【01-02】異世界に来た理由は?
「で、光莉ちゃん。あたしたちの今の状況って、どうなんだろう?
異世界召喚?それとも、異世界転生?異世界転移?
どのパターンで、異世界に来たんだろうね?」
寿李が聞いてきた事柄について、少し考察する私。
2人して、結構なオタクを自認するだけあって、こう言った場合に対する順応力?みたいなものは、ずば抜けて高いようだ。
異世界物の小説ないし漫画などを読む限り、普通はパニクってしまって冷静な判断ができないはずなんだよね?
主人公や、一部のオタク設定の登場人物はが別だけど・・・・・。
特に、事前に何らかの方法で異世界に行くと、誰かから言われてない限りは、そういった事に慣れていない限りは、どこかしらでパニクってしまっているはずだ。表面上では冷静に見えてもね。
こんな状況に、慣れてしまうのもどうかとは思うが・・・・・。
少なくとも私と寿李は、現状表面上では冷静と保っているが、内面ではどうしていいのかパニクってしまっている。
そのため、少しでもパニクってしまっている状況を改善するため、こうしていろいろと話をして状況把握に努めているわけだ。
まあ、それはいいとして。
今の状況から鑑みて、ありえないパターンから順番に潰していくか。
時間は、たっぷりとあるしね。とりあえず、地面にいる狼たちがいなくなるまでは、ここからは動く事ができないわけだし。
「じゃあ、真っ先に『ありえないパターン』を潰そうか。
1つ目。
城だか神殿か知らないけど、たいていの場合は建物の中で、召喚された私たちは、魔法陣の上に乗っかっていて、周囲に見知らぬ人たちが豪華な衣装を着て取り囲んでいるというパターン。
この場合は、『勇者様(もしくは聖女様)、どうか我々をお助けください』とか言う、テンプレなセリフを吐いてくるお姫様とか、大神官とかががいないといけない。
だから、真っ先に潰れるのが、『勇者召喚』もしくは『聖女召喚』だね。
同じ系統でいえば言えば、『魔王召喚』もかな?
これは、転生でも召喚でも同じ事。」
「それは絶対ないよね?
そのパタンだと、召喚された人が男性の場合は、美人なお姫様が前に出てきて・・・・・。女性の場合は、イケメンな王子様が出てくるんだよね。」
「そうそう、私たちのように複数で召喚された場合は、たいていの場合、王子様は自分の好みに忠実に従って、女の子の手を取るんだよね。それか、一番かわいい女の子かな?
その子が勇者(聖女)だった場合は、そのまま一緒に行動し、そうでなかった場合は、理由をつけてお持ち帰りするんだよね。
お姫様の場合も、似たようなものだけどね。」
「そうそう、そして事が終了したら、その女の子とそのまま結婚するんだ。巻き込まれたそれ以外の子たちは、適当な理由をつけて城から追い出すおまけ付きでね。」
このパターンでの召喚の場合における、テンプレ的な展開について盛り上がる私と寿李。少しこの話で盛り上がった後に、本題へと戻っていく。話が脱線するなんて事は、いつもの事なのであまり気にしてはいけない。
「もし、勇者召喚とか、聖女召喚とかだったら、その召喚先がずれてしまったパターンのほうが、この場合は『あたり』になるかな?周りには、人工物らしきものは何もないんだから。
・・・・もっとも、いくらずれていたとしても、大木の枝の上というのは斬新すぎるけどね。」
まずは、オーソドックスに、勇者召喚もしくは聖女召喚から。
現実的には、一番あり得ないパターンだ。寿李の言うように、何らかの影響で、召喚先がずれたというパターンならありえる事だが。
それでも、ここまで人跡未踏の大森林のど真ん中に、放り出される事なんてあるのだろうか。
私と寿李は、今回はこのパターンではないと確信している。
理由としては、もし何らかの召喚ならば、召喚する際に双方を繋ぐモノが必要となるからだ。そうしないと、召喚するモノが何であれ、確実に世界を渡る事ができないからだ。
この場合は、召喚魔法陣といったところか。
言ってみれば、召喚魔法陣とは、山を貫くトンネルの出入り口みたいなものなのだ。
あの事故?の際、その召喚魔法陣みたいなものが、何処にも存在していなかった。つまり、世界観を繋ぐトンネルが、あの場所には存在していなかったことを意味する。
さらに言えば、召喚前にあんな事は、絶対ではないがまずもって起きないだろう。いきなり、光の塊に飲み込まれるなんで出来事は・・・・。
話は変わるが、どちらが本命なのかは知らないが、あの密集したバスの車内において、“巻き込まれた”のが、1人だけなんてありえない。
この事についてまたもや脱線していく私たち。
『勇者召喚』の場合は、私と寿李は、巻き込まれた一般人の方で、城や神殿から追い出される。その後、いろいろあって本命の勇者よりも強くなってしまうが、『勇者?なに?それ?おいしいの?』と言わんがばかりにその世界を堪能するだろう。
『聖女召喚』の場合は、本命として召喚されども、その事実を隠蔽、もしくは誰かに押し付けて、やはり異世界を堪能する旅に出るだろう。
私も寿李も、『聖女』でいう柄ではないしね。どちらかといえば『魔王の幹部』といったほうがしっくりとくる性格だ。
私たちよりも、クラスメイトで寿李と同じく腐れ縁の幼馴染であり、私の家で執事兼侍女をしている男の娘である松林真琴君のほうが、『聖女』としてはしっくりとくるのだが・・・・。
