【03-02】ここが私たちの(この世界での)実家です(その1)
食事の後は、歩いて私達が当分の間暮らす鮮血の雷の本拠地に向かう。夕食を食べた黄昏時の麗し亭から、東に1ブロック進んで左折し、さらに2ブロック進んだ角地に、その本拠地はあった。
理由は・・・・・。
「ガイストさん、お風呂屋さんに行きたいんですけど、何処にありますか?」
食事の後に、私はガイストさんにこうお願いした。ここサクラピアスは、ムハマルド辺境伯領では有名な温泉街でもあり観光地でもある。町のあちこちに温泉が湧いており、志向を凝らした湯船を堪能する事ができるのだ。
これは、ぜひともいかないといけないと考え、食後にガイストさんにこう聞いてみたのだが・・・・・。
「それだったら本拠地で何か服を調達してからにしろ。風呂上りは汚い服よりも綺麗な服を着た方がいいからな。」
と言われた。
確かに、1日中着ているこの服を、お風呂上りにもう一度着るのは嫌だ。もうちょっとラフな格好(特に足元)で、お風呂に行きたいとも考えている。
という事で、先に服を調達するべく、ガイストさんたちの本拠地に行く事になったわけだ。
「鮮血の雷の本拠地って、服屋さんだったんですね・・・・・。」
「服屋っていうよりは、服飾関連をすべて扱う総合店っていう感じかな?ここは。服をはじめ、アクセサリーら髪飾り、靴なども売っているぞ。身につけるモノで、ここで売っていないのは防具と武器くらいだ。」
50m四方方度の土地に対し、40m×50mの3階建ての建物が建っている。その1階のほぼ6割を使用して、総合呉服商店『ミツバクレイミール』の店を構えていたガイストさんたち鮮血の雷の本拠地。
なおこの呉服屋を営でいるのは、ガイストさんの奥さんのミツハさんだ。そして、店員として、リュートさんの奥さんのアンズさん、サムさんの奥さんであるフミコさん、ミュートさんの旦那さんであるヨシオさんがいる。なお、この4人の名前を見ると分かるが全員元日本人で、元鷺宮学園2年6組の生徒さん。ただし、この世界に来たのは今から5年前で、私達と同じく(当時はCランクの冒険者だった)ガイストさんに拾われて、そのまま結婚して今に至っている。
なお、この店を始めたのは、結婚してからなのでまだ2年ちょっとらしい。
ちなみに、それぞれの本名(日本で名乗っていた名前)はこうなっているが、今になってはどうでもいい名前でもある。
ミツハさんが、鎗田彌葉
アンズさんが、松田杏子
フミコさんが、西脇芙美子
ヨシオさんが、安藤義男
4人とも、サクラピアスの北側(湖を船で渡った場所)にあるダンジョンの入り口付近で発見され、ガイストさんたち鮮血の雷に保護されたみたいだ。その時ダンジョンの第1階層にいて、ゴブリン数匹に追いかけまわされていたらしい。今ではいい思い出らしいが、当時はマジで殺されるかと思っていたらしい。
この時の詳しいお話は、あとで聞く事になっているので今は割愛しておく。
閑話休題。
懐かしき面々だけど、今は5歳も年上であり、全員が子持ちでもある。まあ、それはいいとして。
「向こうで着ていた服があったら、全部お金出して引き取るよ~~~~。」
という申し出をアンズさんから受けたので、早速一部を除いて売り払う事にする。もちろんバスから回収してきた服全部だ。元とはいえ、クラスメイト達の分もあるが、何処にいるのかわからない者の服を何時までも持っているわけにはいかないし、持っていてもしょうがない。さらに言えば、町の外での落し物?(・・・・・と言えるかどうかは知らないが)は、すべて取得者の者であり財産であると、(さっき確認した)コロラド王国の法律に書いてあった。
なので、2台分の服をすべてここで売る事にする。・・・・ここにいる7人が使用する分は除いて。
「たくさんあるけど、いい?」
「たくさんって?」
「2台分のバスに乗っていた、80人分の荷物全部?」
「・・・・・・それはまた、どうやって回収したのかな?そして、何処に持っているのかな?ヒカリちゃん?」
