【01-01】此処はいったい何処⁉
「ここは、どこ?
・・・・・・。
知らない天井・・・・・・ではなく、何処までも続く青い空の方か~~~。
現在地は・・・・・・、何処かに生えている大木の幹の上かな?結構ブットいけど、先の方には緑色の葉っぱが生い茂っているからね。
私は、誰?
・・・・私の名前は、今宮光莉。年齢15歳の女の子で、私立鷺宮学園高等部の2年生。現在、生徒会長なる大役を仰せつかっている、か弱い?普通の女の子。
・・・・・。
ちっ!
定番の記憶喪失まではいかなかったか。残念、残念。」
さて、冗談はさておき。
確認がてら、お決まりの第一声を口から吐き出した後、私は”バスの座席”から見える青い空を見つめながら、今さっき起こった現象を考察する。
とりあえず、現状の確認から始めようか。
こういった場合は、最低限解っている事だけでも現状を把握しておかないと、後々大変な事になってしまうからね。
そうはいっても、この感じだと、あまり解っている事なんてないけどね。
まあ、いいや。現状把握と行きましょうか。
まず、自分の周囲の事からだね。
先ほども見たが、目の前には白い雲を抱いた、何処までも続く青い空が広がっている。
知らない天井ではない事から、ここが何処かの屋外だと判断できる。また、大木の幹にいるので、何処かの森の中だという事も判断できるのかな?
まあい、いいや。
これによって、現在天気は晴れであり、何処かは知らないが昼間だという事が理解できる。
太陽までは確認できないので、午前なのか午後なのかは判断できないが・・・・。
次に、左右を確認すれば、何処までも続く大空を正面にして何かに固定されている感じだ。
周囲の状況は、何かの大木の枝葉に邪魔をされていて、詳しく確認できない。
そのため、今の段階では、何処かの棚の上にでも放り投げておくしかないのかな?
まあいいや、わかるまでは放置でも別に問題ないだろう。
よくよく確認すれば、私を固定しているのは2脚1セットになっているバスの座席であり、右隣で気を失っている私の親友であり、腐れ縁の幼馴染であり、私の専属侍女をしている天璋院寿李ちゃんが、私と同様に座席にあるシートベルトで固定されていた。
おかしいね。
私たちが座っているのは、確かにバスの座席なんだけど、バス自体は負ったい何処に行ったのかな?そもそも、他の座席は何処?
そのあたりの事も、全くと言っていいほど理解不能な出来事に巻き込まれてしまったらしい、今日この頃・・・・・。
私たちだけが行方不明になっているのか、それとも私たちを含めたバスに乗っていた全員が行方不明なのか・・・・。まあ、どちらにしろ、盛大に迷子になっているらしい。
迷子なら迷子でも、別に構わないかな?・・・・・今のところは。
閑話休題。
さて見た感じ、今の2人の服装は、学校指定のセーラー服である事から、何かに転生したというわけではなく、また死亡してもいないという事だけは理解できる。つまり、何処かに転移したという事だ。
この状況を鑑みるに、・・・・異世界転移が最有力候補だろうね。
ちなみに学校指定の制服は、セーラー服と膝丈サイズのプリーツスカート。黒色のニーソックスと茶色のローファーとなっている。
ちなみに、セーラー服の下に着用するアンダーウエアは、学校指定の首まで覆うハイネックの黒い長袖Tシャツとなっており、結構暖かいのだが・・・・・。
現在の私は、白色のタイツ(学校指定のため色の選択肢はなし)まで装備した完全な冬仕様となっている。もちろん、隣に座っている寿李も、同じく白色のタイツ姿である。
だってね。
予定では、雪国新潟県に行く道中だったわけで・・・・・。
そうでなくても、地元では冷たい北風が吹く冬場は、膝丈スカートに素足では寒いのですよ。
なお、現在着用しているセーラー服は、当然ながら冬用であり、全体が白色の生地でできており、そこに黒色のセーラー襟とカフス。両方とも3本の白い線が入っている。スカーフの色は学年で異なり、私たち2年生は赤色のスカーフを襟に通している。
