【05-04】その頃、オークド村では
それは、とある冒険者の報告から始まった。
これは、オークド村がこの地で産声を上げた日から、最も過酷でもっとも最悪な日を綴った記録である。
そして最終的には、『オークド村の奇跡』とも呼ばれる出来事を綴った記録でもある。
その日々の始まりは、NMDC23667年8月10日の昼下がり。
とある冒険者からの報告から始まった。
「この先の森の中において、魔物大暴走の兆候がある。経過観察を怠るな。」
Aランクの冒険者の1人が、そう言いながら指し示したのは、国境でもあるピタゴラ=スガハド山脈と、ジャポニ=アススペイ山脈がぶつかる場所に聳える、標高10000mを超えるセントガイアスト大霊山の方角である。
それから5日後には、別のBランク冒険者から、違う方角から『魔物大暴走の兆候がある』という報告を受け取り、冒険者ギルドオークド村支部ではハチの巣をつつく騒ぎに発展した。
ここオークド村は、とある特殊事情を抱えているため、こういった報告については、たとえそれがガセネタであったとしても、しっかりと調査する事になっているのだ。そして2度目の報告があってから10日後の8月25日の昼下がり、その調査の結果、その2つの報告はガセネタでもなく本当の事であり、さらに最悪の報告を受ける事になる。
それは、ほぼ同時に(半日~2日後以内に)オークド村へと2つの魔物大暴走が、襲いかかってくるという事。予測襲撃日時は10日前後±5日。
前後5日間の余裕がるのは、確認された一時における現在位置と、ここオークド村までの虚栄関係を検案した結果である。
これを聞いた村の上層部は、即座に行動を開始する。
まずは、かき集めれるだけの食料をかき集め、第1城壁の内部にある倉庫へと備蓄していく。
次に、生命力回復液化薬・毒付与状態回復液化薬・魔力回復液化薬の3つの液化薬の作成を村中にいる薬師と錬金術師に依頼。増産体制を整えて、最大限の備蓄を開始した。
この時、村を真っ先に脱出していく馬鹿どもがいたが、こいつらについては放っておき、村にあったすべての財産を没収した。なぜ放っておいたかというと、魔物大暴走が襲ってくる位置的に、サクラピアス方向にしか脱出路が存在していないからだ。その1本道を進んだ先には、現在この村が頭を抱えている盗賊団、『クレイジイキャット』が待ち構えている場所を通過しないといけないからだ。
そこを通過できれば、彼らを先遣隊として利用できるが、盗賊団に襲撃されてしまえば、彼らの脱出行はそこまでである。盗賊団を利用するわけではないが、結果的には盗賊団に彼らを処理してもらおうと考えているわけだ。
閑話休題。
こうして決戦の日である、NMDC23667年8月34日が訪れた。
北西方向と北東方向から、同時に襲い掛かってくる幾千幾万の魔物の軍勢。最悪、この村だけ滅べば済む話だと言って、事前にサクラピアス方向へと抜ける橋は破壊してある。
ここに残る村人や冒険者、そして村を守る騎士団の面々は、ここが墓場だという覚悟をもって魔物の軍勢と対峙していた。その数は、戦闘員・非戦闘員含めて約1万人。
魔物側の総数はいまだはっきりとはしないが、こちら側の総数はたったの1万人である。そして、そのうちの約4割は、非戦闘員であり、実質的には6000人で攻撃を耐えないといけない。
そして1日目・・・・・、8月34日の正午過ぎ、魔物の軍勢が村を取り囲む第3防壁へと襲い掛かった。
事前に、第2防壁と第3防壁の間にある広い農地と放牧地には、いくつかの塹壕が掘られてあり、多少なりとも魔物たちの襲撃を遅らせる事ができるだろうと思っている。そのため、ここに生えていた野菜や穀物は、少し早かったがすべて刈り取ってある。
まあその塹壕も、実際は気休め程度にしかならないと思っているが、ないよりかはましと言った感じだ。
ちなみに、塹壕を掘った際にでた土砂は、すべて第3条液の補強に使用しており、現在第3城壁の裏側は長いスロープ状の坂道が連なっている。
