【閑話】キリギネス連合王国国王の憂鬱
「国王陛下!至急お伝えしたい事がございます!」
キリギネス連合王国第20代国王である・クラウド=ニア=キリギネスに、とある聖女にまつわる報告が届いたのは、冬の足音がすぐそこまで聞こえてきている7月後半のある日だった。
国王専用の執務室で、3年ほど前に独立していった『アンタルノース公国』の対応を、宰相はじめとした大臣たちと話し合っている時である。
「どんな報告だ?今は大事な会議中だぞ?」
会議室に入ってきた伝令に対し、少し強めな口調で問いただす宰相。
「は!3年前に国外追放処分となり、我がキリギネス連合王国から独立しアンタルノース公国となったきっかけを作った国家の滞在人『元アンタルノース公王令嬢・ペニシニア=アンタルノース』の生存が確認されました。」
「あの女狐が生きていたとして、今報告する意味はあるのかね?」
私は、元婚約者が生きていようが死んでいようが、今さら関係ないとばかりに、伝令にきつく当たった。何かあるのなら、追加で報告があるだろう。
「実は、元アンタルノース公王令嬢は、当時は隣国であったコロラド王国において、バティスティア聖教の修道女・シスターアンタルとして生活しておりました。その後、力をつけて魔祓い師となり、先日暮らしている町で行われた洗礼の神事において、太陽神アマテラスの寵姫の認定を受け、サクラピアス大聖堂の聖女として正教に認定覚ました。追加で報告いたしますが、その際一緒に洗礼を受けた中に、『6大神の白巫女』様と『6大神の黒巫女』様もおられます。
これが、7月の半ばにあった出来事です。
その後、この6大神の白巫女様と黒巫女様の名代となった折に、太陽神アマテラスの寵姫から太陽神アマテラスの聖女へと加護も上がった模様です。」
この報告に、その場にいた全員が、あんぐりと面白い顔になって固まった。
「その話は、本当の出来事なのか?」
宰相がいち早く再起動し、伝令にそう問い詰める。
「はい。この報告が王宮に上がってきた際に、バティスティア聖教側にも確認をとりました。その結果、『真実である』という報告を受けております。」
我がキリギネス連合王国は、狭い山岳地帯に築かれた国家で、前身は数百にも及ぶ都市国家だった。その都市国家が、300年ほどの歴史をかけて分離・併合を繰り返し、現在の公王家20家によって纏まったのが今から500年ほど前。そして、国境を接している強大国家と対峙するため、公王家20家が纏まってキリギネス連合王国となったのが今から250年ほど前の話である。
で、現在その連合王国を作るにあたってリーダーシップを取った公王家が王家を襲名し、それ以外の公王家が、領主となって各地を治めている。
この国の国土は、1年の半分を深い吹きで覆われた厳しい冬の気候になる。また雪が解け、大地が潤う期間は、今度は乾燥し乾いた風が吹きすさぶ土地だ。故に、作物を育てる事が困難であり、大地の実りが期待できない土地柄である。
しかし、アンタルノース公王家の領地・・・・・、今ではは『アンタルノース公国』となっている土地だけは、何故か連合王国内では一番裕福な場所にあり、(いろいろな)国家資産の約4割を牛耳っていた。もちろんわが国で最も豊かな穀倉地帯でもあり、当時から何故あの領地だけあんなにも豊かなのかと首をかしげていたほどだ。
領地の約7割が山岳地帯であり、穀倉地帯を作る広い土地も、豊かな河川もない土地なのにだ。さらに言えば人の暮らす集落は、魔物大暴走に遭った事がほとんどなく、当時は、我が国内において最も安全に暮らす事ができる領地ともいわれていた。
ここ王都・ソンクルバーグを含め他の領地にある町や村では、常に魔物大暴走におびえて暮らしているのにだ。
しかし、その疑問はすでに解決している。
現アンタルノース公国となっているあの土地には、各集落ごとにダンジョンが必ず1つは存在しており、その中には人間が管理しているダンジョンもあるらしい。あの土地が豊かだったのは、ただ単にダンジョンから算出されるモノの収益が大きかっただけであり、食料が豊富にあるのも、管理されたダンジョン内で生産していたからに他ならないのだ。
なお昔から、こうだったわけではない。