ちなみに夏服は、半袖セーラー服(インナーとして、半袖の体操服を着用するように指導されている)、春と秋の少し肌寒い季節に着るのは、生地の薄い長袖セーラー服(インナーは、夏用と同様となる)になるが、今は冬なので持っていない。デザインはすべて同じである。
この冬用のセーラー服では、少し汗ばんでいる事から、・・・・・というか、ハイネックの黒い長袖Tシャツと白色のタイツと相まって結構熱く感じている。最低限、このTシャツとタイツくらいは脱がないと、体温的に持たないと思っている。
現在私たちのいるこの場所は、所謂冬の気候ではなく、感じから言って初夏の気候に似ている感じだからだ。
もっとも、ここいら一帯に四季が存在しているのかどうかさえ、現状では解らないが・・・・・。
それ以外は何もなかった。何も解らなかった。何も知らなかった。
次は、この体が五体満足な状態かどうかだ。
シートベルトをしっかりと締めているので、現状で動かせる部位は少ない。その動かせる部位を動かしても、・・・・・変な痛みもない、・・・・・変に折れている感じもない事から、体に異常がない事を確認し安堵した。
体中が少々痛いという事は、むち打ち位はなっていそうだ。命あって物種なので、むち打ち程度は許容範囲だろう。
少なくとも現状を何とかできれば、移動する事が可能だからだ。
まあ、いいや。
次に、どうしてこんなけったいな状況下にいるのかを思い出してみる。
・・・・確か、クラス全員で1台のバスに乗っていたはずだけど・・・・。
・・・・考えなくても、関越トンネル内で起きたあの不可思議な現象が、一番の原因だという事は理解できている。
それはともかく、どうして座席同士が繋がっている寿李以外、誰1人としていないのは何故だろう?
バスの車体は、何処に行ったのだろうか?
それ以外の事は、何がどうしてこうなって、どうしてこんな場所にいるのか、想像すらできない。
疑問は尽きないが、とりあえず棚の上にでも挙げておこう。
何が起こったのかは知らないが、現状把握はこのくらいにしておこう。
そうだ!まずは、ここを脱出しないと!
しばらくの間、私は現状を考える事を放棄していだが、不意に我に還り、座席に固定しているシートベルトを外そうとしたその時。
私が大きく動いた反動で、座席が大きく傾き、支えになっていた木の枝の1つから落下する。
「ひ~~~~~!」
とっさに、隣でいまだに気を失っている寿李を抱きしめる私。座席は半回転し、頭の向きが地面を向く形で落下していく。そうして逆さまフリーフォールを、意図せずに体験してしまった私と寿李。寿李については、未だに気を失っているので、体験しているとはいい難い状況だけどね。
逆さまフリーフォールは、何も支えもないまま50メートルほど落下した後に、木の枝に引っかかって止まった。
天地が、逆になった状態で。
その落下の間、私たちの乗る?座席は、あちこちの枝葉に衝突して、座席がクルクルと回転する。逆さまフリーフォールどころか、レールのない無秩序軌道のジェットコースターだね、・・・・・これは。
いくら絶叫マシンが大好きでも、この絶叫マシンには乗りたくなかったな。
等と、現実逃避もちょっとしてみる私。
そんなくだらない事を考える余裕すらあった事を、少しした後に思い出して笑ってしまった。
「うっ!」
ついでに、落下が止まった瞬間、お腹の付近に大きな枝があり、勢いよくお腹を打ち付けてしまう。しっかりとは確認していないが、現状、微妙な形で枝に座席が引っ掛かっているみたいだ。
「ん~~~~・・・・・。」
不意に、抱き抱えている寿李から呻き声が聞こえた。さっきの衝撃で、目を覚ましたようだ。
「寿李、気が付いた?気が付いたところ悪いんだけど、あまり大きくは動かないでね?」
気が付いた寿李に対し、これ以上絶叫マシン体験をしたくない私は、必要最低限のお願いを付け加える。
「ここは、どこ?
知らない天井・・・・・・ではなく、何処までも続く青い空の方か~~~。
私は、・・・・天璋院寿李。年齢15歳の女の子。
ちっ!
記憶喪失まではいかなかったか。」
「その冗談は私もしたから、もうおなかいっぱいです。
というか、開口一番、私と同じ反応ありがとう!