しかしその補強した第3防壁は、魔物たちの衝突によりグラグラと揺れているため、いつ崩れてもおかしくない状態である。
それから3日間の激闘は・・・・・、とてもひどいありさまだった事だけは記しておこう。
最初の内は善戦していたが、時間が経つにつれて多勢に無勢。徐々に魔物達に押し上げられていく。こちら側にも損害が出始め、無理をして前線に出る者たちの中に、とうとう死人だ出てしまったのは戦闘開始から2日目の午後だ。
そしてとうとう、第3防壁があちこちで崩されていく。我々は、第2防壁まで撤退し、そこを採集防衛ラインと定めて激戦を戦い抜いていく。どうも魔物たちの日没から日の出までは攻撃をする事無く第3防壁間際まで撤退してくれているので、我々もその時間を利用して兵站の補給ができるのが幸いしている。つは言うものの、徐々に備蓄していたモノが底をつきかけており、このままいけばあと2日後くらいにはこちら側の備蓄が尽きて負けが決定するだろう。
そんな気持ちで迎えた、最終決戦であろう3日目。
午前中は、ここ3日間繰り広げられた光景が、永遠とも思える時間繰り返されていく。しかし、午後になってその状況は一変した。
「隊長!あそこの一角、見えますか?」
保証を務めていた非戦闘員の男からの報告で、俺は砦にある見張り台からその方角を凝視する。
・・・・・・なにか、その一角にある一部分だけ、魔物が全くいない空間が存在している。
「あの空間は何だ?」
「はい、先ほど急に出現しました。何かが爆発したようで、その直後にああなっておりました。」
「・・・・・という事は、俺っ体の知らない第3者が、なんらかの実験を行っていると見た方がいいのか?それとも、魔物側の知らない何かがあそこであったのか?」
そんな事を考えながら状況を確認していると、急に破壊したはずの橋の手前に、先ほどと同じ物が出現する。その空間は、そこにいた魔物たちを押しのけて、こちら側へと進んでいるようだ。
さらに驚いた事に、その空間内からは、無数の魔術による攻撃が絶え間なく繰り出されており、多勢に無税とはいえ、魔物たちの蹂躙に一役買っている。
一番驚いたのは、進行方向上に展開されている扇形の攻撃である。その攻撃班に内にいたすべての魔物が、攻撃後は肉片へと姿を変えているからだ。そしてさらに、それらの肉片を一笑するためなのか、巨大な炎の竜巻が5本出現し、オークド村を中心に円運動をして取り囲む魔物たちを焼き払っていくのだ。
実際は、もっと強大な攻撃力を持っているだろう誰か。
その誰かはたぶん、オークド村に攻撃が当たらないように、細心の注意を払って攻撃魔術を放っている感じがヒシヒシと伝わってくる。
そうして、ゆっくりとだが確実に突き進みながら、こちらへと向かってくる魔物のいない空間。
その蹂躙劇を、暫し無心で眺めていた俺たちだった。
「ここ機を逃すな!これが最後の闘いだと思え!全軍、援軍の攻撃に合わせて進軍開始!」
ふと我に返った俺は、同じようにこの光景を眺めているだけの全軍に向けて、総攻撃をかけるように命令をする。援軍の身にいいところを取られてたまるか!といった心づもりを皆に植え付けるように、叱咤激励する感じで叫んだ。そして、俺自身も魔物に向かって突撃していく。
ここで司令官だなんだと言っていては、護れるものも護れないからな。
あと少しで、魔物のいない何かと第3城壁とが接するその時、俺は第2城壁と第3城壁の間にいた魔物を倒しながら、第3城壁に駆け上っていた。というか実際は、城門の上にある壊れかけた櫓にいたのだが・・・・・。
そこで俺は、魔物のいない空間が何かを確認する事ができた。
そこにいたのは、俺とはすでに顔なじみである、冒険者パーティであり旅商人でもある鮮血の雷の4人と、何故かメイド服に身を包んだ女の子の集団。そして、先日何処かのバカとともにこの村をお旅立っていった女性冒険者(名前は忘れた)ほか、十数人だった。