店先では無理なので裏庭に出て、【アイテムボックス】の中っから取り出す私。
「私のクラスだった2年1組の分は一応洗ってあるけど、ハルナたちのクラスだった2年2組の分はまだ整理もしてなくて、・・・・さらに言えばバスごとあるんだよね。とりあえずこの庭にバスを出すね。」
そう断りを入れてから、私は2年2組が乗っていたバスをそのまま【アイテムボックス】の中から庭に取り出した。
”ドカン”と着地したバスからは、少なからず水が出ている。ある程度は排水してから【アイテムボックス】にぶち込んだのだが、まだ排水しきれていないのだ。あと、バスの中で死んでいた者たちは、滝ノ水により滝壺内にすべて流されてしまっていたため、捜索困難なのでそのまま放置してある。
・・・・・今頃は、滝壺やその先の川などに棲んでいる、魔物の餌となっている事だろう。
「とりあえず、トランクルームの中の荷物を全部取り出しましょう。バスはまた私の【アイテムボックス】の中に放り込んでおくから。」
という事で、全員に協力してもらいながら、着替えの服・マタニティ用品・洗面用具などと、大まかに仕分け作業を行っていく。水浸しになっている服に付いては、魔術で作った巨大な水球の中に放り込んでおいてもらう。全部纏まったらそのまま洗濯をするためだ。
再び、まとめて取り置きしておいた洗濯洗剤を放り込んで水球の中をグルグルと高速回転させてお洗濯の開始です。洗い⇒脱水⇒濯ぎ⇒脱水⇒乾燥という工程をすべて魔術で会っている最中に、コトリに夕食を作ってもらいます。
衣服と一部の小物以外は、すべて全滅なのはわかっているので、潔く電化製品関連はゴミではなくて素材として後で分解します。金属部分を纏めれば、結構な量になるんですよ。どうせバスも、暇ができたら解体ですしね。
そうこうしているうちに洗濯が終わったので、ハルナたちと共に自分で使用したいモノを確保していってもらう。下着関連も、サイズが合えばすべて使用していくように伝えておく私。この世界でも同じ形状の下着なんだけど、肌触りや生地の素材などは全くの別物なので、使えるモノは他人のモノでも使っていかないといけない。
それに、ほとんどの人は、こういった団体旅行の場合、何故か知らないけど下着だけは新品を持ってきているんだよね。私もそうだったけど・・・・・。なので、新品と思っておいた方がいいのです。
その結果、全部合わせて30万テラほどになった。異世界産の素材の服はいい仕立てがしてあり、さらに丈夫で長持ちするそうだ。そのため冒険者など、外で働く職業の人たちに人気商品なんだそうだ。
約30万テラを7人で分けて、1人4万3000テラずつの収入となった。このおカネは、7人全員が町の門の詰め所で貰った『アイテムバック』と呼ばれている魔導具の中に入れておく。財布代わりだからね。実際、どれくらいの量が入るかわからないが、まだまだ余裕である。なお、先ほど仕分けした服などについても、この中に放り込んである。・・・・・(自前の【アイテムボックス】がある)私とコトリ以外は。
なおこれ以外にも、店のオーナーであるミツハさんが、1万テラ以内ならば店で売っている商品をくれるという話なので、早速店の中を探索する私たち。
所狭しと、服が並んでいる。奥に行くほど新品に近いようである。もちろん新品の既製品から、中古の服まで売られていた。手前(店の入り口方向)には、・・・・・たぶん奴隷用なんだろうが、襤褸布同然のモノもあり、本当にこれを着せるの?という服?が置いてある。値段も新品ほど高く、古くなるほど安くなっていく。奴隷用になると、十把一絡げで100テラとかという破格値である。
そして面白い事に、異世界でも服飾関係の事情は同じようで、男物の服と女物の服の売られているスペースが日本と同じ比率である。
服の値段は、ガイストさんに聞いていた通り、デザインと形状、あとは生地の素材などによって変化するらしく、女性モノに限ていえばワンピースタイプが一番値段が安い。上下を別々に購入したほうが、ファッション的には幅が広がるが、今の私たちの金銭事情ではワンピース一択である。