それよりも、身動き1つせず、そのままの状態で聞いてくれる?というか、動かないでね?」
「ん~~~~~、わひゃった。
光莉ちゃん、おはよう?どうして私は、光莉ちゃんに抱きかかえられているのかな?」
寝ぼけ眼で、少し幼児化した寿李が答える。
私は、現状を寿李に説明する。
その過程で、寿李が地面を見てしまい、恐怖のあまり動いてしまったため、座席がさらに20メートルほど落下する。
しかしながら、地面を向いていた姿勢から、斜め上空を見るような姿勢になったため、とりあえずはまあいいかとする。どうも太い枝の付け根あたりにいるらしく、幾分安定感が増したいい結果に落ち着いた。
落下していく瞬間、私は『それにしても、やけに背の高い木だな』と、命の危険にさらされているのに、どうでもいい事を考えてしまっていた。
「寿李、なるべく動かずに、ゆっくりとシートベルトを外そうか。」
「うん、わかった、光莉ちゃん。」
私と寿李は、ゆっくりとシートベルトを外し、なるべく揺れないように座席から木の枝へと移った。そして、木の枝へと移った瞬間、反動で座席が落下し、地面に叩きつけられた衝撃で無残に破壊される。
その光景を見ながら、私と寿李は、木の幹に体重を預け、木の枝に滑るように座り込む。
地面までは目測で、50メートルほどの高さがある。ここから落下したら、きっと死んでいただろうと思うと、2人で抱き合いながら、安堵のため息が深く出た。
まあ、それはいいとして。
今の私たちは、非常にまずい状態であるという事だけは理解できる。
少し動いただけでこのありさまだ。ベルトを外している途中でバランスを崩せば、50メートル先に地面に真っ逆さまに落下する事になっていた。
とりあえず、当面の命の危機は去ったと思うが、まだまだ安心できない。
当面といったのは、先ほど地面に落下して大破した座席に、野犬の群れが押し寄せているからだ。
その野犬は、灰色の毛皮をしてはいるが、なんだか地球にいる犬や狼と少し外見が違っている。少なくとも、地球にいる犬科の生物の中には、足が6本あって額から羊のような角がニョキっと生えているモノはいないはずだ。
それはいいとして、あのまま座席ごと落下していたら、たとえ命があったとしても、あの野犬の餌になってしまっていただろう。
なので、“当面の命の危機は去った”と表現したのだ。
“命の危機”という話なら、いまだに続いている事になる。
「ところで、光莉ちゃん。」
「なに?寿李。」
「ここ、何処なんだろうね?」
「私も知らないわよ。第一地球には、こんなに高く聳え立っている大木なんて、私の知る限りどこにも存在していないはずよ?
目測でも私たちのいるこの大木、100メートル以上はあるからね。」
「それに、あんな6本足でひねくれた角をはやしている動物は、地球にはいなかったと思うよ。」
座席に群がる野犬の群れを眺めながら、2人して『此処はいったい何処なんだろう』と頭を捻って考える。現実逃避しているともいうが・・・・。
「さっき座っていた座席って、スキー研修に向かうために乗っていたバスの座席よね?」
「そうだと思うよ。寿李。それがどうしたの?」
私は、寿李の呟きにこう答える。
「・・・・でもそうなると、ほかの座席って、何処に行ったんだろうね?
そもそも、あの大型バスは何処に行ってしまったのやら・・・・。」
寿李も、私の感じた疑問を口に出して、頭をひねって考えている。
枝から周囲を見渡しても、バスらしき鉄の塊は何処にもなく、バスの座席も、先ほど地面に落下して破壊された、私と寿李が座っていたもの以外存在しない。
後は、どこまで広がっているのか想像もつかないくらい広大な大森林が、私たちの視界を埋め尽くしている。
先ほどまで見えていた青く広大な空も、木々の枝葉に遮られて、木漏れ日が漏れる程度にほとんど見えていない。
「この状況って、やっぱりあれかな?」
「・・・・・言いたくはないけれど、『それ』以外考えられないかな?でも、それを言った途端に、いろいろと捨てなきゃいけないモノが出てくるけどね。」
寿李の呟きに、私はこう答えるしかなかった。
私も、それしかないと確信はしているが、それを認めてしまった瞬間、何もかも失う覚悟がいる気がする。
でも、まあ・・・・。
それしか、考える事はできないわけだが・・・・。というか、そう考えたほうが、現状をすべて説明する事ができる『魔法の言葉』だ。
「・・・・関越トンネルに入ってからの出来事から、今の状況までを考察して導き出せば、そう考えるのが一番しっくりときますね。
まさか、自分自身の身に起こるとは、・・・・思いもしませんでしたが。」
なので私は、こう説明口調で答えた後、寿李に視線で合図を送る。
「「・・・・・異世界に来ちゃったのかな?」」
二人同時に、同じ言葉を呟いた。
こうして私と寿李の、異世界生活が幕を開けたのだった。