(7)横転した馬車を発見しました
「これの確認してなかったな、あそこでは時間がなかったけど。」
「そういえばそうね。全部合わせると、どのくらい入っているのでしょうか?」
そして、中身をすべて取り出してその数を4人で数えていく。その結果。
裏面に『1』とこの世界の文字が刻まれている小さい銅貨(1円玉くらいの大きさ)が合計で190枚。
裏面に『10』とこの世界の文字が刻まれている大きい銅貨(10円玉くらいの大きさ)が合計で300枚。
裏面に『100』とこの世界の文字が刻まれている小さい銀貨(10円玉くらいの大きさ)が合計で450枚。
裏面に『1000』とこの世界の文字が刻まれている大きい銀貨(100円玉くらいの大きさ)が合計で200枚。
裏面に『10000』とこの世界の文字が刻まれている小さい金貨(100円玉くらいの大きさ)が合計で50枚。
裏面に『100000』とこの世界の文字が刻まれている大きい金貨(500円玉くらいの大きさ)が合計で10枚。
合計で、(お金の単位は解らないが)結構な量の貨幣が手に入った。
翌朝、見つけた街道をそのまま突き進んでいく。
見つけた街道は、川の流れに沿うように作られているため、炎天下で結構蒸し暑いのにもかかわらず、いい風が吹いてきて気分的には涼しく感じている。
街道をしばらく歩くと、今まで歩いていた街道よりも倍以上幅の広い街道に交差した。十字路の端っこには、石柱が建てられており、そこには見た事のない文字が彫られている。
その文字は、地球に存在する有名どころの文字とは異なっており、俺たち4人は誰1人読む事ができなかった。・・・はずなんだが、なんだか知らないが、何と書かれているのかを理解できる。標識に書かれている文字は理解できるが、そこに書かれている町の名前を見ても全く聞いた事のない町の名前だ。
「とりあえず、どっちに向かうかだよね?どっちに行く?右?左?それとも、正面?文字は読めるけど、この町がどんな街かは知らないよ?だから、どっちが正解なのか知らないけどね・・・・。」
「・・・・・そうだね。異世界の町の名前が分かっても、どんな街なのかが解らないからね。文字が読めても意味がないよ、・・・・・・これ。」
右か左か正面か・・・・・。
どちらかに行けば、あの町へと続いているはずだが、森の中を彷徨い歩き方角があやふやになっているため、俺たち4人はどちらが正解なのか解らない。目の前のどの街道も、大きく蛇行しており、視認できる範囲でも上り下りしており、森の木々も邪魔をして遠くまで見渡す事が、この場所からでは困難である。
「どっちが正解かわからないんだから、・・・・・ここはテンプレ通り棒倒しで決めようか。
ちょうどここに、杖代わりに使っている(どんな魔物かは忘れたが)魔物から奪った棍棒があるしね。」
そんな事を言って、手に持っている杖代わりの棍棒を掲げてみせるマコト。
「それが無難かな?」
「・・・・じゃあ、たとえ遠回りのルートになっても、恨みっこなしで。」
棍棒が指示した街道を進む事2時間余り。
周囲が薄暗くなったころ、街道沿いに少し広くなった場所を発見した。中心あたりに、火を焚いたような跡がある事から、野営する場所だとあたりをつける俺たち。
今日の日程はここまでとし、手分けして野営の準備を始めていく。俺とケンジは、周辺の森へと入って行って枯れ枝をかき集めていく。マコトは、いつものテントを設置してから、【アイテムボックス】の中に放り込んである枯れ木に火をつける。マナミちゃんは料理当番である。
ここまでくる道中でも枯れ枝集めはしており、すべてマコトの持つ【アイテムボックス】の中に格納してある。しかし、こういったモノは、集められる時に集めてかないと、いざという時に集める事すらできなくなってしまう。なので野営の設営時には、何もする事がない俺たちが、必然的に枯れ枝集めを行う事になっている。
翌日の朝食後、遠くに霞んで見えた街らしきものに向けて、ひたすら森の中を歩き続ける。そして出会った魔物を、戦闘訓練の名目で殲滅していく。もちろん個人のみの戦闘と、4人での連携時の戦闘等を交互に繰り返していく。とにもかくにも、戦闘訓練だけは欠かさず毎日行っている俺たちだ。
昼頃に森を抜け、街道は草原地帯を横切る形になった。
森を後にする前に、立ち木を100本ばかり切り倒して、【アイテムボックス】の中に格納しておく。
これから先、纏まって材木が手に入るか分らないからね。手に入る時にまとめて入手しておいたほうが得策である。幸いにも、俺たちの【アイテムボックス】は、無限にモノが入るらしく(実際はそうではないが、気にしたら負けだと思うような大きさなので、ほぼ無限と言える)、中の時間も停止しているためどれだけ入れても手ぶらというのがいい。もちろん、森の中で見つけた木の実は、可能な限り採取している。
そんな街道を歩く事2時間余り、前方に馬車が立ち往生・・・・・というか、道端に横転してしまっているのを発見する。
馬車の周囲には数人の騎士らしき格好をした人物が、周囲を警戒している様子が見受けられる。馬車のほうも俺たちを発見し、お互い警戒しながら距離を詰めていく。そして、5mほどの距離を話して俺たちが止まると、馬車のほうから話しかけてきた。
「こんにちは。徒歩で旅とは珍しいですね。」
「嘘だと思ったら笑ってくれてかまいませんが・・・・・。
俺たちは、この世界ではない違う世界から来ました。たまたまこの先にある森の中に、ここにいる4人で放り出されまして。何とか街道を見つけて、今に至ります。
たまたま戦闘ができたので、道中に出くわした魔物?たちを倒しながら来ましたが、戦闘できなかったら今頃それらのお腹の中ですね。
ところで、そちらはいったいどうしたのですか?