先ほどの臨時収入の4万テラは、明日からの当座の軍資金なので取っておきたいからね。
ワンピース1つとってみても、縫製が単純なものほど値段が安く、複雑になるほど値段が上がっていく。もちろん、使用される素材がいいものほど、値段が高いのは当然である。
やはりガイストさんに聞いていた通り、基本的に伸縮性のない生地でできた服は、デザインはどうあれ脱着を容易にするため、背中側にファスナーまたは、編み上げ式のリボン・ボタンがついている。そして、既製品のほぼすべてが、背中側が開くタイプとなっており、前開きタイプは探した中では皆無に等しかった。
上下が分かれた服は、ブラウスタイプのモノは前開きや横開きといったものも存在しているんだけどね。
履物は、膝丈まである革製(何の革なのかは知らない)で、靴底もしっかりとした踵の低い編み込みのブーツが基本の形状らしく、旅人の女性は、基本的にこのブーツを愛用するみたいだ。
逆に街中で履くタイプは、踵くらいの長さの革製もしくは布製の靴か、踵のついたサンダル状の靴となる。男性の靴も、基本的な形状は似たり寄ったりだ。
なお、一応靴下もあったので、購入済みである。平民裸足でという文化はないらしい。というか、ここサクラピアスの冬は寒いので、(町中なら)何処にでも靴下は売っているのだ。
ここで私たちは、お風呂から上がった後の着替え用でもある町着用の服と、明日からの着替え用の服装(これは、町着用と外着用の2種類)を数着、あとは今晩からの寝巻用のラフな服装を数着購入?する。もちろん靴などの服以外のモノも購入し、1万テラよりも足が出た分は支払いをする。
男は出なかったけど、女の子はたくさん購入するため、どうしても足が出てしまうんです。
なお、明日からの洗濯については、私がいっきに行うのか、それとも各自が洗濯板などを購入してゴシゴシと行うのかは、・・・・・・まだ分からない。私は何も聞いていないし、聞いていない以上、勝手に行う事は出来ない。・・・・・コトリの分は除くが。
もちろん、これから先暫くの間は、この鮮血の雷の本拠地で暮らしていく事になるので、家事のお手伝いは喜んで行っていく予定である。何をするのかは、まだ決めていないが・・・・・。
さて、着替えの服も確保した事だし、最寄りの温泉へとレッツゴーです。なお、お風呂関係の施設の閉店時間は、基本的に日没から数えて3つ目の鐘が鳴る時間までである。ちなみに開店時間は、日の出とともに始まるところが多い。
ちなみに、時間の数え方を改めて言うが、1日の長さは24時間なんだけど、時刻を知らせている鐘の音は、日の出から正午、正午から日没、日没から正子(午前0時)、正子から日の出の間に、それぞれ6回ずつ鳴らされ、時間を追うごとに順に1回ずつ鳴らされる数が増えていく。
なお、それぞれの時刻の数え方は、日の出から正午までを『朝2つ』、正午から日没までを『昼1つ』、日没から正子(午前0時)までを『宵3つ』、正子から日の出までを『明け5つ』と呼称している。
すでにお店は閉まっているので、皆でゾロゾロとアジトの近場にある温泉施設へと歩いて移動する。なお、ここサクラピアスでは、あちこちに温泉施設が点在しているため、基本的に平民の住宅にはお風呂場はないそうだ。お風呂場がある住宅(鮮血の雷の本拠地には、お風呂場があるみたいだ)もあるが、そういった場合でも、湯船に溜めるのは更湯ではなく温泉である。当然、貴族の邸宅は、すべて温泉付きのお風呂場であり、街中にある宿屋にはすべて温泉が敷かれている。
そんなこんなで到着した温泉施設は、『松の湯温泉』という、なんだか下町の銭湯にありがちな名前の温泉施設だった。もちろん公共浴場なので、混浴ではなく男女別である。
・・・・・ここサクラピアスにもあるが、混浴の公共浴場もあるらしいが、入浴料が倍以上するらしい。たいていの場合、混浴できる場所は娼館内にある入浴施設となる。
なお、ここ松の湯温泉は男女別であり、入浴料金は大人が250テラで、子供(15歳未満)が120テラである。