「ここからが本番ですね。大きな魔術が使えないので、大量虐殺ができません。」
「大量虐殺って・・・・・・、ヒカリちゃん。確かに、確かにあっているんだが・・・・・。」
なにか、親し気に会話の応酬をする、ガイストとメイド服の女の子の1人。女の子の名前は知らないが、真っ黒な黒髪を少し高めにポニテにしているとてもかわいらしい女の子である。まさかこの女の子こそが、サクラピアスにおいて史上初めて出現(神殿関連のお触れが回ってきたため知っている)した『6大神の白巫女』様であり、このメンバーの中にはそれ以外にも『6大神の黒巫女』様と、太陽神『アマテラス』の寵姫様であり『サクラピアス大聖堂の聖女』様もいるとは思わなかった。
「・・・・・大量虐殺は出来ませんが、なるべく目の前の魔物を排除しましょう。あとは、ついでに壁の補修と補強もしてしまいましょうか。【メイキングゴーレム】!」
ガイストの隣にいた女の子が、何かを地面にばらまいて魔術を唱える。
バラまかれた何かを中心に、魔術の発動によって周囲の地面が盛り上がっていき、全長5ⅿほどのロックゴーレムが生み出された。
「ゴーレムちゃんたち。魔物を踏み潰しながら崩れた壁に取り付き、壁と一体化しなさい。その後は周囲の地面を使って壁を補修・補強しなさい!」
女の子の命令に従い、ロックゴーレムが壁際に散らばりながら魔物を踏み潰していく。そして壁の崩れた場所に辿り着いたロックゴーレムは、そのまま壁に取り付いて一体化してしまった。それが、崩れかけていた壁に順次行われていき、ガイスト達一行が城門に辿り着いた頃には元通りの壁がそこに復元されていた。
さらに驚いたのは、魔物が壁を切り崩すたびに、瞬時に壁が修復されていく光景が、あちらこちらで見受けられるようになったからだ。さらに、壁から5ⅿ5ほどのロックゴーレムが時折出現しては、壁に取り付く魔物を一掃して歩いていくのだ。
これにはもう、開いた口が塞がなないほどに驚いた。
「ヒカリちゃん。いくらなんでも、自動攻撃・自動修復を同時に行うのは、やりすぎだと思うんだ・・・・・。あたし。」
女の子の1人から、この光景を創り出したガイストの横にいる女の子に騎乗の言葉が入るが、その後の言葉に周囲がさらに凍り付いたのだ。
「でもね、コトリ。ああしておかないと、ゆっくりとお話もできないでしょ?ちなみに、あのロックゴーレムの動力は、すでに私の魔量ではなくて、この周囲に溢れている魔素を自動的に魔力に変えて行っているからね。半永久的にこの防御システムは作動しているよ。」
何といった?・・・・この子は?
この壁と融合したゴーレムは、この先半永久的に敵を排除するだと?
そんなん事は可能なのか?・・・・・・・いや、目の前で起こっているのだから、可能なんだろう。しかし、今までそんな事を聞いた事がないんだが・・・・・・。
俺は、ガイストを何なしに見る。ガイストは、俺の視線に気づくと、黙って首を横に振った。
「そんな事よりも、壁の外はこの壁と融合したゴーレムちゃんに任せて、壁の中の魔物の殲滅をしていこうか。みなのもの!しゅつげきであ~~~~る!」
そんな言葉でない言葉を交わしていると、女の子がいきなり攻撃宣言を出し、その宣言に合わせて、何処からともなく取り出した武器を片手に男の子2人に女の子6人が散り散りに魔物たちに突貫していった。
・・・・・そうだったな。
まだまだ壁の内側には、大量の魔物が跋扈している。女の子の言うとおり、自動迎撃・自動修理があるのなら、壁の外側の事はこのゴーレムたちに任せておこう。俺たちは壁の内側にいる魔物の殲滅をする事だ、今一番大事な仕事だ。
「彼らに続け!後れを取るな!俺たちの村は、俺たちが守らないで、いったい誰が守るのだ!」
こうして彼らの協力を得て、壁の内側にいた魔物たちは、2時間余りで殲滅する事ができたのだった。