どちらにしても、面倒くさい事には首を突っ込まない主義を前面に出すだろうと結論付けられた。
「2つ目は、『異世界転生』というパターンだね。
・・・・でも、これもたぶんないだろうね。ついでに言えば、ゲームキャラとなっての転生パターンもないね。
ゲーム能力を引き継いいるかどうかは、実験してみないと解らないけど。」
続いてのパターンは、寿李から告げられた。私もそう思っている。
「そうだね。私もこのパターンではないと思っている。ゲームキャラの転生も同様にね。能力を持っているかどうかは解らないけれどね。
これは寿李が言っていたように、実験してみないと解らないね。
どっちにしてもこのパターンだと、『神様もしくは、それに準じた存在と会話をした』という記憶はないし、神様との会話がなくても、転生ならば見た目が変わっているしね。」
寿李の意見に同意しながら、考察を付け加えていく私。
「・・・・確かにね。
私たちの容姿は、地球での容姿そのままだし、年齢だって15歳のまま。それに、学園指定のセーラー服を着ているしね。
この時点で、異世界転生の線は消えるわけだ。異世界転移ならば、話は変わってくるけどね。
またこのパターンだと、私たちの服装は、この世界での庶民が着ているごく一般的な服のはずだし・・・・・、そもそも転生ならば、私たちの名前や容姿は、地球での名前や容姿と全く違ったものになっているはず。さらに言えば、記憶のあるなしに拘らず、この世界でこの年齢になるまで暮らしていたという記憶がない。
という事は、異世界に別の人格を持って転生し、この年齢になるまでその人格で暮らしていたいう事実はないわけだ。
ゲームキャラの場合は、初期装備か、持っている装備の中で一番最強のモノを着込んでいるはずだしね。」
異世界転生ではない事を、いろいろと理由をつけながら否定していく私と寿李。
異世界転生のもう1つのパターン『神様の手違いで転生』も、神様との会話イベントがないので却下していく。
異世界転生の場合は、大きく分けて記憶のあるなしがあり、記憶がある場合は、赤ちゃんからの羞恥プレイから始まるものと、人里離れた場所から始まるものとある。
もっとも、人里から離れていても、歩いて数時間のところに街道があったり、人里が存在しているものだ。そうでなくとも、テンプレイベントが必ず発生して、転生後数時間以内に異世界人と遭遇する事になっている。
それが、この世界に来てすでに数時間経っている(空の色が茜色に変化してきているため判明した)が、未だに異世界人との遭遇イベントが発生しないあたり、このパターンではない事が理解できてしまう。
そして、最後のパターンに移る。
「それじゃあ、やっぱりこれしかないね。時空の歪だか何だかは知らないけど、それに飲み込まれて異世界に来てしまった。
つまり、超自然現象による『異世界転移』と考えたほうが、今回の事案にはしっくりとくる見解だね。
今回の場合、乗っていたバスごと飲み込まれたらしいけど、私と寿李以外のクラスメイトは、現段階では行方不明で、生きているのか死んでいるのかも不明。
私たちの乗ったバスのみがこの世界に来たのかも不明だし、もしほかの車も巻き込まれているとしたら、その車に乗っていた人物たちもまた、生死不明の行方不明ときたもんだ。
そして現状私たちは、異世界のどこかにある大森林の中、絶賛遭難中であり、また今のところ命の危機に遭遇中でもある。
そして、最寄りの人里まで、どれくらい離れているのかも不明。」
「・・・・それが一番合っているよね。後、現状私たちって、所謂『詰んでいる』状況だよね。」
「そうだね。現状『詰み』の状態だよね・・・・。」
そう結論付けると、私と寿李は、大木の下で何やら喚いている狼たちを黙って見つめるのだった。
この狼たちを何とかしないと、私たちはこの大木から移動する事もできないのだ。あのゲームの能力があれば何とかなるとは思うが、もしないとなると、リアルスキルの『今津流格闘総合武術』で狼たちと対峙するしかなくなるわけだ。
武器がないのでステゴロするしかないのだが、最終手段にしたいなあと考えている私である。
その前に、やる事だけはやっておこうと思うわけだが・・・・。
「これからどうする?とりあえず今日の寝床と、夕ご飯を何とかしないといけないけど。それと、一番大事な水の確保。」
現在空は茜色に染まっており、あと1時間もしないうちに夜になってしまうという現実が、私たちの目の前にぶら下がっている。
何をするにも、おなかは満たしておかないといけないし、しっかりと睡眠をとらないと、体も万全に動かす事が出来なくなってしまう。そして何よりも・・・・・。
「ご飯と睡眠も大切だけど・・・・・。お風呂は現状諦めるとして、トイレをどうしようか?」
「・・・・そうだね。お風呂は入りたいけど、今日は我慢するしかないかな。
トイレについては、考えるとしたくなってくるからね。あえて思考の片隅にすら置かないように放置していたけど、このままだとここから垂れ流し?になるのかな。
まあ、今は2人しかいないから、最悪はそうなってしまっても構わないけどね。」
「それは最終手段として、とっておいたほうがいいと思うよ。それを行ってしまうと、何か大事なものまで一緒に、垂れ流してしまいそうだからね。」
そんな事を考えながら私と寿李は、茜色に染まる空をじっと見つめるのだった。