店『ミツバクレイミール』、つまり私たちの実家へと戻り、3日ほどかけていろいろな用事を済ませていく。
どうせすぐに商業ギルドに行っても、商品が揃っていないのだ。リキュードさんも、それを見越して10日間ほどゆっくりしてくるといいと言ってくれておる。
で、9月25日のお昼頃に商業ギルドへと足を運んだ私。お昼頃なのは、朝は何かと忙しいからである……ここは。
リキュードさんさんからもらった木簡を、受け付けの女の子に手渡して10分ほど待つと、商品が集められている倉庫に案内される。
何を運ぶのかは聞かされていないため、今の今までどんなモノは集められているのか知らなかった私。
倉庫に集められていたのは、食料品や生活雑貨などの生活必需品の他、奴隷を乗せた馬車が4台(男女別に、1台当たり10~15人ほど乗せられている)と、コロラド王国ムハマルド辺境伯領サクラピアス所属の第1級裁判官と名乗った5人の男女。そして、辺境伯様の勅書を携えた文官が1人。あとは文官さんと裁判官たちの家族が合計20人ほどと、その引っ越しの荷物。
どうも、オークド村には、裁判官がいないらしく、今回町へと格上げされるために派遣される者たちだとか。あと、文官さんは、辺境伯様の名代として、リキュードさんに勅書を手渡す役があり、その後は補佐としてオークド村に留まるみたいだ。
「そうそう。オークド村はすでに雪が村の中で1mくらい、村の外では多い場所で3mくらい降り積もっていますので、ここよりも防寒対策をしっかりとしてください。これは、15日くらい前のデータなので、今はどうなっているのかは判断できかねますが。」
サクラピアスでも雪は降っているが、温泉があるため積もっていない。しかし、オークド村ではすでに1~3mの雪が降り積もっているのだ。私たちがサクラピアスに来た日はたち雪は降っていなかったが、向こうへ転移した際どうなっているのかは保証できない。
私もほかの面々を呼んでこないといけないため、防寒対策をしていない者たちの準備に、2時間ほど、出発時間を遅らせる。
2時間後。
全員の準備が整ったところで転移魔術を発動し、暖かかった倉庫の中から、極寒の大地へと瞬間転移する。
転移した場所は、オークド村の新しい南門となる橋のたもとだ。外は吹雪いてはいないがドカ雪が降っており、私たちがサクラピアスへと帰った日よりも、さらに雪が降り積もっており、現在地ではすでに5m以上の積雪となっている。しかし、村へと続いている石畳の上には、こんなドカ雪にもかかわらず雪は降り積もっていない。
「うん、実験はうまくいったようだね。」
私は、オークド村を出る際に行っていた実証実験の結果が、うまく行った事に安堵した。