そういえば、自己紹介がまだでしたね。
俺はコウタといいます。俺の右隣で腕を組んでいるおと・・・・・いや、女の子はマコトといいます。後ろにいるのがケンジとマナミです。」
事前に話し合った通り、俺たち4人は当分の間、苗字・・・・家名をを名乗らず名前だけを名乗りあう事に決めている。テンプレ的には、家名を名乗る行為は、特別な意味を持っている事が多く、上流階級の特権みたいな感じで描かれている事が多いからだ。
男の娘と言いかけたところで、腕を組んでいるマコトから抗議の視線が飛んできたので、慌てて女の子と言い直す。まあ、今のマコトは女の子だからね。すでに男の娘ではない事を改めて思い返した。
俺たちが自己紹介を終えると、今度は馬車の人たちの自己紹介となる。
「我々は、コロラド王国にあるカスタード辺境伯の関係者です。馬車の中には、辺境伯のご息女であるテレサ=センダレス様と、今回同行している侍女が2名乗っております。
今回の旅の目的は詳しくは話せませんが、隣国チャイナリスト王国との親善となっております。なお現在は、この先にあるチャイナリスト側の国境の町・ウンナムノーチスで行われた親善パーティの帰りとなります。
ちなみに私は、今回の旅の全体を指揮しております、護衛騎士の隊長を務めているトムソンといいます。
自己紹介は、これくらいにしておいて。
現在我々は、見ての通り馬車の車輪が壊れてしまって途方に暮れている次第です。また技師がいないため、修理もできません。技師がいたとしても、材料がないため修理できないのですがね。
護衛騎士は、今ここにいる5人のほかにあと4人いますが、その4人は食糧や薪の確保のために出ております。そろそろ日も暮れてきているので、今晩はここで野営をしようという話になっております。」
どうも話によると、数日前に降った雨の影響で街道にできた轍が泥濘になっていたそうだ。その時泥濘に車輪がとられて、街道脇に滑り落ちて横転。その結果、片側の車輪が壊れて身動きが取れなくなって今に至っているそうだ。確かに、街道のあちこちが泥濘かしており、グリップのない木の車輪(一応薄い鉄の板は巻いていあるが)では、この路面では滑ってしまうだろうし、いったん滑ってしまったら立て直しなどできないだろう。
なお、馬車が横転して身動きが取れなくなったのは今から2時間ほど前で、横転してしまった事により社内に乗っていたテレサ様と侍女が2名が骨折や打撲などの大怪我を追ってしまい、現在は馬車の外で寝かされているらしい。なお、どうこうしている騎士の中には、回復魔術が使用できる者は存在しておらず、添え木を当てる物理的な物理的な骨折の利用法のみを施しているらしい。
「マナミちゃん。」
「ええ、わかっているわ。私に、テレサ様たちを見せてもらえませんか?」
俺はその話を聞くや否や、すぐさまマナミちゃんを呼ぶ。マナミちゃんもすぐに応えて、治療を始めるための準備に取り掛かる。
「彼女・・・・・マナミちゃんは、治癒魔術のエキスパートです。きっとお役に立てると思います。」
何故マナミちゃんを呼び出したのかを誰何してくる騎士様に、マナミちゃんが治癒魔術のエキスパートであり、たいていの怪我なら治す事ができると伝える。
それを伝えると、騎士たちの動きが迅速になり、すぐさまマナミちゃんと、助手としてマコトがテレサ様のもとに連れてかれる。緊急時ならともかく、たぶんあられもない格好で寝かされているだろうテレサ様たちを見るのも何なので、俺とケンジは、その場に残って警戒のふりでもしておく。何か用があるなら、向こうから呼びに来るだろう。
ただし、とっても暇なので、俺たちでもできる事をしておこうか。
「ところで、トムソンさん。この馬車、これからどうするんですか?」
「もちろん修理して使いたいと思うが、修理箇所が車輪だからな。俺たちでは、どうにも手が付けられンのだ。最悪、馬は無事なので、テレサ様を馬に乗せていくしかないだろうとは思っている。」