国境を接するコロラド王国では、昔からダンジョンとうまく付き合っているため、アンタルノース公国同様に国家全体が豊かである。国境が隣接しているため、その情報とやり方をいち早く取り入れる事ができたため、あの土地は豊かなのだ。
なおこの情報は、別に秘匿していたわけではなく、聞かれれば誰にでも教えていたそうだ。現に、隣接している公王領では、ダンジョン開発を積極的に行い、同じように豊かになりつつある。
現在では少しずつだが、ここ王都・ソンクルバーグの周辺でも、ダンジョンによる食糧生産の道が開けつつある。というか、先日ダンジョンコアをやっと手に入れて、ダンジョンとする場所に移植。現在管理型のダンジョンを育てている最中なので、成果が出るにはまだ1年以上の時間がかかるらしいが・・・・・。
まあ、それはいい。
問題は、あの女狐事、元アンタルノース公王令嬢・ペニシニア=アンタルノースの処遇だ。
「先に聞いておく事があるが、国外追放し、すでにわが国民でもない元公王令嬢について、国民はどれだけ知りえておる?誰か、その事は知っておるか?」
私は、一番の懸念事項を、まずは解決する事にする。そのための前提条件を、ここにいる者たちに問いかける。
「確か、何かの罪による判決で、『その身分と国民である事実をすべて剥奪し、終生国外追放処分』となったのが今から3年ほど前。その後すぐさま判決通りに、着の身着のままの状態で国を追い出しました。その後魔物か盗賊かに襲われて、その命がないものとして処理されております。
我々国の中枢にいる者ですら、先ほどの報告を受けるまで、すでに死んだものとしていたのです。そのため国民の間でも、そう判断している者も多いでしょう。
まあ、実家であったアンタルノース公国においては、どうなっているのかは知りませんが・・・・・。」
私の問いかけに、宰相が自身の境遇も踏まえてこう答える。確かに、しっかりと調べなかったとはいえ、私ですらあの女狐はすでに死亡したものと考えていた。
「という事は、今なら適当な理由をでっちあげて呼び戻す事は可能という事か?」
「そういう事になります。国王陛下に対する醜聞は多々ございましょうが、聖女様がこの国にいるかどうかを天秤にかけるならば、・・・・・私は聖女様の方ととりますね。
聖女様がこの国にいるだけで、『神々に祝福された土地』になりえますので。醜聞を嫌って聖女様を招聘しないよりは、醜聞を受け入れて聖女様を招聘した方が国家の益になります。」
という事で、私は、太陽神アマテラスの聖女であり『サクラピアス大聖堂の聖女』であらせられる聖女アンタル様・・・・、元アンタルノース公王令嬢ペニシニア=アンタルノースに対し、その罪の一切を無効化し、国外追放処分を取り下げる旨の書状を認めた。
『キリギネス連合王国所属・アンタルノース公王令嬢ペニシニア=アンタルノースであり、現在は太陽神アマテラスの寵姫であり『サクラピアス大聖堂の聖女』であらせられる聖女アンタル様。
過去、我々があなた様に対し行った断罪は、再調査の結果冤罪と判明いたしました。
その結果、現在わが国では、聖女様に対し下された有罪判決を破棄し、すべての身分を回復している事をここに宣言しています。この結果、終生に亘る国外追放処分も取り消されているため、我が国への帰還をここにお願いしたく存じます。
NMDC23667年7月30日
キリギネス連合王国国王・クラウド=ニア=キリギネス』
この親書を、可及的速やかに聖女様の元へと届けるため、通信の魔導具すら利用したのだ。のしかし、その返答は芳しくなく、長々とした返書を要約すると、『どの口で、それをいいますか?王家が発した言葉を、たったの3年で覆すなど、どんなに冤罪だったとしてもそれはいただけませんね。』という返答で・・・・・・。
つまるところ、あの女狐は、二度と(・・・・ではないかもしれないが)キリギネス連合王国の土地を踏む予定はないという事である。
確かにこれは、私が蒔いてしまった種であり、現在その種は結果はどうあれすくすくと育ってしまっているのだ。あとは、私自身でうまく刈り取って、事が大きくならないように防ぐしか、・・・・・道は残され地ないのかもしれない。




