【04-08】最奥の村への護衛依頼(その3)
ジムニー村を出立して20日が経過した、少し冷たい風が吹く昼下がり。
昨日の晩から降り始めた小雪は、いまだ降り続いており街道を白く染め上げて行っている。今はまだ小雪なので大丈夫だそうだが、もう少し本降りになってしまうと身動きが取れなくなってしまうそうだ。
現在地は、オークド村へと向かう道中にある最後の村を通過して、2日半が経過したお昼ちょっと前。ガイストさんの話だと、この移動速度なら残り2日ほどで目的地のオークド村に到着するだろうとの事。
順調に来ていた行程だったが、ここで1つ問題が出てくる。普段から発動している私の探知範囲(直径約1㎞)に、何かの集団が引っ掛かってきたのだ。
「ん?なんなんだろう?」
「どうしたの?ヒカリちゃん?」
私が急に考え込んだため、今まで雑談をしていたコトリが不思議がって聞いてくる。
「いやね、探知範囲の端っこに、何かの集団が”動かずに”いるんだよね。この辺りの地図がないからわからないけど、場所的にこの街道の先みたいなんだよ。」
私の頭の中に、日々更新されていく世界地図。今は世界地図どころか、このムハマルド辺境伯領全域すらカバーしていない地図だが、その真っ黒な片隅に動かない集団が移っているのだ。
ちなみにこの世界地図。
私が空間神の白巫女となった日から、日々更新されているのだが、その日を境にして”私が訪れた場所のみ”地図が更新されているのだ。実験がてら【千里眼】というスキルを発動させてみたが、そのスキルで視えた場所の地図は作られていない。ちなみに、転移魔術で跳ぶ事もできなかった。
ゲームの中では、この2つに関しては出来ていた事なんだけど、現実となったこの世界ではどうも何かの力が働いているのか、”私がこの足で訪れた事のある場所のみ”地図の更新も、転移できる場所も設定できるだけになっている。
まあそれの方が、世界をいろいろとこの足で旅していけるので、面白いからいいのだけどね。
「とりあえず警戒だけはしておくよ。」
と言ったところで、先頭の馬車が街道脇の広場に入って行くところを確認する。どうもお昼ご飯を食べるための休憩みたいだ。ならば、ガイストさんにも、この事は話しておけるね。
私が乗っている最後尾の馬車が広場に入って停止したところで、コトリにお昼ごはんの準備を任せて、私はガイストさんに先ほどの事を報告する。
「ガイストさん。少し相談があるんですが・・・・。」
「なんだい?ヒカリちゃん?」
「実はこの先、・・・・だいたい1㎞くらい先なんですけど、”動かずにその場で停止している集団”がいるんです。場所的には、この街道をいった先だと思うんですが、この辺りの地理には疎いので、正確な位置は解りません。」
「ここが休憩場所だとすると、そんな位置に停止しているのは少しおかしいな。いくらなんでも近すぎる。」
そう言いながらガイストさんが話してくれたのは、この先の街道の構造である。この先街道は、いったん川から離れて森の中に入って行く。それは、この先に見えている大きな岩山を迂回するためであり、岩山を迂回した際には橋が1本架かっているそうだ。そして私が指し示した位置は、どうもその橋の袂のどちらかだという事。
つまり・・・・・。
「・・・・・何がいるのかは知りませんが、待ち伏せされている可能性が高いですね。その橋の前後に。」
「・・・・・まあ、そういう事だな。そこまで頭が回っているところを見るに、その待ち伏せしている何かは、魔物や野生動物ではなく人間だろうな。もしくは、ヒカリちゃんたちを保護した時みたいに、橋が崩落しているかだ。」
「後者なら対処は楽なんですが、前者だとちょっとめんどいですね。」
「本当にな。本降りになる前にオークド村に到着したいんだが、前者だとその対処に時間を食われると、予定が大きく狂っちまうからな。」
そうなのだ。
雪が降り始めた段階で、休憩は最小限に抑える事になっている。本来は2日かかる行程なんだが、休憩時間を抑える事によって、何とか1日半程度まで短縮できそうだったのだ。それが、この”待機している何か”が何なのかによって、予定が狂ってきてしまうかもしれない。