俺の簡潔な質問に、トムソンさんはこう言い淀みながら答えてくれた。さすがに、怪我人だった人を馬に乗せていくのは憚られるのだろう。
「ケンジ、できそうか?」
「しっかり見て視なければ判断は出来んが、見た感じ車軸と車輪だけが故障個所だろう。最悪乗り心地を犠牲にすれば、何とか応急処置くらいは可能だと思うぞ。修理する材料は、先ほどたくさん伐採してきたしな。」
「そうか、じゃあ大丈夫だな。トムソンさん、俺たちで、馬車の修理をしましょうか?一応ここにいるケンジは、そういった事を結構齧っていますので。先ほどケンジが話していた事を了承していただければ、何とか走らせるところまでは修理できると思います。」
「おおそうか!礼金は、テレサ様の治療と共に後払いになるが、よろしく頼まれてくれるか?」
「はい、それでいいですよ。今おカネを貰っても、ただの荷物にしかなりませんしね。」
では、馬車の修理を始めていきましょうか。
「ケンジ、このままひっくり返っていた方が、修理は楽か?」
「そうだな。このままの方が楽だな。なんせ修理箇所は、車軸と車輪だからな。」
「マコト~~~~。」
俺は、馬車の移動要因としてマコトを呼び出した。トコトコと俺たちの方に来たマコト。
「済まんが、この馬車をこの状態のまま、道の上まで持ってきてくれないか。」
「ああ、いいよ。・・・・あそこの乾燥している場所でいい?」
「そうだな。そこに頼む。あとは、さっき伐採した木をそこらへんに積み上げておいてくれ。」
マコトが適当な魔術を使って、馬車を乾燥している街道の上に移動する。もちろんひっくり返ったままの状態である。そして馬車の横に、先ほど森を出る際に伐採しておいた木を、【アイテムボックス】から適当に取り出して積み上げていく。
「この位でいい?」
「ああ、たぶんこの位あれば大丈夫だ。足りなくなったらまた呼ぶから、その時は頼む。」
ケンジからの言葉を受けて、マコトはマナミちゃんの方へと走っていく。さて、俺たちは、俺たちの仕事をしましょうかね。
「じゃあまずは、壊れていない車輪も取り外しましょう。どうせ車軸も折れてしまっているので、交換が必要ですしね。」
俺とケンジは、トムソンさんたちにも手伝ってもらって、車輪と車軸の分解を始める。車軸まで取り外した後、ケンジは馬車の底面をしっかりと確認する。軸受けの部分をしっかりと調べている感じ、交換が必要かもしれない。
「どうだ?」
「スプリングは問題なし。ただし、軸受けは大きな力が掛かっていて罅が入っているから交換が必要だな。」
「そうか・・・・でも、軸受けは金属部品だから、交換するにしても代用品はないぞ。」
そんな事を言いながら、俺は周囲の景色を見渡していく。
・・・・・・ん?
・・・・・ちょっと待て?あれって。
「・・・・・ケンジ。」
「なんだ?コウタ?」
「あれってさ、・・・・・何に見える?」
「なにって・・・・・・!!!!」
俺が、指さした方向の湿地帯に目を向けるケンジ。そこに何やら懐かしいシルエットがあるのを、ケンジも発見したようだ。
「どう考えても、あのシルエットって、自動車・・・・・それも1BOXに視えるんだが。ケンジ君の見解は?」
「それも、そう思うな。しかしなあ・・・・・。とりあえず確認だけはしておかないと、あれがそうだとは断言できんぞ。」
という事で、再びマコトを呼び出し、1BOXらしきシルエットをした何かを、ここに転移してもらった。その結果、誰の持ち物だったか知らないが、1BOXという素材の塊を手に入れた俺たちだった。トムソンさんたちには、これが何なのかを説明し、ここからいろいろと取り出せば、馬車の修理も、とりあえず走れるだけの修理ではなく、完璧に修理できると断言するケンジ。
「これで、馬車の修理がはかどるな。」
そうして、大きなおもちゃを与えられた感じになったケンジが、1BOXを嬉々として解体していくのだった。なお、馬車や1BOXを解体していく道具は、ケンジの自作(元はあの巨大魚やワイバーンの骨などを加工したモノだ)である。