「まあなんだ。俺たちだけで考えていても仕方ないからな。昼飯を食いながら皆で相談するか。」
という事になり、お昼ご飯の時に、全員にこの先の異変について話をするガイストさん。今のところ雪は、降ったりやんだりを繰り返しているので、今のうちにオークド村まで進んでしまおうという、当初の計画通りに予定は決定していく。ただし、その”待機している何か”を確認するために、斥候としてミュートさんとミオがパディを組んで先行する事になった。
「それじゃあ、この先を確認したら、どちらかが戻ってきてくれ。残った方は、その場で監視がてら待機な。」
『了解!では、先行組は先に行きます。』
そんな挨拶を交わしたと同時に、2二人の姿がこの場から掻き消えた。その件の橋までは、馬車の速度なら20分程度で到着するので、私たちはこの場で少し待機する事にする。あの速さなら、30分もしないうちにここに帰ってくるだろうから。
私はゆっくりとお茶を飲みながら、2人の帰りを待つ事にした。
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あたし事ミオとミュートさんが、お昼の休憩をしている広場から、音を置き去りにするほどの速さでかけだす事約5分。実際はソニックビームみたいなモノが無かったので、音速までは出ていないと思うが。
最短距離ではけぬけるため、目の前にある岩山(推定高さ300m)を足場もなしに飛び越える2人。岩場の10mほど手前にあるちょっと小高い部分を踏み切り板に見立て、そこの向けて5mほど手前からジャンプする。地面に思い切り踏み込み、勢いよくジャンプし小高い部分に両足を付けて膝を曲げ、全身のバネを使って思い切りジャンプをする2人。その衝撃で、踏み切りを行った地面が1mほど陥没するが、・・・・・まあ知ったこっちゃない。少し衝撃で結構な音と土煙が舞い上がったが、天空母神『シルフィール』の神子の権力を使って無理やり抑え込むあたし。
岩山のてっぺんに両手を置いて、2人してその場でくるりとバク転をかまして、岩山の端っこに着地する。
まさか、300m以上の跳び箱をするとは思わなかった。それも、できてしまった自分がちょっと怖い。あのまま勢いよく飛び出せば、たぶん目の前の川すらも飛び越える事ができたと思う。
まあ、それはともかく、今は偵察を行うとしよう。たぶんできそうな予感がするので、今度何処かで実践してみようと思うが・・・・・。
岩山のてっぺんから、下に架かる橋の方を覗き込むあたしとミュートさん。
「いやはや・・・・。たくさんいるね~~~~。」
「ほんとうに・・・・、どっから湧いてくるのやら。」
覗き込んだ橋の袂には、両サイドに散らばるように、ちょっと汚い格好をした髭もじゃの男どもが40人くらいいた。
「これは、『盗賊さんいらっしゃ~~~い!』でいいのかな?」
「まあ、それであたりだよね。あいつらの恰好を見てみれば。あとは・・・・・・、あそこがあいつらのアジトかな?」
あたしの知る人ぞ知るちょっとしたネタを仕込んだのに、ミュートさんにはスルーされてしまった。その上で、ちょっと離れた場所(ちょっとと言っても、橋から目算で500mくらい離れてはいるが)にある、盗賊さんのアジトらしき場所を指さされる。
森の木やら崖やらで巧みに隠されているが、岩山のてっぺんからは丸見えである。ついでに言えば、そこまで続いているだろう獣道っぽく偽装した道も。
「盗賊さんのアジトよりも、気になるモノがあるんだよね~~~~。」
「何が聞きなるの?ミオちゃん?」
私のその言葉に、不思議に思ったのか聞いてくるミュートさん。私はミュートさんの問いに、遠くに見えるモノを指さしてこう答える。
「たぶん、あそこに見える煙が、目的地のオークド村だと思うんだけど、・・・・・あっているよね?」
私のその問いかけに、ミュートさんがこう答える。
「ん~~~~~、ここからの位置関係だと、あれがオークド村だよ。それが何か?」
私の予想で、合っていたみたいだ。ならば、あれは少しおかしくないか?
「いくら寒いといってもさ。あんなにも煙って、出るモノなの?」
私のその問いかけに、少しだんまりをするミュートさん。そして、帰ってきた答えが。
「たぶん、オークド村、何かに襲撃されているんだと思う。ここからじゃよくわからないけれど、何か緊急事態が起こっているみたいな米、あの感じから察するに。
とりあえずミオちゃんは、下の盗賊さんの事とオークド村の異変の事を、すぐさまガイストたちに知らせに戻ってくれる?私はここで、盗賊さんを見張っているから。」
「了解!それじゃあ、すぐに戻って知らせてくるね!」
私はそう言うと、今来た道を全力で帰って・・・・・・、いや違うか。200mくらいある岩山の上を、全力疾走して、岩山の端っこで思い切りジャンプをした。
そして、500m以上の大ジャンプをかました後、10回転中ひねりをして着地。目の前には、お茶を飲んで一服していたヒカリちゃんがいた。
「お~~~~!10点、10点・・・・・10点、10点。合計100点満点!」
パチパチパチと、着地のポーズを決めたあたしに、満場一致ではないけど知る人ぞ知るボケをかましてくれるヒカリちゃん他6人。やっぱりこうでなくっちゃね。
「・・・・・まあ、ボケはこのくらいにしておいて、どうだった?」
そのヒカリちゃんの問いかけに、あたしはきれいに決め込んだ着地ポーズを解いて先ほどの事を皆に伝えていく。
「・・・・・というわけで、ミュートさんの意見では、橋の袂にいるのは盗賊さんだね。500mくらい離れた場所には、盗賊さんのアジトもあったから。それよりも問題なのが、どうもオークド村で何かあったらしく、モクモクと煙が上がっている事なんだよ。岩山のてっぺんからじゃ遠すぎて、何があったのかを確認できなかったんだけど、何かに襲撃されている感じだったよ。」
あたしからの報告に、ガイストさんと光莉ちゃんが、ちょっと困った顔になって黙り込んだ。
「・・・・・ちょっと、いやな予感がしますね。」
「いやな予感とは?・・・・なんとなく言いたい事は解っているがな。」
1分ほどだんまりを決め込んだヒカリちゃんからの言葉に、ガイストさんが何かを察したような感じでこう聞いてくる。
「ここまで来るまででも、不思議に思っていた事があるんです。いくらある程度安全が保障されている街道でも、ここまで魔物1匹出逢わないのはおかしいなっと。ガイストさんはそのあたり、どんな意見を持っていますか?」
ヒカリちゃんの問いかけに、はっと息をのむ音が周囲から聞こえてくる。
「安全に旅ができていたんだから、別に構わないといえば構わないと思うが・・・・。なにか問題でもあるのか?」
ヒカリちゃんの言葉に、ヨシナリ君がこう質問をぶつける。
「ヨシナリ、考えてもにな?あなたたちがこの世界に来て最初にいたあの場所。あんなにもサクラピアスに近い場所であっても、熊の魔物が出たんだよ。それを踏まえて、私たちが今いる場所って何処かな?」
「ん~~~~。魔境の最前線?」
ヒカリちゃんの問いかけに、あたしはこう答えた。
「そう、私たちは、言ってしまえば魔境の奥地へと向かって旅をしているも同然なんだよね?
オークド村は、魔境との戦いの最前線なんだから。それなのに・・・・・、魔境の奥地へと向かっているにもかかわらず、魔物1匹出逢わないなんておかしくない?
それに、そこにいる盗賊もそう。こんな魔境の奥地で、それもアジトを構えて盗賊活動なんて、私が盗賊だったら御免被る環境だよね?
だって、この街道を通行する者たちを襲うより先に、自分たちが魔物に襲われると思わない?」
・・・・確かに、ヒカリちゃんの言うとおりだよね。魔境の奥へと旅しているのにもかかわらず、魔物1匹出逢わないのは異常としか言えない出来事だ。
「そうだな。ヒカリちゃんの言うとおりだが、まずは目の前の盗賊からだ。オークド村の事は気にかかるが、目の前の危険を排除しないと先に進めないのも事実だ。だから今は、目の前の事を対処しよう。オークド村に関しては、その後だ。どのみち到着まで、速くても1日以上はかかるからな。」
ガイストさんの意見に従い、盗賊退治を優先する事にしたあたしたちだった。とはいえ、できる事は”釣り”をする事くらいなんだけどね。あとは、非戦闘員をどうするかだけだ。




